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ウォルバーと私  作者: 一ノ瀬きなこ(吉菜小)
第二章
17/41

第16話 意義

 久々のアド・リティーム。ジョセフがお仕事しています。


 なのに、シリアス。えー、アド・リティームならアホみたいな学園コメディみたいに進めたいのですけれどもぉ。早く、ホッとできるお話を書きたいでやんす。

「ジョセフ弁護人、調査結果がさっき届きました。正式な告知まだですけど受け取れますよ」

 ドアを叩くのは、仲の良い女性事務官だ。

 訴訟機関の資料室で書類をめくっていたのを見かけて、声をかけてくれたようだった。

「正式告知受ける前だと、不正とされないかしら」

「大丈夫、告知書はちゃんと発行しますから」

 神が見ているこの街だが、大目に見られることがままある。なぜかはわからないが、神の考えていることを全て理解できるほど、人は賢く無いといつも諦めるのだ。勤勉に法に向き合っていればいつかは何かに気がつけると将来の自分に期待をする。

 ただ、薄々とある気づきの中で思うのは。ルールを守る事が優先されるのは当然であるが、ルールを守る事よりも何か大事な、正義の鉱脈があるらしいという事であった。


 アド・リティーム内の女性たちは私を女性代表に担ぎ上げるような節がある。女で唯一、法律学舎を卒業できたというのはその理由の1つだろう。とはいえまだ自立もできていない。この街では政治的なパイプが必要不可欠であることは十二分に理解している。女性の支持を集めておくことの重要性は分かっているが、こそばゆいのが実際のところだ。


 調査結果を持ち帰る前にざっと目を通していて、ある一枚の紙面で手が止まった。

「この書類はついさっき準備が済んだって言ってたわよね」

 資料から目を上げて、窓口で受け渡し手続きを行っていた事務官に声をかける。

「ええ」

 真鍮の柵の向こうで彼女は頷いた。

「調査人はまだいるかしら、もうここから出ていたら後で尋ねるけれど」

「確か、別の報告が残ってるって言ってました、探してみます」

「面談申し込み手続きだと時間が空いてしまうから、もし捕まったら見たものが鮮明な今のうちに少し話を聞きたくて。直接捕まえられれば、面談予約手続きなくても話すことは可能よね」

「ええ、少し待ってて、多分まだ間に合います」

 席を立ってパタパタと走っていく、彼女を見送りまた資料に目を落とした。一国に関わる依頼だ。軽くはないと思っていたが、覚悟が足りなかったかもしれない。 頭を抱えるように、肘をつき、それでも書類から目を離せなかった。


 談話室ではなく、きちんとした個室を用意してもらう。

「ごめんなさい、急に」

「いいえ、仕事なのであれば」

 向かいで、フードを深くかぶり顔を隠す青年が調査人であった。公正性の化身。彼らはそう呼ばれている。

 調査人はアド・リティームで重要な地位を占める職業である。訴訟において証拠の説得力が最も重要であるといえるからだ。物的証拠では限界があり、当人たちの証言も限界がある。また客観性も重視されることから、調査人が現地で見たもの聞いたことを記録して持ち帰る、その調査人の作成する証拠は信頼性の高いものとして認識されていた。彼らは神にその身を捧げ、訓練を受けて育成される存在であった。

「事が事だったものだから急いだの。調査から戻ったのは」

「昨日の真夜中です。移動中に書類自体はまとめてあったので、最終処理だけしてすぐに提出しました」

「これは、本当に動かない事実なのね」

 先ほど、彼を呼ぶことを決意させられた資料を机の上に出してスライドさせ、トンッと指をついた。そこには彼が見たものの写生とそれがなんであるかが記してある。

「ええ、事実です」

 表情の見えない彼は確かに告げた。その言葉に、じっとりと嫌な汗が額に浮んだ。

「他の人間に服を着せてそう見せかけた可能性は」

「焼けた衣が肌に張り付いていました。城の中に残っているハイケーンに仕えていた老婆に確認もさせました。城を機能させるために捕虜として働いていたものです。その者によると王と王妃はその日その衣を身につけていたと」

「そこまで潜り込むなんて。私は危険な調査を私は頼んでいたのね」

「ジョセフ弁護人の依頼では非常に重要な事項だと判断したので当然のことをしたまでです」

 机の上にある絵に描かれているのは、王冠を載せられたまま焼かれ城門に吊り下げられた国王と女王の亡骸。

「それでは、国は襲撃を受けたどころか滅びたのですね」

 リアの部下である、あの騎士二人は妹御のことしか報告しておらず、国王と王妃もてっきり人質にされていると私は考えていた。リアはこのことを察しているのか。その辺りのことについて、私たちは話題にしたことがなかった。

 調査人は首を傾げ、呟いた。

「私は詳しくはありませんが、訴訟が拒否されないで未だ生きているのを見ると、神はそうお考えでないのでは。国が認められなかったのであればこの訴訟には意味がなくなります。訴訟に意味がないと見なされれば、この証拠提出も認め印に色がつかないはずです」

 以前聞いた事がある、調査人が私情を挟んで証拠が虚偽のものになったり訴訟自体に意味が消失したりした場合、証拠を認める印を押してもなぜだか紙にインクが写らなかったと。

 今回も、国が滅びたと神が考えたとすれば、この訴訟は意味がなくなり、どこかのタイミングで、手続きが滞っていたはずである。

「それでは、なぜ」

「わかりません。ハイケーン領の国王の掟が何をもって国が国であるとしているかによるのでは」

「調べて見ます、ありがとう」

「あの、最後に。今後も調査したことについて面談があるのはわかっていますが、お伝えしたい事が」

「ええ、お聞きします」

 調査人は公平であることを重要視されている。しかし、この時の彼の声には感情が乗っているように思えた。

「ノースの行いは行き過ぎて残虐です。訴訟でノース領の者がこのアド・リティームに来るなら、念のため、依頼者の身を守る措置をとった方が良いかもしれません」

 ノースの残虐さは資料から十二分に知れたことであった。


「リア」

 せっせと水汲みをするリアに私は控えめに声をかける。

「お話、できるかしら」

「しばし待て」

 私は桶の一杯でも、ひいこら言って運ぶのに、彼は桶を二つ担いで平然と返事を返して来る。甕に水を移し上着の裾で手を拭う。

「聞こう」

 お勝手の腰掛けを私に勧めて来る姿に紳士としての教育を垣間見た。

「訴訟に必要な調査結果が届いたんです。その中で見て欲しい者があって」

 件の絵と文書を、傍の椅子に腰を下ろしたリアに差し出す。

「ご両親のこと、その、すごく」

「母上までも、つるし首か。つるされて、その上で焼かれるとはな」

 その物言いは、気の短い彼にしてはひどく落ち着いていて。何を思っているか察せられる。

「もしかして、リア、あなた」

 ひどく爽やかに、そして悲しげに、建物に区切られた空を見る彼の瞳。

 土壁の石造りの家々の薄ぼけた色に空の青が鮮やかであった。

 なんで、いつものように怒鳴ってくれないの。

「部下からも連絡が断たれた。おそらく妹も取り戻せないだろうな」

「そんな」

「王族であるということは、そういうことだ」

「そんな」

「お主が悲しそうな顔をするいわれはなかろう。いつものように眉を顰めておれば良かろうて」


「それでね」

 しばらく何も言えなかったが、告げねばなるまいと思いもう一つ言わなくてはいけないことを伝える。

「それでね、城が落とされて、国王、王妃がなくなってもこの訴訟が生きているということは、神がこの国はまだ滅びていないとお考えになったということになるでしょう」

「うむ」

「先ほど、なぜなのか、ハイケーン領の歴史を記した書物を調べてきたの」

 該当箇所を見つけるまでに、随分と苦労した。

「ハイケーン領は、事前に王位後継者が決定されていた場合、臣下の承認や儀式を経ずに、その実質が自動的に継承されると」

 意を得ない表情を浮かべた彼に、私は、言葉を紡ぐ。これは歴史が動く一言になると自覚の上で。

「この制度に変更がないならば、あなたは王になったということよ」

「どういうことだ」

「あなたは、もう既にハイケーン領の国王なのよ」


 なぜか彼は、家族の死には動揺しなかったのに、彼自身が国王になると聞いたとき、ひどく驚いた表情を浮かべていた。

 昨日、なんで「更新できる」って言ったのだろう笑。今5時です。ギリギリ。


 Twitter以外で更新について小説になろうしか見ない方へのお知らせを告知できるシステムってあるのかな?

 次は、4日月曜日朝6時に更新いたします。

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