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砲迫

別の山間部を縫って偵察を続けていた公国軍偵察部隊が、進行予定のルート上に何かを発見した。


「あれは……なんだ?」


山間部を縫うような道の上に現れたのは、土袋を詰め込んだ金網の様なバリケードと監視塔。

入口や監視塔には銃座が据え付けられており、明らかに山岳民兵のものではないと理解した。


極めつけは、塔の上で監視に付いている兵士が、周囲に溶け込みやすい緑の斑服を着ている事だった。


「傭兵の防御陣地か……将軍に連絡するぞ」


偵察部隊はすぐさま後退、ガーディアンの防御陣地発見を通報する。


「敵陣は土袋と金網で防御壁は低く、弩砲(バリスタ)投石機(カタパルト)のような装備は見当たりません」


見えない所から飛んでくる魔術の流れの無い爆発、帰還しない翼竜、そして見た事無い防御拠点……将軍は確信する。もはやこの地にガーディアンが展開しているのは確実だった。


「規模は?」


「小規模の様です、30人から40人程度と思われます。魔力の流れも無く、敵に魔術師は不在の様です」


将軍は思案する、攻撃が止んでいる今、いつまでもここで立ち往生は出来ない。部隊は“魔石鉱山奪取”という目的の為、前進しなければならない。

幸い、奴らの攻撃の威力は重装トロールで防御可能だという事は、頭上から降り注いだ“鉄の雨”で撃破された重装トロールが居ない事で示されていた。


魔術師が居なくとも、敵の長距離攻撃は魔力の流れを一切感じなかった。油断は出来ない。


しかし、迂回するにしても両隣が急峻な崖に挟まれたこの地形、単純に迂回は望めない。もし迂回するなら、来た道を引き返して別の谷を進まなければならなかった。それは大きなタイムロスとなり、致命的な隙を生む。


「……伝令」


「はっ」


将軍は伝令を呼ぶ、遊撃戦で相手の消耗を期待するのは、時間がかかりすぎる。下手をすると、再びこの山が雪に閉ざされる季節まで膠着しかねない。


「本国へ連絡、増援を要請。敵の防衛線は堅牢だが、物量で踏み潰し、呼び寄せた本隊で突破口を抉じ開ける」



========================================


「おい……本当にこんな方まで来て良いのかよ?」


公国軍の遊撃隊が山中を進軍する、重装トロールは森の中でも目立つ為、姿勢を低くさせ、緩慢な移動を余儀なくされていた。


「将軍の命令だ、敵部隊を捜索して攻撃するって命令を聞いていなかったのか?」


「それはそうだけど、こんな広い山の中でそう簡単に敵部隊が見つかるか?」


山岳民兵は“ガーディアン”と手を組んでいる、その情報は既に公国軍の間でも出回っていた。

先にこちらを見つけ、公国軍のものを上回る射程と威力の銃だけでなく、とんでもない連射速度をもつ大型弩砲、凄まじい射程と命中率を誇る投石器(カタパルト)を持つ傭兵団に対し、公国軍の遊撃戦が本当に有効なのかという疑惑が薄く霧の様に広がっていた。


「見つけるんじゃなくて、遭遇したら攻撃すれば良い……開けた場所に出るな、見つかるぞ。部隊を森から出すな」


疎林地帯の木々が切れ、草原が広がる場所の外縁をなぞる様に公国軍が進む。

先頭を進む斥候がルートを慎重に探っていた時、何かに気付いた様に顔を上げる。


「どうした?」


「何だ?この音……」


他の斥候も耳を澄ます、空気を揺さぶる様な音が、だんだん近づいているのを感じた。音に反応した重装トロールを、調教師(テイマー)は鎖を引いて宥める。


「近いぞ……散れ、姿勢を低くして隠れるんだ」


身を隠しながら公国兵がその音の源を探す、山に反響して方位が探りづらいが、音は大きくなりつつある。


敵か、それとも自然現象か。


音の源が姿を現した時、公国兵は驚愕した。


「何だアレは……!」


兵士の言葉は、その音に掻き消される。彼らが見たのは、横倒しになった風車が空を飛んでいるような、奇怪な姿だった。




上空をM119A3を吊り下げたUH-60Mが飛行している、次の砲撃陣地へ移動する為だ。事前に選定した陣地へ、あるいは応急的に展開可能な陣地へとホッピングを繰り返しながら砲撃を繰り返す事で、火点の特定を防ぎ、公国軍の竜騎兵部隊の追撃を回避しつつ砲撃を続けている。


また1隊、空中機動砲兵が別の展開地点上空に差し掛かる。


『シェルパ3-1、ポイント2-Bに到達!赤外線スウィープ始め!砲兵展開に備え、見張りを厳にせよ!』


UH-60Mの機首にある赤外線前方監視装置(FLIR)が、待ち伏せに備えて周辺の赤外線反応を探る。


「……ん?」


機長が周辺の木々の隙間に白く浮かび上がり、僅かに動く赤外線反応を探知した。

すぐさま無線のPTTスイッチを押し、部隊に通告する。


『地上作業支援員、Abort(降下中止)!, Abort(降下中止)!, Abort(降下中止)!赤外線探知!何か居る!』


地上作業支援員を乗せたUH-72Bが着陸を止め急旋回して退避、同時にUH-60Mのドアガンとして搭載されているM134Dミニガンの射手(ガンナー)に緊張が走る。


『ガンナー!方位280、林縁内!警戒せよ!まだ撃つな!射撃待て!』


最も近い位置にいる2機の左舷側のM134Dの銃口が林縁に指向され、ガンナーの指がトリガーにかかるが、まだ撃たない、味方部隊の可能性を考慮して、「射撃待て」の命令が出た。




「おい、動きが止まったぞ」


公国兵は“空飛ぶ風車(ヘリコプター)”が、ガーディアンのものであると予想はついていた。コレは公国兵にとっても、そして部隊全体にとっても、山岳民兵とガーディアンに打撃を与える又とないチャンスと思い、待ち伏せを決意。


そして翼竜(ワイバーン)と同じ様に着陸時の無防備になるところを狙うつもりだったが、標的は着陸どころか上空に留まったまま、ピタリと動きを止めてしまった。


「まさか、見られたのか!?」


「いや、こっちは森の中だ、見える筈がない!」


見られたのか?薄暗い森の中の動きを?見られたならとっくに死んでいる筈だ、ならばなぜ降りてこない?そんな恐怖と疑念が公国兵に蔓延し、睨み合いが続き、ニルトン・シャッフリル銃持つ公国兵の手が小刻みに震える。


今動けば待ち伏せは露呈する、しかし今ここで逃せば、もうチャンスはない。そんな焦燥感が彼らを支配するのに、そう時間はかからなかった。


「……今しかない」


「行くぞ!」


「おい馬鹿!待て!」


指揮官は制止したが数名の公国兵が堪え切れずに立ち上がり、ニルトン・シャッフリル銃を構えて突撃、その数名に煽られる様に、部隊の半数以上がガーディアンの“空飛ぶ風車(ヘリコプター)の方に向かっていく。あろうことか、重装トロールまでだ。



『公国軍の待ち伏せだ!』


上空のUH-60Mは赤外線反応が立ち上がり、こちらに向かってくる赤外線反応を補足、そして林縁から出て来る兵士を見た機長の判断は早かった。


『公国軍だ!敵だ!撃て!撃て!撃て!』


機長の号令と共にガンナーのM134Dが火を噴いた。あまりの発射速度故にノイズの様にしか聞こえない凄まじい銃声が空気を震わせ、毎分4000発の7.62㎜NATO弾が公国兵をまるで草刈り機の様に薙ぎ払っていく。


『サミット、こちらシェルパ3-1、公国軍の待ち伏せ攻撃を受けた!砲撃地点は危険!現在応戦中!』


機長が離脱方位にゆっくりと機首を向け、シェルパ3-1の射界から公国軍部隊が外れた後、射撃は後続のシェルパ3-2と3-3が引き継いだ。

ミニガンは機関銃だが、その扱いは“射程の長いショットガン”に近い。猛烈な勢いの射撃が、森から出て来た公国兵と、林縁内に隠れているであろう公国兵に向けられる。


重装トロールへ向けての射撃も行われたが、重装トロールが着ている鎧は7.62×51㎜NATO弾でも貫通出来ない程厚い、装甲に命中する音で驚かせ、足止めするのがせいぜいだった。


『シェルパ3-1、こちらサミット、了解した。速やかに離脱し、ポイント4-Cへ向かえ』


『シェルパ3-1、了解!離脱する!シェルパ3-1より全シェルパへ!離脱せよ!ポイント4-Cへ転進!』


『2』


『3』


吊り下げているM119A3榴弾砲の落下や絡まり、事故にならない様に気を配りつつ、6機のUH-60Mと1機のUH-72Bは急速離脱。


離脱中も公国兵に対しても射撃は継続し、公国軍部隊に7.62㎜NATO弾の暴風を浴びせ続ける。弾丸が地面を切り裂く音、太い木の幹を砕く音、岩や重装トロールの装甲表面で弾かれる音が、銃声と共にその場を満たす。


生き残りの公国兵が遮蔽にしていた岩や重装トロールの陰から顔を出せたのは、ヘリがミニガンの射程を出て射撃が止んだ後、ニルトン・シャッフリル銃など、到底手の届かない場所まで遠ざかってからだった。



========================================



「撃て!」


号令と共に監視所(OP)に配備されている2門の120㎜重迫撃砲が火を噴いた。


OH-1B観測ヘリコプターの情報を元に諸元を調整し、放たれた砲弾は7㎞先から監視所(OP)に向かって来る公国軍の頭上に落下する。


爆風と破片が嵐の様に吹き荒れるが、薄い箇所で50㎜程度の厚さを持つ装甲を着たトロールに砲弾の破片程度での貫通は叶わず、直撃でもないと無力化出来ない上、そもそも迫撃砲は精密に直撃させる兵器ではない為、決定打を与える事は期待出来なかった。


歩兵達もそれを理解しているのか、重装トロールの陰に隠れて爆風や破片から身を守り、損害を最小限に抑えながら進撃する。公国軍もただやられている訳では無い、この短時間でガーディアンの兵器に対する対応策を生み出したのだ。


「迫撃砲弾、残り30!」


迫撃砲陣地の予備弾薬庫から、砲弾を射撃陣地に補充しながら迫撃砲チームの隊員が叫ぶ。


「サミット!こちら“ウツギ”!迫撃砲弾が尽きる!砲兵の支援砲撃はまだか!?」


『ウツギ、こちらサミット。シェルパ隊が敵部隊の待ち伏せを受けた、現在ポイント4-Cへ移動中。待機せよ』


砲撃支援を要請した監視所(OP)の指揮官は、本部の返答に歯噛みする、砲兵部隊があてにならないなら周辺の監視所(OP)にも砲撃支援を要請したい所だが、他の監視所(OP)も配備されているのはここと同じ120㎜迫撃砲RTが2門だけ、そして全ての監視所(OP)がこの監視所(OP)の為に支援砲撃可能な距離にある訳でも無く、砲弾の在庫状況はどこも似たような物だろう。


『ウツギ、こちらカラサワ。砲撃支援可能』


『ウツギ、こちらスリバチ、RAP弾在庫有、30発までなら砲撃支援可能』


砲撃支援要請に対して、近隣の監視所(OP)からの返答が来た、特にスリバチ監視所(OP)は距離があり、ロケットアシスト砲弾(RAP)でなければ公国軍を射程に収められない。限られた支援しか受けられない事は確かだ。


砲撃支援が開始されると、公国軍は今まで以上に猛烈な砲撃に晒される。

直撃弾でなければ重装トロールは倒せないが、トロールは更に死んだ重装トロールを担いだり、鎧を引きはがして“盾”を形成しているのを、UAVからの偵察情報で得ていた。。


「サミット、こちらウツギ、最終弾発射、迫撃砲弾、残弾0」


『ウツギ、こちらスリバチ、最終弾発射、RAP弾残弾0』


スリバチ監視所(OP)はRAP弾が底を尽き支援不能に、カラサワ監視所(OP)も、ウツギ監視所(OP)の支援砲撃の為に全弾を発射する訳にもいかないのだ。


『ウツギ、こちらカラサワ、残弾残り50』


「カラサワ、こちらウツギ、支援に感謝する」


ここからは、ウツギ監視所(OP)が、自らの策で生き残らなければならない。


山の稜線の向こうから、多数の重装トロールと公国軍の攻撃部隊がゆっくりと姿を現した。


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