重装トロール
「対機甲戦用意、対機甲戦用意」
監視所内は騒がしさが増し、戦闘準備が慌ただしく進む。偵察情報から得られた重装トロールの装甲を貫く為、スパイクLR2対戦車ミサイルの準備が進んでいた。隊員が弾薬庫からミサイルが収まったキャニスターを担ぎ、対戦車ミサイル陣地に持って行く。
間隔の広い銃声、へスコ防壁に据え付けられたMk.19が火を噴く、仰角を付けて迫撃砲の様に曲射で運用しているのだ。迫撃砲の砲弾が払底し、こちらが切れる手札を1枚失った故の苦肉の策だった。
M430A1多目的榴弾が空高く撃ち上げられ、放物線を描いて落下して行く。
「着弾近、修正、北50」
観測している隊員の観測結果を元に、射手が照準を修正してまた1発発射する。
地上で擲弾が炸裂する重装トロールの足元に着弾、観測の隊員が観測結果を報告する。
「着弾近、修正、北20」
更に修正を加え、1発発射、高く撃ち上がった40㎜擲弾は重力に従い、地面に吸い込まれる様に落ちていく。
進行してくる公国軍の攻撃隊の中に着弾、土煙を上げて数人の公国兵が吹き飛んだ。
「命中、効力射!効力射!」
号令を受けて、射手がMk.19自動擲弾銃の引鉄を引き絞る。ポンポンと通常の銃声よりも1段軽い音、しかしその銃声には、普通の銃声よりも高威力な“死”が乗っている。
40×53㎜の擲弾は公国軍を爆風と破片で吹き飛ばしていくが、重装トロールには依然として効果が薄いままだった。M430A1多目的榴弾は成形炸薬、モンロー/ノイマン効果による装甲侵徹力は50㎜を誇る。
軽装甲車輌にとっては十分な威力だが、重装トロールの分厚い装甲を貫通したとしても、規格外の生命力を持つトロールに対しては致命傷になり得ないのだ。
そして公国軍側もただやられている訳では無く、既に撃破された重装トロールの死体を別の個体に盾の様に担がせ、ガーディアンの攻撃から身を守りながら進撃してくる。
「スパイク準備完了!」
対戦車陣地は、ミサイルの準備が整った様だ。三脚で立てた発射機で、隊員がスパイクLR2ミサイルを構える。
「撃て!」
ソフトローンチのガス圧によってキャニスターから飛び出したミサイルは空中でロケットモーターに点火し2㎞の距離をあっという間に駆け抜ける。
重装トロールの頭部に吸い込まれる様に命中したスパイクLR2の弾体、戦車の装甲すら貫通するタンデムHEAT弾頭が、重装トロールの頭部を兜ごと破砕する。
倒れた重装トロールに数人の公国兵が巻き込まれ下敷きになる。ようやく見える範囲で1体を撃破したが、重装トロールはまだまだいる。
「ミサイル装填!」
射手が叫び、対戦車ミサイル班の再装填が始まる。援護の為に別の発射陣地からもスパイクLR2が発射されるが、発射間隔が長く、迅速な撃破が難しい。
「増援が到着するまであと5分だ、持ちこたえろ!」
進撃してくる公国軍に対して、対戦車ミサイルの攻撃の間隙を埋める攻撃が行われる。
Mk.19自動擲弾銃は曲射から直射に切り替えてM430A1の射撃を続け、合わせる様にブローニングM2重機関銃の射撃も始まる。12.7㎜弾は歩兵に対して抜群の威力を発揮していたが、重装トロールの装甲に対しては無力だった。装甲表面で弾かれる事を理解している公国兵は、重装トロールを盾にして進撃してくる。
「狙いづらい……!」
そう言いながら隊員がへスコ防壁に二脚を立てて構えたのは、バレットM107対物ライフル、狙うのは重装トロールの兜のスリットの奥の眼球だ。
ドン、と思い銃声と共に発射された12.7㎜弾は、重装トロールの兜に弾かれる。2発目が重装トロールの視野を確保するスリットから目を撃ち抜き、トロールが悲鳴を上げる。
だが、そのまま倒れる事は無く、激痛を破壊衝動に変え、唸りながら進軍を継続してくるトロールの執念とタフさに、隊員達は戦慄した。
「もっと強力な武器が要る……!」
「火力が足りない!」
50口径をもってしても、公国軍に対して“圧倒的優位”には立てなかった。
対戦車ミサイルと自動擲弾銃で公国軍の勢いを削いでいくが、徐々に距離が詰まる。
しかしその時、監視所内の戦闘指揮所に通信が届いた。その通信は、監視所の全ての兵士が待ち望んだものだった。
『ウツギ、こちらデルマー1。ただいま到着した』
監視所の南から続く狭く急峻な山道を縫って、増援として到着したのは4輌のFV101スコーピオン軽戦車だ。
「世界最速の量産戦車」としてのギネス記録を持ち、CVR(T)シリーズの傑作であるこの軽戦車は、山岳部隊に必要な機動力と火力を提供する為に配備されたが、その力がついに牙を剥く。
『北、距離2000、目標公国軍、自由交戦許可』
『了解、攻撃に移る1-2と1-4は左翼に展開』
『了解』
カミンズBTA5.9Lディーゼルエンジンの音を響かせ、土煙を上げながら監視所のすぐ脇を通過し、スパイク対戦車ミサイルの射線を塞がない様、流れる様に射撃位置に付く。
『目標、正面重装トロール、弾種、粘着、撃て!』
ドッ!
号令と共に、自動擲弾銃の銃声とは比較にならない砲声。L23A1 76㎜低圧ライフル砲から放たれた砲弾は真っ直ぐ重装トロールへ吸い込まれていく。
トロールの最も分厚い装甲正面、胸部で砲弾が爆発、車長が「命中!」と叫ぶ。公国兵はトロールの為に仕立てられた自慢の鎧が貫かれたと思ったが、鎧の表面は微かに凹んだ程度だった。
「大丈夫、トロールは無事だ!このまま___」
公国兵がそう鼓舞した直後、重装トロールは鎧や兜の隙間から夥しい量の血を吹き出し、糸が切れた人形の様に地面に崩れ落ちた。
「し……死んでる」
公国軍が驚愕している間にも、2発、3発と砲弾が発射される。L23A1低圧砲から放たれる粘着榴弾が、ポプキンソン効果によって引き起こされるスポール破壊で重装トロールの分厚い装甲の裏面が剥離、高速で飛散した装甲の破片が逃げ場のない装甲内部からトロールの肉体を引き裂く。
彼らの自慢の装甲が、彼らを殺す為の凶器へと変貌していき、虎の子の重装トロールがかつてない早さで次々と撃破される。
トロールは仲間の死骸から剥ぎ取った装甲や岩を投げつけて対抗しようとするが、分厚い装甲を着せられたトロールの動きは鈍いまま、スパイクLR2対戦車ミサイルやFV101が発射するHESHの餌食になった。
重装トロールという“移動するトーチカ”を失いつつある歩兵には、銃座に据え付けられたMk.19自動擲弾銃やブローニングM2重機関銃による容赦ない射撃が差し向けられる。公国軍もニルトン・シャッフリル銃を持っているが、ガーディアンが装備する銃砲とは射程も精度も桁違いだった。発砲しようと狙いを定める瞬間ですら致命的な隙であり、彼等の着る鎧には銃弾を止められる防御力も無い。突撃を敢行しようとする勇敢な歩兵は素早く銃弾に刻まれる。
ガーディアンのキルポケットに収まった公国軍の損害は、加速度的に増加していった。
『ウツギ、こちらアバランチ2、アパッチ2機編隊だ、南から進入する』
増援の航空部隊からの通信が入る、本部からの直接的な航空支援は、迫撃砲弾の尽きた監視所の兵士達からすれば心強いものだ。
『アバランチ2、こちらウツギ。敵はOPより北、1500m、重装トロールと歩兵の集団だ。スコーピオンを下がらせる』
『デルマー1、OPまで後退せよ、繰り返す、OPまで後退せよ、航空支援が来る』
『了解』
FV101がOPのラインまで後退すると同時に、南の尾根の向こうから飛来した2発のミサイルが重装トロールを直撃する。監視所から撃っていたスパイクLR2とは比較にならない破壊力で、重装トロールの装甲が砕け散る。
更に2発、飛来したのはAGM-114Lヘルファイアだ。先の攻撃と同じようにミリ波レーダーによって誘導されたミサイルは正確に重装トロールだけを射貫き、装甲ごとトロールの巨大な肉体を破壊した。
その直後、南から聞こえて来たヘリの音に監視所の兵士達が振り返る、重いローター音と共に、尾根の向こうから2機のAH-64Dアパッチが姿を現す。
『アバランチ2、こちらウツギ、OPから北のは全部敵だ、交戦を許可する!』
『アバランチ2、了解。2-1、先行する』
1機目のAH-64D、アバランチ2-1が先行、OPの上空を通過すると、機関砲を浴びせながら公国軍の頭上を高速で通過する。アパッチの搭載するM230 30㎜チェーンガンから発射されるM789多目的榴弾は重装トロールの装甲を貫通する事こそ出来なかったものの、M2重機関銃と比較にならない大口径の威力でトロールを怯ませる。そしてより軽装備の歩兵に対しては過剰な威力を持っていた。
27gのPBXN-5炸薬が炸裂した時の加害半径は約4m、歩兵は散弾の様な破片を浴び、アパッチが通り過ぎた地上に“死体の道”が形成される。
重装トロールが岩を投げつけて反撃しようとするが、高速で飛び去った攻撃ヘリは既に高度を上げ、尾根の向こうへと消えていた。
監視所の前で門番の様に上空待機していたAH-64D、アバランチ2-2の前席に座る射撃手の照準が定まって行く、目標は正面の公国軍集団。兵装選択ページから“RC”を選択して照準した。
『アバランチ2-2、Ripple』
射撃手が引鉄を引くとスタブウィングに装備されているM261ポッドが火を噴き、計6発のロケット弾が発射された。
ポッドから発射されたハイドラ70㎜は空気を切り裂き、公国軍の隊列に命中、装備していたM247多目的榴弾が重装トロールに、あるいは地面に突き刺さって爆ぜる。
ロケット弾の火力に精密さは無い、だいたいは“この辺をまとめて攻撃する”という大雑把なものだが、今はその“大雑把さ”こそ必要だった。
ロケット弾は重装トロールの装甲を貫通し致命傷を与え、飛び散った榴弾の破片が歩兵を切り刻んでいく。榴弾砲の弾片と同じく、この世界の一般歩兵の防御力はロケット弾の破片の前には無力だった。
『アバランチ2-1、Rifle』
尾根の向こうへと離脱していったアバランチ2-1が尾根越しにAGM-114Lを発射、僚機の誘導で2発のミサイルが上空高くから降り注ぐ。
自動小銃や重機関銃等の歩兵用小火器の銃弾を防ぐ重装トロールの装甲でも、戦車を屠る為の対戦車ミサイルの前には紙に等しい。公国軍にとって山岳地域攻略の頼みの綱である重装トロールは文字通り木端微塵に粉砕された。
2機のAH-64Dは代わる代わる機関砲、ロケット弾、そしてヘルファイア対戦者ミサイルで公国軍の隊列を攻撃し続け、後退したFV101もその間隙を埋める様に監視所のラインから主砲で公国軍を砲撃、重装トロールと歩兵の殆どを失った公国軍の残存兵は恐慌を引き起こして壊走を始めた。
『ウツギ、こちらアバランチ2-1、敵は壊走し始めた、追撃するか?』
『アバランチ2-1、こちらウツギ。ネガティブ、ネガティブ。追撃の要無しと判断』
監視所毎に配備されているピューマLE無人偵察機からの情報で、壊走した公国軍は少数の生存者のみであり、もはや組織的な戦闘能力は無く、再編されても脅威になり得ないと判断された。
『航空支援に感謝する』
『ウツギ、こちらアバランチ2、了解、帰投する』
2機のAH-64Dは上空を旋回し、基地の方へ引き返していった。
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山岳地帯上空、対地高度400ft。
ヴァレー飛行場から発進した4機の攻撃機の内2機が、渓谷を縫う様に低空飛行していた。
鏃の様な外観、1枚の垂直尾翼、狭い渓谷内でも機敏な旋回を見せる運動性、そして何より特徴的なのは、可変後退翼の主翼を持つその機体。
パナヴィア トーネードIDS、イギリス、西ドイツ、イタリアが共同開発した攻撃機が、腹の下に無誘導爆弾を抱えて北西を目指して飛行していた。
山岳地帯での戦闘に終止符を打つべく投入されたトーネードIDSの任務は、公国軍野戦司令部の爆撃である。
『目標まで1分、ストーン、兵装最終チェック』
『了解、ミラー』
前席のパイロット“ミラー”はHUDの表示を見ながら操縦桿を動かし、低空で機体を振り回す。その間に後席の“ストーン”が計器を操作し、兵装管理の画面から爆弾の設定を再確認する。
マスターアームオン、信管設定はNSTL、投下信号は8、着弾間隔は100ft。
『Peak1-1 Ready』
『1-2』
僚機も準備が完了した様だ、2機のトーネードIDSは風を切り裂き、滑るように山間部を飛び抜けていく。
幾つかの山間部の蛇行点を越えた先、唐突に前方は開け、山間部の谷の僅かな切れ目にテント村を発見する。作戦前に確認した光景、目標とする公国軍野戦司令部だ。
『IP INBOUND』
真っ直ぐに目標へ向かって突っ込んでいく、対地高度はわずか200ftの低空、速度は500kt。
HUDに表示されたピパーに目標を捉え続け、操縦桿の投下ボタンを押した。
トーネードIDSの機体下部から1機辺り8発、計16発のMk.82Yがばら撒かれる様に投下される。
『Bombs Away』
この爆弾は高抵抗爆弾、尾部のBSU-49/B高抵抗尾部アセンブリを取り付けており、バリュートと呼ばれる風船の様なパラシュートを膨らませ、強力な空気抵抗によって爆弾の弾体は急激に減速する。
通常の低高度爆撃では炸裂した爆弾の破片や爆風を自機が浴びて巻き込まれる危険があるが、Mk.82Yはその心配は無い。バリュートによって減速した爆弾を置き去りに、投下したトーネードは高速を保ったまま飛び去って行く。
地上の公国兵から見たら、まるで空中にいくつもの白い花が咲いた様に見えただろう。だがそれは死を運ぶ花だ、その花弁達が公国軍野戦司令部のテント村の頭上へと降り注ぐ。
轟音に驚いてテントから出て来た公国兵が呆然と見つめる中、地上に辿り着いたMk.82は次々と炸裂した。
白い花弁で降りて来た500ポンドの種は、今度は爆炎の赤い花を咲かせる。
16発のMk.82はトーネードの飛行ルートに沿って、炎と爆風、弾片で野戦司令部を蹂躙し、命を奪っていく。
『Peak1-3 Bombs Away』
『1-4 Bombs Away』
飛び去った2機とは別の、より高高度を飛行する2機のトーネードから更に爆弾を投げ込まれる。
投下された爆弾はMk.84、1機につき2発、計4発の2000ポンドの爆弾は、トーネードの正確な弾道計算コンピュータの予測通り、公国軍野戦司令部の地面に吸い込まれた。
2000ポンドの爆弾の威力は、先程投下したMk.82とは桁が違う。
凄まじい轟音と共に爆風が吹き荒れ、大地は激しく振るえる。地面には大きなクレーターを穿ち、爆風が公国軍野戦司令部を“蹂躙”していく。整然と並べられていたテントは跡形もなく消し飛び、部隊は文字通り消滅。爆風が過ぎ去った後、地上で動くものは見えなかった。
『Complete mission. All Peak RTB』
公国軍は侵攻から僅かに2日以内で、この地に展開した3/4以上の戦力が、指揮能力と共に失われた。




