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14.世界が見つめる少女

世界的アパレルブランドの新作発表パーティー会場。


凛の登場によって静まり返った会場は、次の瞬間、さらに大きなどよめきに包まれた。


「俺がエスコートする」


真っ先に歩み出たのは太音だった。


世界最高峰リーグで活躍する、日本代表キャプテン。


誰もが知るスーパースター。


しかし、その腕を玖音が静かにつかむ。


「待って」


「最初は俺」


「いやいや、俺やろ!」


紫音が笑みを浮かべながら、二人の間へ一歩踏み出した。


世界中のフェスを熱狂させるトップDJ。


双子アイドルとして世界的人気を誇り、兄・玖音とのYouTubeチャンネルは登録者数一億人を突破。


誰とでも笑い合い、場を明るくするムードメーカー。


そんな紫音が、今だけは笑みを消さずに、真っすぐ凛を見つめていた。


「ここは、誰にも譲れない」


その声には、冗談ではない本気が滲んでいた。


玖音も静かに一歩前へ出る。


世界的人気アイドル。


国立大学医学部で医学研究に打ち込む天才研究者。


どんな時も冷静沈着で、感情を表に出すことはほとんどない。


そんな玖音が、一切視線を逸らすことなく紫音を見据える。


「悪いけど」


「俺も譲る気はない」


静かな声だった。


だが、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。


「……僕も凛さんの隣がいい」


奏音が静かに一歩前へ出る。


世界最高峰の舞台で観客を魅了する世界的ピアニストであり、数々の名曲を生み出してきた天才作曲家。


音楽だけを愛し、普段は他人にも物事にもほとんど執着を見せない。


そんな奏音が、ただ一人――凛だけを真っすぐ見つめていた。


「……譲れない」


その一言は小さかった。


けれど、誰よりも強い決意が込められていた。


玲音も静かに前へ出る。


世界大会を制したプロゲーマー。


数々の大ヒットゲームを生み出す天才ゲームクリエイターであり、世界中にファンを持つ人気配信者。


人付き合いは苦手で、いつも兄たちの一歩後ろにいる玲音。


そんな彼が、勇気を振り絞るように凛を見つめる。


「……兄さん達……僕も譲る気ないよ」


小さな声。


それでも、その瞳だけは誰よりも真剣だった。


普段なら、自分の気持ちを押し殺して一歩引く玲音。


けれど、この想いだけは譲れない。


恋だけは、兄たちにも負けたくなかった。


五人の視線がぶつかる。


その光景に、会場中が騒然となった。


「ちょっと待って……」


「あれって黒羽兄弟よね?」


「全員そろってる……!」


「嘘でしょう……」


「黒羽家の五兄弟が、同じ女性をエスコートしようとしている?」


「太音選手が、女性を巡って譲らないなんて初めて見た……」


「玖音様が感情を表に出すなんて信じられない」


「紫音様、本気だわ……」


「奏音様が自分から女性へ歩み寄るなんて……」


「玲音様まで前へ出てる……?」


「世界中のスターやモデルからアプローチされても、誰一人として噂にならなかった黒羽兄弟が……」


「恋愛なんて興味がないと思われていた五人が……」


「同じ女性だけを見つめている……?」


「あの五兄弟が、一人の女性を巡って争ってるの?」


「世界のトップアスリートに、世界的アイドル、世界最高峰のDJ、天才音楽家、そしてゲーム業界の革命児……」


「そんな五人が、全員同じ女性を見ているなんて……」


「信じられない……」


「歴史的な瞬間よ」


「明日のトップニュースは決まりね」


驚きは瞬く間に会場中へ広がっていく。


海外メディアの記者たちも、一斉にシャッターを切る。


「撮れ!」


「世界独占だ!」


「黒羽家五兄弟が、一人の女性を囲んでいる!」


「彼女の身元を調べろ!」


フラッシュが何度も瞬いた。


その騒ぎに気づき、会場中の視線が一斉に凛へ集まる。


海外メディアだけではなかった。


世界的俳優。


ハリウッドスター。


各国の王族や財界人。


世界的モデル。


トップデザイナー。


その場に集う誰もが、思わず足を止めていた。


彼らの視線の先にいるのは、一人の少女。


ブランドのモデルでもない。


芸能人でもない。


名家の令嬢でもない。


ただ静かに微笑む、一人の世話係だった。


だからこそ、誰もが知りたくなった。


──彼女は何者なのか。


けれど、凛だけはその意味を知らない。


「……皆様、お写真を撮られていらっしゃいますね」


不思議そうに首をかしげる。


その天然な一言に、五兄弟は思わず笑ってしまった。


「反則だよ、その可愛さ」


太音が苦笑する。


「本人だけ分かってへん」


紫音も肩をすくめた。


その様子を見たマリは、くすりと笑う。


「もう」


「あなたたち」


「そんなに争うくらいなら、五人でエスコートすればいいでしょう?」


その一言で、兄弟たちの動きが止まる。


「……なるほど」


玖音が静かに頷いた。


「その方法があったか」


「母さん、天才や!」


紫音が満面の笑みを浮かべる。


太音も笑いながら頷いた。


「じゃあ決まりだ」


太音が凛の右隣へ。


玖音が左隣へ。


紫音が笑顔で少し前へ回り、自然に人混みを避ける。


奏音が静かに後ろへ付き添う。


玲音も少し離れた位置から、凛を守るように歩き始めた。


まるで、一人の姫を守る五人の騎士。


その光景に、会場中から思わず息をのむ声が漏れる。


「信じられない……」


「世界的スター五人が、一人の女性を守って歩いてる……」


「あの子、一体何者なの?」


「黒羽家がここまで大切にする女性なんて聞いたことがない」


「世界中が放っておかないぞ……」


その様子は、すでに世界中の報道陣のカメラへ映し出されていた。


誰もが知る天才五兄弟。


世界中から愛され、憧れられてきた五人。


その五人が、ただ一人の女性だけを見つめている。


その事実だけで十分だった。


この日を境に――


世界中のメディアは、まだ正体の分からない一人の少女を追い始める。


けれど本人だけは、そんなことなど何も知らず、困ったように小さく微笑んだ。


「皆様、本当にありがとうございます」


その笑顔に、五兄弟は自然と表情を和らげる。


そして、その光景を見つめる世界中の人々は思う。


──あの少女は、一体何者なのだろう。

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