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ランクアップ

 冒険者になってから一か月が経った。

 いよいよ今日Dランクへのランクアップを受けられる。

 失敗すれば三か月は受けられなくなるが、今は失敗する気がしない。


 事前にリーシャさんに聞いたところランクアップ試験はお昼までに申し込まなければ翌日に繰り越されるらしい。

 

 いつも通りの時間に起きて、朝食としてパンと木の実のジュースを食べる。

 朝食が終われば出かける準備をしながら一休み。

 クレイヴに貰った短刀を腰に差し、ストレージ内のポーション確認、そして最近買った黒いローブを羽織れば完了だ。

 準備ができたらいざ出発だ。



 ギルドはいつも通り賑わっている。依頼内容について話し合う声、武勇伝を語る声、酔っぱらいの声、ギルド内の喧騒も一か月でだいぶ慣れた。


 ランクアップのための依頼は掲示されていないそうなのでそのまま依頼受注受付に向かう。

 途中、登録受付の方を見るとリーシャさんと目が合う。

 口パクで「がんばれ」と伝えて笑顔を見せる。俺も笑顔で答える。

 受注受付はいつも混雑している。

 しばらく待っていると順番が来た。


「お待たせしました。次の方こちらにどうぞ」


「あの、Dランクのランクアップを受けたいんですが」


「本日でしたら依頼での試験となりますがよろしいですか?」


「はい。どんな依頼ですか?」


「薬草採取と討伐の複合依頼になります。受けられますか?」


「はい!お願いします」


「こちらが依頼書になります。ご確認ください」


 依頼内容は…グラススライム10体の捕獲、岩兎20体の討伐、傷薬と痺れ薬を各5本ずつ作るために必要な薬草の採取。

 なるほど。一見簡単そうだが戦闘力と知識を試すというわけか。


「確認しました」


「では登録証に記録させていただきます」


 依頼書はいつものように白い光とともに登録証へと吸い込まれるように消えていった。


「また、今回の依頼には時間制限がございます。日没までに報告をしなければ不合格となってしまいますのでご注意ください」


「そうなんですね、わかりました」


「それではお気をつけていってらっしゃいませ」


 装備は今のままで十分だろうからこのまま出発するとしよう。

 依頼内容的に一番最初にやるべきは岩兎の討伐かな。20ぐらいならすぐだろう。



 街を出ていつもの狩場に移動する。

 ここは街からそんなに離れてはなく、魔物の数も他に比べると多いので冒険者にとっては絶好の狩場になっている。


「アビス、俺の試験だから手を出さずに見ててくれ」


「ワフッ」


 とりえあず三体ほど固まっているからそこからやろう。

 岩兎は背中の毛皮が岩のように硬い反面お腹側の毛皮は柔らかい。だからそこをつく。


「植物魔法《 ブラッドルート 》」


ーーーー

ブラッドルート

植物系統中級魔法

地中に伸ばした魔力の根を対象へ突き刺し、生命力や魔力を吸収する

ーーーー


 突如地面から生えた根に岩兎たちは反応する暇もなかった。

 本来この魔法は根を突き刺して吸収する魔法だが、貫通させれば十分攻撃に使える。

 腹から貫かれろ!

 よし…まずは三体。しかし今の音を聞いて周囲の岩兎が逃げ始めてしまった。

 まぁこの距離ならすぐ追いつけるが。


「雷魔法《 サンダーステップ 》」


ーーーー

サンダーステップ

雷系統初級魔法

脚部に微弱な電流を流し、筋肉の収縮速度を強制的に高める

ーーーー


 足に雷を纏い、逃げた岩兎の正面に移動する。その速度まさに雷のごとく。

 俺が回り込んだことで岩兎は急旋回して真逆に逃げようとする。けど、もう遅い。


「氷魔法《 アイスボルト 》」


ーーーー

アイスボルト

氷系統初級魔法

圧縮した氷塊を矢のように射出する

ーーーー


 氷の塊が岩兎を背中から貫く。

 背中が固いとはいえ貫けないわけではない。


 しかし、やはり別の系統の魔法を連続発動しようとするとラグが発生してしまうな。

 今だってせっかく前に回り込んだのに方向転換させる余裕を与えてしまった。

 どうにかラグを無くせないだろうか…。

 いや、今はそれより試験を完了する方が先だな。


 岩兎は周囲に散ってしまった。広範囲かつ高火力の魔法はあるが、炎系統だから草原で使うのは危険かもしれない。

 しかたない。少し精度は劣るが他の広範囲魔法にしよう。


「風魔法《 ウィンドレイン 》」


ーーーー

ウィンドレイン

風系統中級魔法

圧縮した無数の風刃を上空に展開し、雨のように降り注がせる

ーーーー


 振り注がれた風の刃は次々と岩兎の体を切り刻む。

 重力により加速して落ちてくる刃はもはや兎が切られたことを自覚できないまま死んでいくほど高速だ。

 しかし何体かは風の雨をかいくぐりながら効果範囲を抜けてしまう。

 

 魔法で片付けてもいいがここはあえて白兵戦にしよう。

 サンダーステップで回り込み、クレイヴの刀で切る。これを繰り返す。

 たまにこうやって刀も使わないとせっかく教えてもらった剣術も忘れてしまうからな。


「よし、これで20体かな」


 今回納品するのは魔石だけでいいらしいから死体から魔石を抜いていく。

 肉は食べきれないだろうしどこかに売るとしようかな。


 20体の魔石を抜き取るのには少し時間がかかってしまったが無事終わった。

 頃合いを見計らってアビスが寄ってくる。大人しく待っていてくれたようだ。


「待っててくれてありがとうな」


「ワフッ」


「次はアビスの力も借りたいからお願いしていいか?」


「ワフッ!」


 待ってましたと言わんばかりの顔だな。


「次は薬草を集めようと思う。傷薬と痺れ薬用のやつだ。匂いで探してほしい」


 アビスはクンクンと周辺の匂いを嗅ぎ始めた。薬草の匂いを覚えてくれてるのでとても助かる。

 すぐに見つけたようで走り始める。


 おぉこんなにあるのか。


「よく見つけたな。これだけあるなら自分たちの分も採っていこう」


 正直街周辺の群生地は冒険者によって採りつくされていると思っていたがこれほどまで生えているとは。

 確か各5本作れるほどの薬草だったよな。1本に3枚ぐらい使うから保険も兼ねて20枚ずつ採っておこう。


 薬草採取はすぐに終わった。簡単ではあるがそれぞれの薬に使われる薬草とその数を把握していなければこの依頼はできない。普段は採る量も指示されるが試験だからそれぐらいはわかっとけ、ということなのだろう。


「さて、あとはグラススライムの捕獲だな。とりあえず探すか」


 グラススライム。攻撃力は0に近いが、隠密性が極めて高く今の俺やアビスの索敵では見つけられない。

 グラススライムの主食は土、そして食べた土に細胞が似ることで擬態をする。

 その見た目は土そのもので細胞も土に近いため索敵でも認識できない。

 だが、グラススライムには草や花は生えないのでそういうのが生えていない裸の大地を探せば見つかる可能性は高い。


 探し始めて20分くらいしてようやくそれらしいとこを見つけた。


「さっさと捕まえて帰るか」


「クゥ」


 アビスが訴えるような目でこちらを見てくる。


「どうしたアビス…もしかしてやりたいのか?」


「ワフッワフッ」


「じゃあ俺が威嚇するから捕獲は頼んだぞ」


「ワフッ!」


 やる気に満ちているようだな。

 グラススライムは自身に明確な危機が迫らないと擬態を解かない。

 だから一気に広範囲を威嚇してたたき出す。


「土魔法《 クエイク 》」


ーーーー

クエイク

土系統中級魔法

地中へ大量の魔力を流し込み、地盤そのものを強制的に振動させる

ーーーー


 俺たちを中心に地面が揺れ始める。その振動でグラススライムたちは驚いて飛び跳ねる。

 飛び出てきたスライムをアビスが捕獲する作戦。

 アビスの影がより一層黒くなってそこから触手のようなものが出てくる。

 触手はスライムへと伸びていき締め付けるように拘束する。

 これはアビスの魔法シャドウバインド。以前魔法書でそれらしき魔法を見つけた。


ーーーー

シャドウバインド

闇系統初級魔法

足元の影に干渉し、影から伸びた闇で拘束する

ーーーー


 アビスには闇系統の適性があるようだ。

 俺も習得したいが闇は原理が不明すぎて未だに一つも使えない。

 いつか誰かに教えてもらえるといいな。

 

 次々と影でスライムを捕まえていくアビス。とても楽しそうだ。


「よしこれで10体。もう十分だよありがとうアビス」


 頭を撫でてあげるととても上機嫌になる。


「じゃあ帰ろうか」


「ワフッ!」


 グラススライムの捕獲10体、岩兎の討伐20体、薬草各20枚ずつ。これで依頼は完了のはずだ。

 日没まではまだ時間があるし余裕をもって帰れるな。


 街に戻るまでの道のりは特に戦闘もなく平和に帰ってこれた。

 ギルドに行く前に岩兎の肉を売っていこうかな。アビスによく切れ端をくれる店のみなさんにあげよう。

 東門から入ってすぐ左の道を進んで市場がある通りに向かう。

 お肉を扱う屋台の店主たちは気前よく買い取ってくれた。

 通常銅貨4枚程度のところ、色々な店に売ってたら銅貨6枚にもなった。

 普段の恩返しのつもりだったがこれでは結局俺が得してる気分だ。


 小腹が空いたので市場で買い食いをして腹を満たしてからギルドへと向かった。

 日没前のギルドは少し人が少ないように感じる。みんな依頼に出ているのだろうか。


「戻りました。これ確認お願いします」


「承りました。少々お待ちください」


 依頼の品を納品して問題がないか確認をしてもらう。


「お待たせしました。こちら全て納品可能ですので依頼は完了となります。つきましてはDランクへのランクアップ条件を満たしましたので、これより神代様のランクアップを行ないます。登録証のご提示をお願いします」


「わかりました」


 言われた通りに登録証を渡す。受付の女性は受け取るとなにやら魔法をかけ始めた。

 登録証の上に薄い黄色に光る魔法陣が形成される。

 やがてそれは登録証に重なり、消えた。


「これでランクアップは完了しました。おめでとうございます」


「ありがとう、ございます」


 受け取った登録証を見るとランクがDに変わっていた。

 おぉこれでようやくDランクか。


「益々のご活躍をお祈りしております」


「はい。では失礼します」


 無事にランクアップが済んで少し浮かれてしまいそうだ。

 そうだ、リーシャさんに報告しよう。

 そう思い登録受付の方へと向かう。


「リーシャさん」


「蓮くん、ランクアップおめでとう」


「ありがとうございます。アビスと二人で頑張りました」


「二人なら大丈夫って思ってたよ。アビスちゃんもお疲れ様」


「ワフッ」


「まだ時間あるけどこのまま依頼に行くの?」


「いえ、今日は何か美味しい物でも買ってお祝いしようかと」


「それはいいね」


「よければリーシャさんも来ますか?」


「うーん行きたいけど今日はお仕事がたくさんあるから遠慮しとくね」


「わかりました。仕事頑張ってください」


「うん、ありがとう。じゃあ二人ともお疲れ様」


「はい、また明日」


 リーシャさんと話し終わってから食事の買い出しに市場に向かう。

 来るときに通ったところとは反対の市場に行こう。

 さてさて今夜は何を食べようかな。



 Dランクに上がってから一週間ぐらいが経った。そろそろCランクの依頼にも挑戦してみるか。

 なにかいいのはあるだろうか。……ブルームースの角の採取。これはおもしろそうだ。


「すみません。この依頼受けても大丈夫ですか?」


「Cランクの依頼ですね。神代様でしたら問題ありません」


「じゃあお願いします」


「かしこまりました」


 今までの魔物に関する依頼は単純に捕獲か討伐のどちらかだった。だから素材を採取は実に興味が湧く。

 倒して採取するか、殺さずに採取するか。難しいところだな。

 ブルームースは街から南西の方でよく目撃されるらしい。とりあえず向かいながら考えるか。



 街を離れて30分程歩いた。未だにブルームースの姿は見えない。


「なぁアビスはどう思う?殺すべきか生かすべきか」


「ウゥン?」


「わからないよな~」


 通常はどうしているのだろう。生かしたまま素材を採取することで苦しめてしまうなら倒すべきかもしれないが。


 悩んでいると遠目にブルームースらしき影を見つけた。


「よし行こう」


「ワフッ」


 近づいてわかった、こいつでかい。大きいとは聞いていたがまさかこれほどとは。

 グレイボアの倍はありそうだ。これを生かしたまま素材を集めるのは少々骨が折れそうだ。


「倒そうアビス。俺が仕留めるからアビスは陽動を頼む」


「ワフッ!」


 俺たちが行動を開始しようとした時、ブルームースは地団駄を踏んで土埃を上げた。

 目くらましか。だが無駄だ。


「風魔法《 エアリアルフィールド 》」


 通常自分の周りに空気を集めるエアリアルフィールド。しかし今回はその逆で空気を広げるようにする。

 すると生み出した風の流れは土埃を飲み込みながら広がり拡散していった。


「アビス!」


「ワフッ!(闇魔法《 シャドウバインド 》)」


 アビスの生み出した影の触手はブルームースに迫るように伸びて意識を散らせる。

 まずは動きを止める。


「植物魔法《 ソーンヴァイン 》」


 棘の生えた蔓がブルームースの足元から伸びてくる。蔓は次第に成長してどんどんと足に絡まっていく。

 これで地団駄も封じた。

 これで仕留める。くらえっ!


「氷魔法《 アイススパイク 》」


ーーーー

アイススパイク

氷系統中級魔法

地面や周囲の水分を圧縮して凍らせ、鋭い氷柱を生成する

ーーーー


 周囲に冷気が発生して地面から氷の柱が2本伸びる。

 それらは交差するようにブルームースの腹に突き刺さった。

 足には蔓が絡み、腹は氷柱に固定されてもはや身動きは取れないだろう。

 断末魔だけが大地に響く。


「ブォアアアアア……!!」


 やがて断末魔も止み、大地には静寂が戻ってくる。


「やったなアビス」


「ワフッワフッ!」


 ブルームースの死体を軽く解体してからストレージに詰める。 

 今回は肉ごと素材はギルドで買い取ってもらおう。依頼料と合わせると結構な稼ぎになりそうだな。



 ギルドに戻って討伐の報告をしてから素材を買い取ってもらう。 

 街へ帰る道中、低ランクの魔物が何体かいたのでついでに狩っておいたので稼ぎが少し増えた。

 合わせて銀貨2枚と銅貨4枚か。一回の依頼でこれほどとは、さすがCランク依頼だな。

 さて、稼ぎも得たし軽くご飯でも買って帰ろうかな。


「アビス、今日は魚にするか?」


「ワフッ!」

 

 尻尾を振って期待しているようだ。

 リーシャさんに連れて行ってもらったお店で魚を食べてから定期的に食べたくなる。

 ただ、基本焼き魚か蒸し魚しかないのが少し残念だ。刺身や寿司が恋しい。

 まぁ生で食べる文化がないのでは仕方ないが。

 そうだな、今日はシンプルに塩焼きにしよう。



 ご飯を食べ終えてベッドに寝転がりながら今後について考える。

 Cランク依頼の報酬は結構いいことがわかったし、今後は稼ぎのいいCランクと数をこなせるDランクをたくさん受けて稼ごう。

 稼いだ金は食事代や装備に使ってもいいが、今は少し節約するべきだな。

 今後別の街に長期滞在するときは家を借りた方が安くつくだろうし、道中の旅費も必要だからな。

 3週間後にはCランクへのランクアップを受けれる。それに合格したら次の街に行ってもいいかもな。

 いつまでもここにいては誰も見つけられないだろう。


 俺の目的は知り合いを見つけること。それを忘れないよう肝に銘じておいて明日からもまた頑張ろう。


「アビス、頑張って誰か見つけような」


「ワフ?」


「はは、そうだよな。アビスにはわからないよな。いやなにこれからもよろしく」


「ワフッ!」


 この世界にいるかもしれない()()を見つけるために俺は足を止めてはいけない。

 そろそろ次の一歩を踏み出さなければ。

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