冒険者
とりあえずまずはEランクの依頼から受けるか。
いきなりDランクを受けようとしてイキってるなんて思われても面倒だ。
掃除に配達、店の手伝いなんかもあるのか。
「すみません。これらって同時に受けれますか?」
「はい可能です。Eランク依頼は基本的に全て同時に受注することが可能となっています」
「そうなんですね。じゃあお願いします」
「かしこまりました。では登録証をお出しください」
「登録証ですか?」
「受注された依頼を登録証に記録することで不正を防止しております」
なるほど、記録することで不正参加をすればバレるのか。逆に今までどのような依頼を受けてきたのか確認することもできそうだな。
「わかりました、お願いします」
「お預かりいたします」
受付の女性が依頼書の上に登録証を置いて何やら呪文を唱える。すると白い光を発しながら依頼書は吸い込まれるように消えた。
「これで記録は完了です。では、いってらっしゃいませ」
「ありがとうございます。じゃあアビス行こうか」
「ワフッ!」
紙を登録証に取り込む魔法。あれは何系統になるんだろう。資料の整理とかに役に立ちそうだし。魔法書に乗ってるのかな。今度確認してみよう。
まず最初に受けるのは掃除の依頼。依頼主は商店の主人でドワーフだ。なんでも今日は地域の掃除当番らしいがそれより研究したいから代わりにやってほしいらしい。ドワーフって研究好きなんだな。
掃除はいたって簡単だった。落ち葉を拾ったり落ちているごみを拾ったり。アビスも見つけにくいところのごみを見つけてくれて助かった。
「おおだいぶきれいになったな。助かったぞ」
「いえ、ではこれで依頼は達成ということでよろしいでしょうか?」
「ああ。ほれこれ報告書だ。またよろしくな」
次の依頼は配達だっけな。
えっと、鍛冶屋に注文してある商品を受け取って届けてほしい、か。
店はここから少し離れてるな。まぁ街を見ながら行こう。
「アビス、散歩しながら次の依頼に向かおうか」
「ワフッ!」
昨日はあまりアビスと街を歩けなかったからな。今日はたくさん見せてあげよう。
依頼が早めに終わったら散策でもするか。
アビスは楽しそうにあちこちキョロキョロして見ている。なんか上京してきた田舎者みたいだな。
「ここが商品を頼んだっていう鍛冶屋か」
石造りの建物にショーウィンドウまである。しかもここは武器屋じゃなくてフライパンとかの生活用品を作っているのか。
「すみませーん。商品の受け取りに来ました」
「おお、お前さんが依頼を引き受けた冒険者か」
店に入ると奥から大柄の男が出てきた。ドワーフではなさそうだ。人間だろうか。
「これが頼まれてたハサミだ」
ハサミ?こんなものを注文していたのか。一体どんな人なんだろう。
「たしかに受け取りました。では失礼します」
ハサミを届けるのはここから10分程のところか。この距離なら自分で取りに行ったらいいと思うんだけどな。
ここら辺は生活用品を売っているお店が多いんだな。お金が溜まったら服でも買いに来るか。もうだいぶボロボロだしな。
ここが届け先。普通の家だな。
「あのー依頼を受けた冒険者です。ハサミをお届けに来ました」
玄関で声をかけるとガチャッとドアが開いて、中からドワーフの男性が出てきた。
「おーありがとな。これでやっと薬草採取に行けるようになる」
「薬草採取ですか?」
「そうだ。俺はな薬草の研究をしてるんだ。愛用してたハサミが壊れたから新しいのを頼んだってわけだ」
「そうだったんですね。でもこの距離ならご自身で取りに行かれてもよかったんじゃないですか」
「研究で忙しくてな、手が離せなかったんだ」
ドワーフってみんな研究好きなんだな。てか研究したくて10分のためにお金出して冒険者雇うってどうなんだ。
「ほれ報告書だ。じゃあ俺はまだ研究があるから。ありがとな」
この街のEランク依頼ってドワーフしか出してないのか?まさか次の依頼もそうだったりしないよな。
次はお店の手伝い。これすぐそこのお店だな。
お店に近づくとなにやらいい匂いがしてきた。どうやらお店とは食堂のことらしい。
中を覗くと女性が一人で働いていた。ドワーフじゃないみたいだな。
「あんた、依頼を受けてくれた冒険者かい?」
「あ、はい、そうです」
「昨日一人辞めちまって人手不足だったんだよ。洗い物でもしてくれると助かるよ」
「わかりました」
お昼を過ぎているというのに結構な賑わいだな。たしかにこれを一人でやってたら洗い物なんて間に合わないな。洗い物してるとバイトを思い出すな。たしか最初は洗い場から教えられたっけ。
他にも手伝いたいけどこの世界の料理はわからないし、お店のことも知らないから接客もできないな。
とりあえず時間まで洗い物を完璧に片付けよう。
依頼は夕方までの手伝いだったのでお店が落ち着いたところで終わりとなった。
「あんた手際いいね。こういう仕事やってたことあるのかい?」
「まぁ少しだけですが」
「こんない働いてくれたのに報酬少なくて悪いね」
「いえそんな。俺も楽しかったですしむしろ途中からアビスが客引き始めて忙しくなっちゃってすみません」
そう。洗い物を見てるのに暇になったのだろうかアビスは途中から客席の方にいったり店前に出たりしていた。その結果アビスに連れられて客がどんどん増えていった。
「何を言うんだい。儲かったんだから助かるよ。あんたもありがとね」
店主がアビスにお礼を言うとアビスはドヤァといった顔をして誇らしげにしている。
「そうだ、あんた晩御飯どうするか決まってるかい?」
「いえ特になにも決めてないです」
「だったらここで食べていきなよ。追加報酬だと思ってさ」
「いいんですか?ありがとうございます!」
店主のご厚意に甘えて夕飯をいただくことにした。ご飯代浮いてちょっと得したな。
店主が出してくれたのはシチューだった。ビーフシチューのような茶色いシチュー。食欲をそそる匂いが鼻を通る。野菜や肉がふんだんに入っている贅沢な一品だな。
「これはうちの看板メニューだよ。あんたはこっちの方がいいかね」
店主はアビスに焼いた肉を差し出してくれた。
「そんな、申し訳ないですよ」
「なーにこの子のおかげで繁盛したんだからこのぐらいは普通だよ。ほらたんとお食べ」
「ありがとうございます。アビスもお礼言うんだよ」
「ワフッ」
アビスは美味しそうに肉に食らいつく。
俺もシチューをいただこう。スプーンですくい一口食べると…濃厚な味わいが口いっぱいに広がる。野菜から出た旨味や肉の出汁などが絶妙に絡み合っている。そしてそれらをまとめるようにほのかに感じるのはフルーツの甘味だろうか。口に入れた瞬間は濃厚さで強いパンチを受けるが後味はさわやかだ。肉や野菜も溶けるようになくなる。よく煮込まれているな。
「すごくおいしいです!」
「そうかいありがとね。ゆっくり食べていきなよ」
これ入ってる肉も一種類じゃないな。全部溶けるようになくなるからわかりにくいが少し食感が違う。いくつかの肉を入れることでより深い味わいの出汁を作っているのか。フルーツの甘味も絶妙だな。野菜を食べた時に甘味同士が合わさらないようにちょうどいい加減で感じる。これはまた食べに来たいな。
「ごちそうさまでした。また来ます」
「待ってるよ。これ報告書、今日はありがとね」
掃除をすることで街の地理を知って、生活に欠かせない物を買える場所も知って、おいしいご飯屋さんも見つけて。Eランクの依頼も悪くないな。
さて、報告を済ませに行くか。
「お疲れ様です。報酬は銀貨1枚と銅貨4枚になります」
「ありがとうございます」
1400円…お駄賃程度の報酬だな。まぁEランクならこの程度なのか。次からはもう少し受ける依頼を増やしてもいいかもな。
「アビス、まだ時間あるし街見るか?」
「ワフッ!」
昨日はゆっくり見れなかった鍛冶屋街や他の区画も見てみたいな。
アビスは少し早歩きで俺の前を歩く。よほど楽しみなのだろう。
時々アビスは肉屋の匂いに釣られて道を変える。そして店主は切れ端を分けてくれる。
温かい街だな。
「わ!かわいい」
男の子がアビスを見て寄ってくる。頭にはケモミミがある。獣人だ~。
「お兄さんこの子なんていうの?」
「アビスだよ」
「へーかわいいな」
男の子がアビスの頭を撫でる。アビスも肉を食べながらされるがままだ。
「こっちより肉が気になるなんて食いしん坊なんだな」
「そうだね。アビスは食べるのが好きな子だから」
「俺も食べるの好き!」
「そうなんだね。じゃあ君も何か食べに来たの?」
「いっけね、母ちゃんにお使い頼まれてたんだった。じゃあねお兄さん、アビス」
「気を付けていくんだよー」
コアン村でもそうだったけどアビスは子供にすぐ懐かれるんだよな。無垢ゆえに魔物の怖さとか知らないからだろうな。できればそのままでいてほしいものだ。
アビスと一通り街を見て回って宿に帰った。アビスは肉屋以外にも武器屋にも興味があるようで目を輝かせて見ていた。
「明日も依頼頑張ろうな」
「ワフッ!」
それからしばらく依頼を受ける日々を続けた。時にはDランクの依頼で薬草採取に行ったりもして地道に稼げていた。
今日も依頼が終わった報告をしにギルドに行く。最近は報告の後リーシャさんと少し話すようになった。
田舎から来て一人の俺を心配してくれてるようだ。
「リーシャさんお疲れ様です」
「蓮さんお疲れ様です。今日の依頼はどうでした?」
「今日は薬草採取に街を出てました。元々の知識とアビスの鼻のおかげでたくさん取れましたよ」
「それはよかったですね。薬草採取なんかは量によって報酬が変わりますしたくさん取った方が稼げますからね」
「そうですね。おかげで今日は一番の稼ぎでしたよ」
「蓮さんは新人冒険者としても評価が高いですし、中級魔法を使えるからどんどん上にいきそうですね」
「そのつもりです。とりあえずもうすぐでランクアップを受けられますし準備はしておきます」
「頑張ってくださいね。私も応援してます」
「はい!それでは失礼します。また明日」
「また明日。お待ちしてます」
最近の夕飯はギルドからの帰りにアビスが見つけたところで食べるようにしている。だからまぁ基本は肉になるんだがな。
夕飯を済ませて宿に戻って寝る。この日々の繰り返しだ。
冒険者になって二週間と少し。依頼にもだいぶ慣れてきていまではスムーズにできるようになった。
もう少しでランクアップにも挑戦できるし、上がったら次の街に行ってみてもいいかもな。
ー翌日
「おはようございますリーシャさん」
「おはようございます。今日はどんな依頼を受けられるんですか?」
「今日はDランクのスライム討伐と岩兎の捕獲です」
「捕獲ですか。討伐と違い倒してはいけないから危険度も上がりますし無理はしないように」
「はい、十分気を付けます。では行ってきます」
「いってらっしゃい」
捕獲依頼。討伐依頼とは違い獲物を生きたまま捕まえなければならず、むやみに攻撃していいわけではないので危険度が上がる。実際討伐より捕獲の方が負傷率も上がっている。
けど、これは最適な依頼だと思う。俺やアビスの手加減、力の調整をする練習にはもってこいだ。
正直捕獲用の魔法もあるが今回はいかに攻撃魔法で倒さないようにできるかを試したい。
「アビス、どっちが多く捕獲できるか勝負するか?」
「ワフッ!」
望むとこって顔だな。多分力の加減で言うと俺よりアビスの方が苦手なはずだが。
「じゃあ捕まえたらここに連れてくるように。倒しちゃっても換金するし持ってきてくれな」
アビスは楽しそうに走っていった。俺はアビスと反対方向に行くとしよう。
さっそくいたな。さてなんの魔法を試すか。岩兎相手だから初級の魔法ぐらいしか使えないし、なるべく傷つけないようにするには雷魔法がいいかな。
「雷魔法《 スパーク 》」
ビリッと一瞬電気が走り岩兎に直撃する。その瞬間岩兎の全身の毛が逆立ち、その場に倒れた。
ど、どうだ。生きているだろうか。口元に手を当てて確認するが息はしていない。失敗か。
とりあえずこいつはストレージに入れて次を探そう。次はもっと弱く。
何体か試すと微弱な電撃で麻痺させることに成功した。
いまさらだがグランドベアに浴びせた電撃ってこれより何倍も強かったのに死なないなんてあいつ結構な化け物だな。
とりあえずこんなところでいいか。捕獲4羽、討伐3羽。まぁ上々だろう。アビスはどうかな。
まだ戻ってないようだし少し休憩しとくか。
「ワフッ」
突如背後からアビスの声がした。急に気配がして思わずびっくりしてしまう。
「びっくりした。いつの間に。てかそれなに?」
アビスの足元から黒い何か、紐のようなものが出てそれらが岩兎を捕まえている。
「まさか魔法使えるようになったのか?」
「ワフッ!」
すごい。これがアビスの魔法か。何系統なんだろう。
なるほどこの黒い何かを絡めて絞めたのか。やり方が上手いな。
アビスは捕獲5羽、討伐3羽。
「はは、負けたよ。すごいなアビス」
頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振る。
「じゃあこいつらはいったん置いといて次はスライム狩りだな。たくさん狩るぞ」
「ワフッワフッ」
次は加減しなくていいからアビスも喜んでいる。
スライム討伐は実に楽だった。俺もアビスも遠慮なく攻撃をぶつけて、少しスライムに悪いぐらいだ。
「じゃあ戻ろうか」
岩兎を持って街に帰る。
捕獲した岩兎とスライムの魔石は納品して報酬と交換してもらって、討伐してしまった岩兎は1羽を食事用に残して他は換金だ。報酬は銅貨1枚。Eランクの魔物って討伐する旨味全然ないんだよな。
「あら、蓮さん戻ってたんですね。おかえりなさい」
「あ、リーシャさん。ただいまです」
「依頼の方は無事に終わりました?」
「はい。怪我もなく達成しましたよ」
「よかったです。もう私心配で」
「はは、倒さないようにするのが難しくて二人で六体も討伐しちゃいました」
「そうなんですね。お強いですね。ところでこの後のご予定は?」
「宿に戻って討伐した岩兎を焼いて食べようかなって思ってました」
「岩兎だけですか?いつもそんな食生活なんですか?」
リーシャさんが迫るように聞いてくる。
「は、はい。まぁ基本いつも肉ですね」
「それはまたなんというか」
今にもため息が出そうなほど呆れているといった顔だ。
「私今日はもうお仕事終わりなので良ければご飯ご一緒にどうですか?おいしいとこ紹介しますよ」
「いいんですか?行きたいです」
「では着替えてきますので噴水のところで待っててください」
「わかりました」
リーシャさんに言われた通りギルド前の噴水で待っておく。ギルドの外で職員と会うのは初めてだな。私服だろうか。どんなのだろう。
「すみません、お待たせしました」
白のブラウスに薄茶色のロングスカート、深緑のショートケープと小さめの鞄。リーシャさんの私服はどこか柔らかい雰囲気を感じる。
「変、でしょうか」
「い、いえ!そんなこと、とても似合ってます」
「ふふ、ありがとうございます。じゃあ行きましょうか」
私服だからだろうか笑顔がいつもより自然に優しく見える。
リーシャさんの案内で店まで歩く。東区の大通りを外れて小道に入ってしばらくすると木と石で作られたこじんまりとした店があった。入り口の横に小さなランプがあるだけで派手な看板とかはない。扉に手書きで店名が書いてある。木漏れ日亭。温かみのある店だ。
「ここです」
中に入ると、柔らかい橙色の光が店内を照らしていた。客席は少なく、丸いテーブルがいくつか並んでいる。厨房からはいい匂いが漂ってくる。
「注文は私に任せてくださいね」
「あ、はい。お願いします」
リーシャさんは何度も来ているようでメニューを見ずに注文をしている。店主とも親しそうだ。
「そうだ、蓮さんお酒は飲めますか?」
「一応飲めますよ」
「でしたら果実酒もお願いします」
「はいよ。待ってな」
お酒か。飲めなくはないがそこまで強いというわけでもないし、この世界のお酒はどんなものなんだろう。
「リーシャさんはよくお酒を飲むんですか?」
「たまにですが。お外で食事をする際に嗜む程度に。ここの果実酒は甘くて飲みやすいですよ」
「そうなんですね。楽しみです」
「そういえば岩兎はどのくらい捕まえられたんですか?」
「俺が4,アビスが5ですね」
「まぁアビスちゃんそんなに、すごいですね」
アビスは褒められて上機嫌なのかリーシャさんの席の周りをクルクル回っている。
最近ではかなりアビスも懐いているようだ。
「俺もびっくりでしたよ。正直アビスは手加減が苦手だと思ってたんですけどね」
「たしかに魔物に捕獲という文化はなさそうですしね」
「これからの成長も楽しみです」
「なんかすごい子になりそうですね、ふふ」
たしかに。アビスはいつかすごいなにかになるかもしれない。成長速度が普通じゃないし魔法まで使えるからな。てか魔物って魔法使えるものなのかな。グランドベアですら使ってなかったし。
「リーシャさん、魔法を使う魔物っているんですか?」
「いますよ。でもそういうのは魔獣と呼ばれています。理性知性を持った魔物ですね」
「魔獣、ですか」
「私は見たことありませんが人の言葉を話す魔獣や神獣、霊獣なんて言われる伝説級の魔獣も過去にはいたそうです」
「その神獣と霊獣の違いってなんですか?」
「たしか、神獣は神の使いを名乗る魔獣で神聖魔法が使えるとか。霊獣は存在が精霊と同格で実体がなく精霊魔法を使う魔獣だったはずです」
「じゃあ普通の魔獣、神獣、霊獣の三つがいるというわけですか」
「そうですね。普通の魔獣についてはたまに目撃情報もありますよ」
「いつか会ってみたいですね」
「そうですね」
「待たせたね。できたよ。野菜の煮込みスープに魚の香草蒸し、サラダとパンに果実酒ね。それとこれはその子のやつね。じゃあごゆっくり」
「アビスの分まで頼んでくれたんですか?ありがとうございます」
「ワフッ!」
「いえいえ、たくさん食べてくださいね」
アビスのは野菜のスープと魚の塩焼きだろうか。香草だと少し刺激が強かったかもしれないからありがたい。てか何気にこの世界に来て初めて魚を食べるな。
「ではいただきましょうか」
「はい、いただきます」
野菜のスープ。スプーンですくうと、湯気と一緒に野菜の甘い香りが広がった。一口飲む。優しい味だ。玉ねぎの甘味や野菜の柔らかい風味が口に広がっていく。
「どうですか?」
「なんか…落ち着く味です」
リーシャさんは少し嬉しそうにほほ笑む。
「ここのスープ好きなんですよ。優しい味ですよね」
次は魚の香草蒸し。白身魚だろうか、その身にフォークを入れるとほろりと崩れた。そのまま口に運ぶと、ふわっと香草の香りが鼻を抜ける。肉のように強くない味。淡白な身に香草の香りが合わさって食べやすい。
「うまい…」
思わず感想がこぼれる。
「蓮さんって普段お魚食べてますか?」
「全く食べてないです。ほとんど肉だけで」
「やっぱり。これにして正解でしたね」
わかってましたよと言わんばかりにリーシャさんは笑ってみせる。
サラダ。シャキシャキとした葉野菜の中に砕いた木の実が混ざっている。自然の香りが広がる。
「木の実はサラダにも使えるのか」
「たしかにそのまま使うのは少し珍しいかもしれないですね」
「そうですね。俺はソースとかになら使うんですが」
「木の実のソース、甘さがあって美味しいですよね」
パンか。見た目は少し硬そうだ。ちぎった瞬間、湯気が立つ。見た目通り表面は少し硬めだが中はとても柔らかい。ほんのり塩味を感じる気もする。これはスープと合いそうだ。
「パンはスープと食べるとおいしいですよ」
やはりか。スープの甘味とパンの塩気が絶妙に絡み合って食べても食べても腹が空くようだ。
「たしかにめっちゃ合いますね」
「パンの塩気がちょうどいいですよね。実は果実酒にも意外と合いますよ」
リーシャさんはそう言ってパンを一口食べ、果実酒のコップを口元に運ぶ。
合うのだろうか。淡い琥珀色の液体を一口飲んでみる。甘い。お酒というよりジュースに近い感じだな。しかもスープより自然な甘味といった感じだ。少しパンが負けるような気もするが合わなくはない。
「どれも美味しいですね。誘ってくれてありがとうございます」
「よかったです。これからはちゃんとした食事も取ってくださいね」
「善処します…」
「ふふ。直らなかったらまた連れてきますから」
「リーシャさんって面倒見のいいお姉ちゃんって感じですね」
「そうですか?でも私にこんな立派な弟はいません」
「立派じゃないですよ。食事も言われなければ同じようなものを食べてますし。明日暮らすお金もあるかどうかっていう生活ですし」
「それでも冒険者としてしっかり働いてますし、力だってある。十分立派ですよ」
「ありがとうございます。なんだか嬉しいです」
「もう数日でランクアップを受けれますよね。蓮さんなら大丈夫です」
「頑張ります。それとずっと気になってたんですけど…」
「どうしました?」
「俺の方が年下なのにさん付けってなんか違和感あります」
「そうですか?私は誰にでもこうですよ」
「なんかむず痒いのでなんとかなりませんかね?」
「では蓮くんでどうですか?」
「それならまだいいです」
「ではこれからは蓮くんと呼びますね」
「はい。お願いします」
リーシャさんとの楽しい食事は瞬く間に終わってしまった。ちなみにアビスは早々に食べ終えて暇だから店内を歩き回っていたら店主おかわりをくれた。温かい店だ。
リーシャさんはギルドの寮で暮らしているらしいのでみんなでギルドまで戻る。ギルドに着くと今日のお礼を言って分かれる。楽しかったし美味しかった。
そして数日後いよいよランクアップを受けられる。
「あのDランクのランクアップを受けたいんですが」
「本日でしたら依頼での試験となりますがよろしいですか?」
「はい。どんな依頼ですか?」
「薬草採取と討伐の複合依頼になります。受けられますか?」
「はい!お願いします」
ついにランクアップを受けられる、そう思い高揚する気持ちが抑えられない。一か月、長いような短いような。けど冒険者としての基礎を作るには十分な時間だった。無事Dランクに上がろう。




