遭遇
クレイヴ達と別れてから3日ほどが経った。
ジンが教えてくれた索敵の方法を自分なりにアレンジして効果範囲を広げることができた。全体を一気に索敵しようとするのではなく前後左右の4回に分けて連続で索敵する。
一度に索敵するのが一方向だけなのでそちらに魔力を集中できて射出距離を伸ばせた。だいたい40mってとこだろうか。
さらにいくつかの新しい魔法も使えるようになったしそろそろ出発するべきか。
クレイヴがくれた短刀を腰に携えて中心を避けるために南西の方向を目指す。25m進む度に索敵を行いつつ慎重に進む。
途中一角兎を捕まえて食料も確保しておく。
どのくらい進んだか分からないが日が傾いてきたので野営できそうな場所を探そう。
レストエリアと違って開けている場所がないな。少し歩くとちょうどよさそうなところを見つけた。
木を柱にして土の壁を作ればなんとかなりそうだ。
「土魔法《 アースウォール 》」
ーゴゴゴ
魔法を唱えると地面が少し揺れ始めた。やがて土が少しずつ押し上げられるように盛り上がってきた。
高さ2mほどの壁を四方に作る。
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アースウォール
土系統初級魔法
地中の土砂を魔力で引き上げ、圧縮・固定することで壁を形成する
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これで今夜の野営地はできた。さきほど捕まえた一角兎を捌いて明日の分まで調理しておこう。
移動と野営を繰り返すこと数日、それは突然だった。
ーピコッ
何か大きなものが索敵に引っかかった。まずい!こっちに向かってきている。は、速い!
「グオォォ」
熊か?けどこんな大きい熊いるのか?3mはあるぞ。濃い茶色の毛皮に丸太ほどありそうな腕。
ま、まさかこいつはジンが言ってたグランドベアか。
早く逃げないと。あの三人でも戦闘を避けるほど厄介な相手と言っていたし。
熊は真っ直ぐこっちを見てくる。
そしてその太い腕を上げて俺目掛けて振り下ろしてくる。やばい!そう思って体を左の方に逸らす。
ブオンッ、と熊が腕を振り下ろすと風を切る大きな音がした。
な、何とか避けれたけどこれ当たったらひとたまりもないぞ。逃げても追いつかれるだろうか。せめて足止めだけでもして
「植物魔法《 バインドヴァイン 》」
魔法を唱えると瞬時に地面から植物の芽のようなものが生えてくる。それは瞬く間に成長して地面を這う蔓となる。蔓は成長の過程で熊の足に絡みつくように伸びた。これでも少しでも時間を稼げたら。
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植物系統初級魔法
バインドヴァイン
地中に存在する植物の根や種子へ魔力を流し、急速成長を促進することで蔓を形成する
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あんな拘束無いようなものだろうがあいつから姿を隠す時間さえ作れたらいい。
走りながら後ろを振り返ると熊は蔓を引きちぎって追ってきている。
しかもあいつまた真っ直ぐこっちに来るし。なんで場所がバレてるんだ。明らかに死角に隠れたし音も出していなかった。どうやって俺を見つけてるんだ。
まずはあいつの索敵の仕方を見極めた方がいいな。もう一度足止めして隠れよう。
「植物魔法《 バインドヴァイン 》」
今度もあいつの死角に隠れてさっきよりも入念に気配を消そう。隠れたとこは見られてない。今度こそ見つけられないだろう。木の陰からそっとあいつを見てみる。何をしてるだあいつ。そこら辺の木から枝を切り落としてる?一体何をするつもりなんだ...
「まさか!」
熊は切り落とした枝を拾ってこっちに投げてきた。枝が散弾のように散らばりながら迫ってくる。僅かに早く気づいて避けれたが少し腕を切ってしまった。
クソ!頭も使ってくるのか、厄介な。とにかく早く隠れて止血しないと。
「植物魔法《 バインドヴァイン 》」
結局また索敵方法はわからなかった。
傷は深くないしニーナがくれた包帯で何とかなるだろう。
あんな化け物どうしたらいいんだ。逃げたくてもあいつの方が速くて追いつかれるし、隠れても見つけられるし。
「どうすればいいんだ...」
また・・・何も仕掛けてこない?今度は何をしてるんだ。今度は何をしているんだ。
再度あいつを見ると俺が攻撃を食らった位置に立ち、きょろきょろと周りを見ている。
どうやら今度は見つけれてないようだ。なんで。・・・あれは!俺の血か?
他にもあいつが視線を向ける先には俺が移動の時に垂らした血がついていた。
なるほど。あいつは獲物の匂いで位置を特定してるのか。けど傷つけたことで今の俺は血の匂いがしている。ただの血液か俺本体かは分からなくなっている様子だ。
これはチャンスかもしれない。血の匂いをうまく使えばあいつを倒せるかもしれない。けど、今の俺にあいつを倒せるほどの攻撃魔法を出せるだろうか。
「風魔法《 ウィンドカッター 》」
射出された風の刃は熊の体に当たったが全く効いてていないようだ。チッやっぱそうか。
魔法を放ったことで熊は俺の位置を見つけ突進してくる。
ずぐに場所を移動して隠れて策を練ろう。
辺りに血をつけておけばあいつの嗅覚を誤魔化すことができる。あいつを仕留めることができる手段は何かないか。
ーガサッ。
これは!もしかしたら倒せるかもしれない。とりあえず隠れながら準備だ。
よしこれで準備はできた。あとはうまいこといくのを願うしかない。
あいつは・・・徐々にこっちに来ているな。作戦は立てれた。意を決してあいつの目の前に出よう。
木の陰から音を立てないようにそっと体を出す。まだこっちには気づいていないようだ。
熊に向かって右手を伸ばす。魔力を集め、それはやがてソフトバールぐらいの大きさの水球となった。
「水魔法《 ウォーターボール 》」
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ウォーターボール
水系統初級魔法
空気中の水分および水を集束し、魔力によって球状に固定・圧縮し、高速射出する
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水球は熊の顔めがけて射出された。ピシャと軽い音が響き、水球は熊の顔に直撃して破裂する。
これがダメージになるとは思ってない。狙いはそこじゃない。今飛ばした水球には俺に血を混ぜてある。
「これで匂いで索敵はできないだろ」
熊の嗅覚を封じることであいつの索敵を視覚頼りにさせる。普段鼻で索敵しているのに急に使えなくなったことで焦りが生じるだろう。焦れば視野が狭くなる。
「グオォォォォ!」
思った通り熊は怒りを露わしている。木々の枝を気にせずその巨体に当てて折りながらこちらに突進してくる。ドンドンと熊が一歩踏むごとに地面が揺れているようにすら感じる。
熊に追いつかれないように木々の間をすり抜けながら右に左にと動き回りながら逃げる。このまま当たらないように逃げつつあいつを誘い込もう。熊をかく乱するように走り回る。
熊は勢いがつきすぎて完全には曲がり切れず木に体当たりして倒しながら方向を変えて向かってくる。熊の足音と木が倒れる衝撃で鈍い音が何度も森の中に響き渡る。
すると一瞬熊の動きが止まる。事前に地面に張っておいた蔓で足止めできているみたいだ。一瞬でも動きがとまればこっちのものだ。まずはあいつが突進するための踏み込みをできないようにする。
「氷魔法《 フリーズ 》」
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フリーズ
氷系統初級魔法
空気中の水蒸気および水分から熱量を奪い、低温環境を形成することで氷を生成する
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魔法を唱えると熊の足元の地面がみるみる白くなり、冷気が目に見えるほどに冷やされいる。
あいつの足元に氷を張って滑るようしてから次の魔法を唱えようと詠唱をする。
「土魔法《 アースウォール 》」
熊の四方を土壁で覆う。野営するときに作った壁よりも分厚く、熊の一撃でも壊れない強度に。
ここまでは順調だ。仕上げにかかろう。
木に登って熊の頭上に移動する。そしてウィンドカッターをいつもより込める魔力を増やして乱射する。少しでも傷がつくことを願って。
「風魔法《 ウィンドカッター 》」
いつもより強度を上げて、さらにそれを縦に三発連ねることで殺傷性を上げる。
無数の風の刃は風を、土壁を、地面を、そして熊の体を切って消えていく。
ここまでやっても軽い切り傷程度しか作れないが今はそれでいい。とにかくひたすらに撃ちまくる。
「グガーーー!!」
熊は風の刃を気に留めず怒りながら土壁を殴る。ドゴンッ、ドゴンッと重い一発を壁に叩き込み続けているが、ぽろぽろと土のかけらが落ちる程度で壊れる気配はない。
50発も浴びせたら熊は体中傷だらけになっていた。
しかしこれで倒れる様子はない。まぁ剃刀で皮膚を撫でてるのと同じだろうしな。
ただそれだけ傷があれば次の攻撃は防げないだろう。ポケットから無数の葉っぱを取り出して熊に投げつける。そしてそこに向かって魔法を放つ。
「炎魔法《 ファイアボール 》」
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ファイアボール
炎系統初級魔法
可燃性を持たせた魔力に高密度の熱量を付与し、燃焼状態を維持したまま射出する
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右手を掲げて詠唱をする。徐々に周囲の温度が上がり、手の前にサッカーボールほどの大きさの火球ができる。
火球は散りばめた葉っぱを燃やしながら熊に直撃する。
それ自体では熊の厚い毛皮に防がれてダメージはないようだ。しかしーー
次の瞬間熊の口から紫色の泡が溢れ、巨体が痙攣してやがて沈黙した。
勝った、、のか。・・・とりあえずアースウォールを解除する。すると土壁は上の方から崩れ始め倒れた熊の覆いかぶさるように崩壊した。
熊を撃退した場所から少し離れ、作り置きしていた傷薬を使って手当をする。
傷事態は熊が枝を投げてきた時にできたものだけだから大したことないが、さすがに疲れた。
魔力が枯渇する気配はないが体力的にしんどい。けどもう少しここから移動した方がいいだろうな。
風に乗って毒がこっちまで来るかもしれない。まさかニーナが教えてくれた毒草がこんな風に役に立つなんてな。傷口から毒を吸収させる作戦。もしウィンドカッターで傷をつけれなかったら為す術がなかったな。
ーガサッ
その場を離れようと立ち上がった瞬間、草むらの方から音がした。まさかあいつまだ生きているのか。背筋が凍り付く思いで振り返ると・・・。そこには黒い狼の子供のようなものがいた。
「こいつは一体、、、」




