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異世界の魔法

 周囲は大きな木に囲まれていた。

 空は葉に覆われ、辛うじて日光が差し込む程度。地面もどこか湿っている。

 そして何より、薄気味悪い。

 遠くから聞こえる動物の鳴き声が、森の静けさを余計に際立たせていた。

 

 本当にここは異世界なのだろうか今はまだ信じ難い。

 ただここがどこであれ迂闊に動くのは危険だ。まずは周囲の安全を確認しないと。

 神がくれたというスキル『気配察知』を試してみよう。しかしどうやって使うのだろう…。声に出すのか?


「気配察知!」


 特に変化はない。


「スキル気配察知!、、、気配察知発動!、、、気配よ!」


 いくら試しても発動している気配はない。どうすればいいんだ。うーん、気配察知か。気配、気配、、、。


ーモワッー


 ん?今一瞬何か感じたような。もしかして強く思えばいいのか?

 気配、気配よ~・・・。何か違う気がする。

 そもそも気配察知とは自分を中心に周囲の生命反応を感知するスキルだよな。感知ということは感覚を研ぎ澄ませばいいのだろうか。

 目を閉じ、先ほど感じた気配に集中してみよう。


”スキル 気配察知”


 わかった!一瞬だが明らかに何かがいることはわかった。もう少し深く集中してみよう。


ーピコッー


 いた!なるほど深い集中が必要なのか。とりあえず今ので周囲に三体何かがいるのはわかった。それが何かはわからないがそちらの方は避けて移動しよう。


 定期的に気配察知を使いながら生物のいない方へ進んでいく。

 地面が少し湿っているので時々足が取られてしまい、靴が徐々に土で汚れていく。

 しばらく歩くと小さな川が流れていた。サバイバルにおいて水の確保は重要だが、それは他の動物も同様だ。つまりこの水場にいるのは敵対的な動物と出会うリスクがあるため離れた方がいいだろう。 

 川を背に気配察知を使いながら生物のいない方に移動する。


 30分程歩いただろうか、少し木が減ってきたような気がする。すると少し開けたところに出た。

 一本の大木が生えてるだけで周囲には木が生えていない。

 見晴らしがいいな。動物にとってはいい狩場になりそうだ。しかし…周囲に気配はない。しばらくして何も現れなかったらここを仮拠点としよう。


 少し離れたところから様子を伺っていたが動物がやってくる気配はない。では、あの大木の根本に拠点を構えよう。

 拠点を決めたはいいがこれからどうするべきか。とりあえず水の確保をしないといけないな。しかし水場には近づけない。

 ・・・魔法を試してみるか。

 確か魔法書っていうスキルがあったな。さっきみたいに集中して念じてみよう。


”スキル 魔法書”


 さっきまでそこには何もなかったが、スキルを念じると青白い何かが霧のように集まり始めた。それは空中で何枚ものかみのように重なり、やがて一冊の本の形を成していく。革張りの黒い表紙。銀色の紋様が淡く脈打つように光っていた。


「……これが、魔法書」


 恐る恐る表紙を開く。

 静かな森にパラ、と紙の擦れる音が響いた。

 中には淡く青白い文字が浮かび上がっている。インクで書かれているというより、なにか不思議な力…魔力、だろうか。それが文字となって弱く光っている。

 最初のページには大きくこう記されていた。


 ーー【初級魔法】


「初級魔法……?」


 さらにページをめくる。

 今度は一つの魔法について詳しく書かれていた。


 ーー《ウォータ》


 文字の下には複雑な図形や線が並んでいる。円の中に文字が刻まれ、そこから枝分かれするように線がのびていた。これはまるで…魔法陣。

 さらにその下には説明文が書かれている。


ーーーー

ウォータ

水系統初級魔法

空気中の水分および術者の魔力を媒介として水を生成する

ーーーー

 

 なるほど…水を生み出すというよりは周囲の水分を集める感じだろうか。


「ウォータ!」


 …何も起きない。これではまだ原理を理解していないということか。

 発生する水は周囲の水分の集合体?でも魔力を使っているから純粋な水分ということではないのか?ならどうやって発生させる?いやその前に魔力について認識するべきかもしれないな。

 アニメとかだと目を閉じて体内に熱いものを感じているが。

 ・・・たしかに。これ何か感じるな。これが魔力なのか?このまま指先に集めるイメージ。

 指先にビー玉ぐらいの塊を作り、そこに水分を集める。周囲の水分を集め魔力で留める。


「お、できた!」


 しかし、パンッと弾けるような音とともに水は零れ落ちた。しまった。集中を切らしてしまったからか。だけどコツはわかった。

 しばらく練習を重ねることで安定して水球を作り出すことができるようになった。込める魔力の量で水球の大きさが変わるようだ。


 魔力は事象の結果を生み出すのでなく補助をする役目か。

 ウォータだと事象の結果は水を発生させることだが魔力は水分を留めておくために用いる、いわばコップのような役目なんだな。


 これで水の確保はできるようになった。

 次は火を起こして暖を取れるようにするべきかな。


ーーーー

ファイア

炎系統初級魔法

魔力を媒介に周囲の熱量を一点に集中して炎を発生させる

ーーーー


 火か。火ってどうやって発生するんだ。たしか酸素と可燃物の反応だっけ。酸素は空気中にあるし今回は魔力に可燃物の役割をさせればいいのか。

 まず先ほど同様に指先に魔力を集める。大きさを制御するために魔力でサイズを決める。この範囲内の圧力を強めて温度を上げる。酸素と可燃物(魔力)が高温により反応して・・・


「ファイア」


 発火する。で、できた。熱いな。これは水より慎重に扱わないと思わぬ事故に繋がって危険だな。

 次のページはなんだろう。


ーーーー

ウィンド

風系統初級魔法

風とは流れである。空気は常に循環している

循環を引き起こすことで風を発生させる

ーーーー


 風を発生させる魔法か。

 風って空気が移動して発生してるんだよな。なら魔力で空気を押し出す感じにすればいいのか。魔力を指先に集め、今度は囲うのではなく押し出す形に、筒状にする。


「ウィンド!」


 そよ風程度だが風が起きたのたしかに感じた。

 これ原理の理解って結構難しいな。普通に科学的な知識も必要だし。この世界の人々はこれを感覚的にやっているのだろう。すごい。


 この風を押し出すっていうの、もう少し工夫すれば攻撃的なものにできそうだけど。

 本を数ページめくるとウィンドカッターというページにたどり着いた。


ーーーー

ウィンドカッター

風系統初級魔法

高密度に圧縮した空気流を薄く固定し、高速射出することで対象を切断する

ーーーー


 射出する風を薄く鋭くか。

 そういえば地球にウォーターカッターっていうのがあったような。たしか水を超高圧にすることで物を切ってるんだよな。ということは必要なのは圧力か。より薄く、圧力をかけて


「ウィンドカッター」


 射出された風はすぐに散ってしまった。なぜだ。押し出す力が足りなかったのか?今度は強く押し出してみよう。


「ウィンドカッター!」


 先ほどよりは射程距離は伸びたがやはり散ってしまう。

 どうしたらいいんだ。……そうか、射出された空気は形を留めるための魔力を帯びてないのか。ということは射出される空気にも魔力を流す必要がある。けど分厚いと意味がない。空気よりもさらに薄く鋭い魔力をまとわせて。


「ウィンドカッター!」


 再度射出された空気は透明な刃となって少し離れた木の幹に切り込みをつけた。

 こういうことか。これがあれば遠くのものを着ることができる。



 魔法に夢中になっていて日が傾いていることに気づいていなかった。急いで食料と薪を確保しなければ。

 近くの実の成っている気に向かってウィンドカッターを放つ。刃は木の枝を切断して木の実が落ちてくる。

 いくつか収穫して巨木の根元に戻る。切断した枝から実を取って薪にする。枝を設置してファイアを唱える。無事に焚火ができた。

 しかしこの木の実は食べても平気なのだろうか。見た目は特に問題なさそうに見える。

 ゴクッ。この世界に来て何時間経ったかわからないが腹が減っているのはたしかだ。

 意を決して一口かじってみる。ほんのり甘い。絶品というわけではないが食べられなくもない。今日はこれを食べたら眠りにつこう。


 魔法って難しいけど原理を考えるの少し楽しいな。それに結構何回も使ったのに魔力が減ってる感じもしない。ほんとに魔力量多くしてくれたんだろうな。



 ま、まぶしい。太陽の光に照らされて眩しさのあまり目が覚めた。

 よかった。寝てる間に襲われたりとかはなかったみたいだ。


 今日はまた魔法の勉強でもしよう。

 それともう少しまともな食料も探さないとだな。朝食は夕べ採った木の実を食べてよう。


 ご飯も食べたしまた魔法を覚えるか。スキルを発動して魔法書を出現させる。ページをめくり魔法の勉強を始める。


 昼過ぎには食料を探すために少し移動する。まだ生物と出くわすのは怖いので、気配察知をしながら何もいない方を目指して歩く。



 修業と食料確保の日々を送って数日。スキルの修業もしたおかげで気配察知をだいぶ無意識的に行うことができるようになってきた。それでも気を抜くと忘れてしまうが。

 とりあえず今日もまずは魔法について学ぼうと思い魔法書を開いた瞬間、気配察知に何かが反応する。2、、、3か。

 明らかにこっちに向かってきている。なんだろう。ここには隠れる場所がない。迎え撃つしかないか。

 気配に集中しながら攻撃の準備をしておく。


ーガサッ


 目線の先の草むらがかすかに揺れている。なにか…来る!目の前に現れたのは……鬼?角の生えた人間のようなものが三体。


 こいつらなんなんだ。


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