暗闇のその先に
無事にCランク冒険者となった悠真を新たに仲間に加えて、ノクレアの街を出発してドワーフの国を目指す。
「そういえばなんでガルドヘイムなんだ?」
「ドワーフは研究熱心で様々な分野の専門家がいるって聞いたからな、その中でもまずは腕のいい鍛冶師を見つけて悠真の装備を強化してもらおうと思ってるんだ」
「俺の装備?」
「悠真は前衛だからな、質のいい武具を持っているに越したことはない。ナーグさんのくれた剣も本人が言っていたように良いものではないからな」
「結構使いやすいんだけどな~」
「俺の短刀と比べてみるといい」
そういって腰にある自分の短刀と悠真の腰の剣を一本抜いて並べる。
「よく見ると悠真の剣の方が刃こぼれしてるだろ?」
「確かに。でも俺は戦闘で毎回使うけど蓮はそうでもないから普通じゃない?」
「そこだよ。いくら毎回使うとは言え年季の入ってる俺の刀より脆い剣を前衛が使うのは危ないだろ」
「前衛の俺の武器が壊れたら元も子もないってことか」
「そういうこと。悠真の武具の質を上げることは俺たちの生存率を上げることでもあるからな」
「わかったよ。でも蓮とアビスがいれば危ない目に遭うことなんてなさそうだけどな」
「慢心はよくないぞ。俺達だって今まで死線を乗り越えてきてるんだから」
「大変だったんだな。そうだ、二人の話聞かせてよ」
「そうだな俺達はーー」
それから俺はアビスとの出会いから今日までのことを、かいつまんで話した。
この世界に来て、なにもわからない俺をそばで支えてくれたのは間違いなくアビスだ。
正直アビスのことはよくわからない部分も多い。
魔法使えるし、成長が早いかと思えば急に止まるし。
誰も見たことがない魔獣だけど、俺にとってはかけがえのない存在。
「アビスは家族みたいなものだな」
「蓮がそこまで言うの珍しいな」
「まぁな。アビスがいてくれたおかげで寂しくはなかったし、それになによりかわいいからな」
アビスを目一杯撫でてあげるととても嬉しそうな顔をする。
「ワフッ!ワフッ!」
尻尾をブンブン振ってご満悦の様子だ。ほんとになんともかわいらしいな。
「てか軽くスルーしてたけどアビスって魔法使えるの!?」
「使えるぞ。でも、見られたらまずいから人目につかないところでしか使わせないけど」
「魔法が使える魔物なんて、手に入れたがるやつ多いだろうな」
「このことは他言無用で頼む」
「わかってる。黙っとくよ」
「助かるよ。そういえば魔法じゃないけど活性化した魔物の中には魔力そのものを飛ばして攻撃してくるやつもいたから気をつけろよ」
「魔物が魔力使うとか反則だろ~」
「いつか悠真も戦うことになるかもな」
「いやいやそんなの勝てるわけないって」
「まぁその時は…」
「その時は?」
「諦めてくれ」
にこっと冗談っぽく笑ってみる。
「いや見捨てんなよ」
悠真にツッコまれて二人して笑ってしまう。
楽しいな。言葉を交わすのがこんなに楽しいだなんて知らなかった。
アビスとも心で通じ合えるが、やはり言葉で通じ合うのも大切だな。
こんな風にアビスとも冗談が言い合えたらもっと楽しくなりそうだ。
それから数日は小さな村や街を転々としながらどんどん南下していきガルドヘイムを目指す。
途中にいくつか依頼を受けたりして路銀を稼いでいる。
今はまだ正式なパーティーではないので別々の依頼を受注できるから稼ぎが増えるのは利点だ。
「こうやって分担できるのはいいけど正式にパーティー組めないのは残念だな」
「ギルドの条件では三人以上かつCランクが二人以上だからな。せめてあと一人、誰かいれば」
「どっかに良さそうなフリーの冒険者いないかな」
「できれば回復魔法が使える人だといいな。俺もまだ回復魔法は習得できてないし」
「蓮のスキル魔法書には回復魔法も載ってるんだろ?」
「載ってるけど理解できないから使えないんだ」
「理解できない?」
「考えてみろ。傷が一瞬で直るなんて地球の知識ではありえないだろ。だからどうにもイメージができないんだ。仮に使えたとしても魔法の原理を理解していないと無詠唱は無理だからどのみち理解してから習得する方が俺にはあってる」
「蓮のスキルって魔法職としては最高なのに結構条件厳しいな」
「俺が難しく考えすぎてるだけって可能性もあるけどな」
「まあでもこの世界の常識としては無詠唱なんてありえないから難しくないわけがないよな」
「珍しいスキルだって自覚はあるから普段は詠唱して隠してるし、あと全属性なのもバレたらめんどそう」
「ほんとつくづくチートだな」
「悠真だって身体強化と身体機能上昇の二つ持ちなんて十分チートだろ」
「神にもらった時点でどっちもチートだな」
「あまり公にスキルの話とかしない方がいいかもな。余計なことに巻き込まれたくないし」
「じゃあパーティーメンバーも誰でもいいってわけにはいかないか」
「そうだな。しっかり考えよう」
「冒険者も意外と大変なんだな」
「まぁその分やりがいもあるから。それに冒険者は知り合いを見つけるための手段だからな」
「それもそうだな。ところで高山地帯まであとどれくらいかかるんだ?」
「そうだな…ベルフォード領に入ってから2日経つから後2、3日ってとこじゃないかな」
「ノクレアを出てまだ一週間程度だし結構近いんだな」
「問題はガルドヘイムを見つけられるか、だな。高山地帯自体が広い上にあまり街道も整備されてないみたいだから」
「さすがに登ったり下りたりするのはしんどいぞ」
「次の街で情報を集めてみるか」
「そうしよう」
おそらく次の街がガルドヘイムに行くまでにある最後の街だろう。
時間がかかってでも確かな情報を手に入れるまで滞在した方がいいかな。
たしか次の街は中規模都市ディルセア。中規模といってもノクレアより人口が少ないらしい。
ただ商人や冒険者の休憩地として作られた街だから英気を養うにはちょうどいいかも。
それにガルドヘイムと交易している商人も出入りしているらしいから、何か有益な情報が得られるかも。
ー翌日
無事にディルセアに到着したので早速情報収集だ。
俺とアビスは街の人に情報を聞いて、悠真にはギルド周辺で情報を集めてもらう。
「だめだ~。ガルドヘイムまでの道を知ってる人が誰もいない。蓮の方は?」
「こっちもだめだな。多少情報はあったけど、肝心の道順を知ってる人はいなかったわ」
「俺もそんな感じ。たまにガルドヘイムまでの護衛依頼があるらしいけど、今のところはなし」
「数日前までドワーフの商人がいたらしい。少し遅かったな」
「でもガルドヘイムって鎖国国家でもないのになんでこんなに情報がないんだろうな」
「考えられる理由はいくつかあるけど今はそこを考えてる場合じゃないしな。とりあえずしばらくは根気よく情報を集めよう」
「俺は定期的にギルドに行って依頼ないか見とくわ」
それからしばらくは街で情報を集めたり、高山地帯方面から出入りする人々に話を聞いたり、交代で依頼を受けたりする日々が何日か続いた。
そしてーー
「蓮!依頼受けれた。ガルドヘイムまでの護衛依頼」
「まじ!?やっとか」
「内容は商人の護衛、待ち合わせは明朝だって。複数人で受注可能だったから俺と蓮の連名にしたし後で受注してきて」
「わかった、ありがとう」
これでガルドヘイムに行く目途は立ったから一安心だな。
ギルドに行って依頼を受注したら今日は早めに休むとするか。
依頼内容は…商人をガルドヘイムまでの護衛。所要時間は3日程度、報告はガルドヘイムのギルドでいいのか。
何気に護衛依頼って初めてだからあまり勝手がわからないな。とりあえず食料と傷薬なんかはしっかり用意しておこう。
ギルドを出て必要な物を買い出してから宿に戻ると悠真はいなかった。
どこに行ったんだろう。
まぁそのうち帰って来るだろうし明日のことでも考えて待っておこう。
護衛だから配置が重要だよな。
護衛対象が一人でこっちは3人。とすると縦列配置か。
いや、でもそれだと先頭が道をわかる人じゃないといけないな。俺らは誰も道わからないし、依頼主を先頭にするわけにもいかない。
けど道がわかる依頼主に案内してもらうしかないから縦列だとだめだな。
じゃあ依頼主を左右と後ろから挟む陣形なら道案内してもらいつつ、護衛もできるんじゃないか。
色々と配置を考えているとガチャッとドアが開いて悠真が帰ってきた。
「夕飯買ってきたぞ」
もうそんな時間だったのか。
窓を見ると外は薄暗いオレンジに染まっており、日が沈みかけていることがわかった。
1人で考えていても決まり切らないしご飯でも食べながら2人で決めるか。
「明日の護衛の配置なんだけど、どうするのがいいと思う?」
「配置か。依頼主の人を真ん中にして前後で挟むのは?」
「それだと先頭が道わかる人じゃないとダメなんよな」
「あ、そっか。俺らわからないから依頼主の人に先頭になってもらうしかないのか」
「そう、でもそれだとさすがに危なすぎるし」
「案内してもらいつつ安全を確保できる配置か」
「1つ考えたのは、依頼主の左右を俺達で挟んで後ろからアビスに付いてきてもらう」
「それでいいじゃん」
「これだと前方からの急襲に対応できないかもしれないんだよ」
「そんなこと言ってたら全部なにかしら欠点あるよ」
「それもそうなんだよな。ある程度は許容するしかないか」
「とりあえずさっきのでやってみてダメそうだったら変えてみようぜ」
「そうするか」
とりあえずの方針は決まったので翌日に備えて早めに就寝することにした。
ー翌日
門前で待っていると荷馬車を引いた男性がやってきた。
「あなたたちが依頼を受けてくださった冒険者ですか?」
「そうです。ガルドヘイムまで我々がお守りします」
「最近は魔物が多くなっていると聞いて念のため依頼したので、お願いします」
「ではさっそく行きましょうか」
商人を中心に左側を俺、右側を悠真、後ろをアビスが守る形で移動する。
俺は前と左右の索敵に集中してアビスには後ろの索敵に集中してもらうことで魔物の奇襲に備える。
街から3時間ほど南東の方角に進むと段々と整備されている道がなくなり歩きにくくなってきた。
さらに進めば道がデコボコしてきて石が露出していることも多くなった。
荷馬車に積まれている荷物がガタガタと音を立て、そんな荷台を引いている馬にも疲れが見えてきた。
休憩を勧めるべきなのかもしれないがこんなところではろくに休めないだろう。
せめてもう少し開けた所か平坦な所に出ないだろうか。
「あの、この先に休憩できそうな場所はありますか?馬が疲れ始めてきたように見えます」
「えっと、たしか少し道は外れますけど小川があったはずです」
「ではそこまで案内お願いします」
進路を少し北にずらして小川があるというとこまで向かう。
10分も歩くと川の音が微かに聞こえてくる。
周囲は少し開けていて見晴らしも悪くはない。奇襲の心配はないだろう。
「少しここで休憩とします」
商人は馬に水を飲ませたり荷物の状態確認をしたりしている。
「まだ高山地帯まで距離はあるだろうけど結構道が悪くなってきたな」
周囲を警戒していた悠真が話しかけてきたので警戒は解かずに答える。
「あぁ、こんな道が続くと馬の負担は大きいだろうし適度に休憩を取らないとだな」
本当は俺やアビスが先に行って道の状態を確認したいところなんだが、人数が少ないから迂闊に護衛を数を減らすと不安を煽ってしまうかもしれないから行くに行けないな。
最悪野営地ぐらいは俺が魔法で整えてもいいだろう。
「そろそろ出発しませんか?」
「おっと、そうですね。行きましょうか」
再びデコボコ道を進んでいく。今でこんな感じだと高山の道はかなり歩きにくいだろうな。
1日目は魔物に遭遇することもなく、野営できそうな場所も見つけてここで休むことにした。
食事は事前に準備していたものをストレージから取り出して調理するだけだ。
商人も誘ったが持ち合わせがあるから大丈夫だと断られてしまった。
夜の見張り中はうるさくするわけにもいかないし、この前買っておいた初級魔剣士指南書でも読むか。
夢中で指南書を読んでいるとふと後ろから気配がした。
「蓮、交代の時間だぞ」
「お、悠真。びっくりした。もうそんな時間か。じゃあ任せた」
続きはまた明日読むとするか。
ー翌日
俺が寝ている間に悠真とアビスもしっかり見張りを交代したようで、朝になるとアビスに舐められて起こされた。
「おはようアビス」
頭を軽く撫でてあげると尻尾を振って喜ぶ。
「ワフッ」
「悠真もおはよう。見張りご苦労さん」
「ああ、おはよう」
朝食を済ませたらさっそく出発だ。予定では今日にも高山地帯に入れるはずだから気を引き締めていこう。
昨日のように途中で休憩を挟みながら進み、時々小型の魔物が襲ってきたりなんかもしたが難なく撃退した。
2日目も特に問題なく進み、高山地帯の入り口辺りで休み夜が明けてから進むことにした。
ー翌日
いよいよ今日は一気に高山を駆け上がる。なんとか今日中には着けそうだ。
馬の様子を伺いながらゆっくり登っていく。
商人の話によればかなりいいペースで進めているらしい。
「うわー!!」
突然大きな音と共に悲鳴のような声が聞こえてきた。
「なにかあったのかも。急ぎましょう」
駆け足で登っていくと先に人影が見えた。
身長は低いが逞しい体つきに立派な髭を生やした人々の集団。あれはまさかー
「ドワーフですね」
商人がぽろっと口にした。
やはりそうか。しかし一体なにがあったんだ。
奥から数体の魔物がドワーフ達を追いつめるように迫っていた。
ドワーフの一人がこっちに気が付いて叫ぶ。
「お前たち、気をつけろ! モスウルフの群れだ!!」
よく見えないがあれはモスウルフなのか。それが5体。
単体ではそこまで強くはないが集団で行動しているのが厄介な魔物だ。
「悠真いけるか?」
「任せとけ」
腰から2本の剣を抜いてそのまま走り向かっていく。
モスウルフも悠真に気づいたようでドワーフを無視して向かってくる。
向かってきた1体を飛び越えて躱し、着地点にいたもう1体を切りつけながら着地する。
さらに先ほど躱した奴が戻ってきたのを振り向きざまに一撃で仕留める。
残りの3体は警戒しているようで近づいてこようとはしない。
そこで悠真は足を強化して一気に距離を縮める。
一瞬反応が遅れた2体に剣を突き刺して仕留める。
素早く反応し離れた最後の1体に向かって腰を低くし、剣先を相手に向けるように構える。
「迅雷双牙」
技名とともに、一瞬でモスウルフとの距離を消し去る。
次の瞬間、悠真はその背後に立っていた。
一拍遅れて、モスウルフの体に二本の斬撃が交差するように走った。
モスウルフは声も上げる間もなく、その場へ崩れ落ちた。
今のが悠真の武技か。すごいな。
「お前さん方助かったわ」
ドワーフの1人が近寄ってきて礼を述べてくれる。
「いえいえ、間に合ってよかったです。これからどちらに?」
「俺達は人間の街で商売をした帰りでな、国に帰るところだ」
「そうだったんですね。俺達もガルドヘイムに向かっているのでよければ同行してもいいですか?」
「おう、もちろんだ」
ドワーフの案内でガルドヘイムまで向かうことになり、後ろに付いていく。
さすがドワーフは土地勘のあるのだろう。先ほどまでに比べるとだいぶ楽な道を進んでいる。
俺たちから見ればどこも同じような道だが、ドワーフからすれば最適な一本の道があるんだろう。
しばらく上り中腹ぐらいまで来た時に先を歩いていたドワーフ達が止まった。
目の前には洞窟の入り口しかなく道を間違えてしまったのだろうか。
「この先だ」
そう言いながら洞窟の中へと入っていく。
唖然としている俺たちを横目に商人も続いて入っていく。
本当にこの先にドワーフの国があるのだろうか。
入り口こそ狭かったが段々を広くなっていき、やがて先から光が見えてきた。
突然の眩しさに目を眩ませながら進むとーー
洞窟の闇を抜けた先に待っていた光景は、俺の想像を遥かに超えていた。
目の前には反対の壁が見えないほどの大空洞と石造りの美しい街並みが広がっていた。
まさか洞窟内にこんな空間があるなんて。しかもなんでこんなに明るいんだ。
呆気に取られている俺達を見てドワーフはにやりと笑いながら腕を大きく広げて言う。
「ここが俺達ドワーフの国、ガルドヘイムだ!」
この光景に俺はただ息を飲み込んだ。




