鉄の国 ガルドヘイム
山の中を丸ごと抜き取ったかのような大空間にあるドワーフの国。
反対の壁は見えず、どこまでも光は続いている。
「なんで洞窟なのに明るいんだ」
横で悠真がポツリと呟いた。
たしかに外と同じぐらいとまではいかないが洞窟の中にしてはやけに明るい。
松明や火を焚いているわけではなさそうだし、どういう仕組みなのだろう。
「あれはな天井に陽光石を埋め込んであるんだ」
「陽光石?」
「地表の光を吸収して発光する石だな」
「すごい」
「そんな珍しいもんでもない。どこの鉱山でも普通に採れる石だ」
「発光の強さは地表の光に影響されるからここでも夜は来るぞ」
「私も初めてこの国を訪れた時は驚きました」
ドワーフや商人が口々に述べる。
「そんじゃ俺らはもう行く。もし時間があれば店に来てくれ。助けてくれた礼をしよう」
「はい。こちらも道案内ありがとうございました」
ドワーフの人たちは手を振りながら街の中へと去っていく。ドワーフの店か、ぜひ行ってみたいな。
「私たちもギルドに向かいましょうか」
「そうですね。依頼を終わらせちゃいましょう」
ドワーフの国にあるギルドってどんなところなんだろう。
道中に冒険者らしき人は見なかったし、そもそもここは知らないと来れないから冒険者なんているのだろうか。
商人のあとに続いて街中へと向かっていく。
入り口があったのは高台のようなとこでそこから道なりに坂を下っていくとやがて街が見えてくる。
ドワーフの国なので建物は一回り小さく感じる。とはいえ、人間でも問題なく入れそうだ。
石造りの四角い建物が多い。形もほとんど似ているし建築にはあまり興味がないのだろうか。それとも国としてこういう形を推奨しているのか。少し気になる。
それにしても家は多いのに窓に明かりもなく、生活感がほとんどないな。
「あの、ここら辺の家って空き家なんですか?」
「ああここですか。ここは居住区ですよ。ただドワーフは研究熱心だから職場か地下に籠っていることが多いから街は人気がないんですよ」
居住区といってもドワーフからすれば寝るための休憩所みたいなものなのか。
しかし、建物の配置がバラバラすぎてまるで迷路みたいだ。
まるで空いている土地に建てましたといった感じだな。
機能性や効率を重視した結果なのだろうか。
入り口からしばらく歩くとやっと人の気配がする場所に出た。
鉱石らしきものを運んでいる人や図面を広げて話し込んでいる人はたまに見かけるが、人間の街に比べると人通りが少ない。やはり皆研究や仕事に熱中しているのだろうか。
「ここがこの国のギルドですよ」
おお、他の建物と違い大きくはあるが…四角いのだけは変わらないんだな。
中は他のギルドとあまり変わらないな。
ただ、冒険者が少ない。人間の冒険者とドワーフの冒険者らしき人が数人いる程度。
パッと見た感じ掲示板にある依頼も少ないし、ここはあまり冒険者を必要としていないのだろうか。
「それではここまでの護衛ありがとうございました。また機会があればお願いします」
「こちらこそ。ではまた」
さてと依頼も完了したしひとまず宿でも探すか。
「依頼終わったし宿でも探そうぜ」
「そうだな。でもここに宿なんてあるのか」
たしかに。研究することが大好きなドワーフが宿を開いているとは考えにくい。
「ない可能性もあるな」
そうするとしばらく野宿か?
定住するわけでもないのにわざわざ家を買うのはもったいない。
「あの、もしかしてこちらは初めてでしょうか?」
悩んでいるとギルドの職員が話しかけてきた。
「あ、はい。そうなんです。宿とかあるのかなって」
「この国に宿を経営している人はいないんですよ。なので旅の方々は皆さまギルドが経営している宿をご利用になります」
「そうなんですね。では一部屋借りれますか?従魔も一緒に入れるとありがたいのですが」
「それですと一棟貸になりますがよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
「では手続きをしますので代表の方の身分証をご提示ください」
職員の人にギルド登録証を渡すと、依頼を受注した時のように登録証に記録された。
「手続きは完了しました。お支払いは退去時に行いますので忘れずにギルドにお越しください。万が一忘れてしまった場合、他のギルドでもお支払いは行えますがその間も料金は発生しますのでお気をつけください」
「わかりました」
「お部屋の場所はギルドの裏通りにある1008番と書かれた建物になります」
そう言いながら職員は鍵を2つ渡してくれる。
「ありがとうございます」
「それではごゆっくりお過ごしください」
一礼して職員の人は下がっていった。
案外すんなり宿は取れたな。しかも一棟貸だと気兼ねなく、くつろげそうだ
とりあえず部屋に行って荷物を置いてから街を回ってみるか。
部屋は広いわけではないが、寝室とリビング、キッチンが分けられている。
家具も少なくアビスも家の中を自由に歩けそうだ。
「さて、とりあえず観光でもするか」
「この国結構広そうだな」
「さっきギルドで簡易的な地図貰ったぞ」
机の上にギルドでもらった地図を広げる。地図は手書きの本当に簡単なものだったが、ある程度どこに何があるのかは把握できる。
今俺達がいるのは国の北側。外周は居住区がびっしりとしていて中心には王城がある。
その間に商店や鍛冶場、研究所、畑なんかもあるらしい。
「元々鍛冶師を探しに来たんだし鍛冶場は行くとして、俺的には魔導研究のエリアも気になるな」
「こっちに魔法研究ってあるけど何が違うんだろう」
「魔法と魔導か…。なんだろう」
「ここから近いし魔導の方から行ってみようぜ」
「行くか」
宿を出て魔導研究エリアへと向かっていく。
研究というから施設のようなものがあるのかと思えば普通に店が並んでいる。
どの店もおもしろそうなものが置いてあるな。一軒一軒コンセプトの違いもはっきりしている。
この店は調理器具の魔道具か。お、こっちは野営向けの魔道具だな。
あの店はなんだろう。ベルのようなものもあれば、ただの布のようなものもある
「なんだ?客か?」
奥から店主らしき人が出てくる。あれ、あの人は…。
「おおなんだお前たちか。もう来たのか」
「さっきぶりですね。えっと…」
「ヨグンだ。お前さんらの名は?」
「俺は神代蓮でこっちはアビスです」
「ワフッ」
「俺は佐倉悠真です」
「三人ともよく来たな。ゆっくり見て行ってくれ」
「ヨグンさんはどういう魔道具を作っているんですか」
「俺のは他のと一味違うぞ。俺の魔道具は…スキルを再現しているんだ」
「スキルですか?」
「そうだ。普通の魔道具は魔法を再現したものだから当然使用には魔力が必要になる。しかし! スキルは魔力を消費しなくても使えるものがある。つまりそれを再現すれば魔力が少ない人でも使える魔道具が作れるんじゃないかということだ」
「たしかに、魔道具で誰でも魔法が使えるとは言え、それは魔力がある人なら誰でもという限定的な範囲になりますね」
「そういうことだ」
「スキルの再現なんてかなりすごいですね」
「そうなんだが、スキルは魔法と違って術式が存在するわけではないからな、何一つとして完璧な再現には至ってないのが現状だ」
「前例のないものを作るわけですからね。かなり難儀だ」
「話割って悪いけど、術式ってなに」
「術式っていうのは魔法を発動させるための式だよ。簡単に言うと単語を組み合わせた一つの文みたいなものだな」
「いまいちわからん」
「例えばファイアを文章で説明すると、手のひらに火球を出現させるってなるだろ。この文章が術式で、火球って部分を水球に変えればウォータになるように組み合わせで発動する魔法が変わるんだ。魔法使いは瞬時に頭の中でこの文章を作ってるんだ」
「なんとなくわかった」
「ただスキルを使う時は別にこの文章を作ったりしないだろ? だからまずはこれを文字起こししないといけないから大変という話だ」
「神代すごいよくわかってるな。すごいぞ」
「俺も魔法使いとして術式のことは理解していますので。それよりスキルを術式化しようとしているヨグンさんのすごいですよ」
「できるかもわかんねぇけどな。話はこのぐらいにしとかねぇと佐倉が退屈そうだな」
「そうですね。つい盛り上がっちゃいました」
「そうだ、助けてくれた礼をしないとな。お前らの中に鑑定のスキル持ってるやつはいるか?」
「いえ、誰も持ってないです」
「だったらこれを持ってけ」
ヨグンさんが取り出したのは眼鏡のようなものだった。
「これは?」
「鑑定スキルを再現したものだ。それも完璧な再現はできてないからまだ魔物の情報しかわからなくてま、冒険者以外には需要がないしそれを礼として受け取ってくれ」
「こんな貴重な物いいんですか」
「助けてくれた礼なんだ受け取ってくれ」
「「ありがとうございます」」
「さっそく試してみなといいたところだが、せっかくこの国に来たんだからいつまでもこんなとこに居座らずに他も見てくるといい。そいつはまた後でゆっくり試してくれ」
「そうします。また来ますね」
「おう! 待ってる」
他にもいろんな魔道具店を見て回った後、隣の魔法研究エリアに移動した。
こっちは向こうと違ってお店があるわけではないんだな。
建物は居住区の方と大差ないが、研究所みたいなものなんだろう。
開いた窓から術式に関する話や詠唱について話している声が少し聞こえた。
さすがに詳しい研究内容を見せてもらうわけにもいかないし、ここはこのぐらいにして鍛冶場に行こう。
鍛冶場エリアに近づくとカンカンと金属を叩く音が徐々にあちこちから聞こえてくる。
さすが鍛冶場だな。あちこちで色々な武具を作っているのかと思うと胸が躍る。
店先に並ぶ武具を見るだけもとても楽しい。素人目にも職人の腕がいいのがわかる。
中には短剣専門だったり大剣専門だったりと、よりジャンルを絞っている店もあるな。
悠真のためにも短剣専門の店で装備を新調したいが良いものが多すぎて逆に悩ましいな。
「悠真はどれか気になるのあるか?」
「店も商品も多すぎて絞れないな」
「時間はあるしゆっくり見て回るか」
この短剣は真ん中をくり抜いているのか。たしかにこれだと軽量化ができてスピードは上がるが、耐久性は大丈夫なのだろうか。
これはレイピアを短剣にしたかのような細さだな。正面からの戦闘だと折れるだろうし暗殺とかの奇襲向きなんだろうな。
お~これ普通にかっこいいな。刀身も柄も黒で鍔の部分は薄い金色かな。刃の形もほぼ真っすぐで扱いやすそうだし。よく見るとこれ刀身だけ光が当たるとほんのり紫色になっている気がするな。クレイヴから短刀を貰ってなかったらこういう短剣を買ってたかもな。えっと、値段は…き、金貨50枚!? さすがにそんな大金は出せない…。
値段には驚いたが、ほんとにどれもいいものばっかりで選びきれないな。
まぁしばらく滞在するんだし急いで決めなくてもいいだろう。一旦別の場所に行こう。
商店エリアは今までの魔道具や武具の他に日用品なんかを売っている店もあるんだな。
日用品といえどもやはりドワーフ製というべきだな。どれもいいものばっかりだ。
このコップは持ちやすいように指が当たる部分が少し凹ませてあるし、こっちの鍋は薄くて軽いのに丈夫で壊れにくそうだ。
ドワーフの作る者はどれも良質なものばかりだからお金があればすぐにでも買いたいぐらいだ。
そんなお金はないから何も買えないんだがな。
そういえば天井の光が少し弱くなってきたな。そろそろ夜が近いのか。
夕食でも食べてから戻りたいが、飲食店はあるのだろうか。
商店エリアを抜けてギルド方向に歩いているとどこからかいい匂いがしてきた。
つい匂いに釣られて道を外れると、飲食店が並んでいた。
どうやら食事には困らなさそうだな。さて、何を食べるかな。
適当に入った居酒屋だったけどうまかったな。料理はもちろん美味かったが酒が格別に美味しかった。
ドワーフは無類の酒好きとも聞くしこだわりが強いんだろう。また来よう。
宿に戻って全員リビングに集まり今後の話し合いをしよう。
「いや~この国楽しいな」
「蓮すごいはしゃいでたな」
「やっぱ武器とか魔道具とかってテンション超上がるわ」
「たしかにあれだけあると興奮するな。迷いすぎて短剣もなかなか選べなさそう」
「まぁ時間はあるしゆっくり考えよう」
「そうだな。ところでさっき貰った鑑定機ってどうやって使うんだ?」
「眼鏡みたいに普通にかけるだけでいいみたい。視界に入った魔物の情報がレンズに表示される仕組みらしい」
「それってアビスにも使えるんじゃないの」
「たしかに。ちょっと気になるな。使ってみてもいいか? アビス」
「ワフッ」
眼鏡型鑑定機を装着してアビスを見ると……
ーーーー
名前 アビス
種族 ????
魔法適性 闇
スキル ????
万能感知
魔??い
?然??
身体変化
神代蓮の従魔
ーーーー
結構文字化けして読めないな。未完成品だからだろうか。
アビスって万能感知持ってるんだな。たしかこれって索敵感知系スキルの最上位版だったよな。すごいな。それと…身体変化? これは聞いたことないな。
「アビスのスキルに身体変化ってある」
「身体変化? 変身できるってこと?」
「わからない…。アビス、身体変化のスキル使えるか?」
アビスは静かに首を縦に振る。
すると、アビスの体が少しずつ大きくなっている。今までの二倍はありそうだ。
「体を大きくできるスキルなのか?」
悠真の疑問に答えるように次はどんどんと小さくなっていった。サイズ変化が止まったのは出会った当初ぐらいの大きさになったときだ。
「懐かしいな。出会った頃はこのぐらいの大きさだったな」
思わず抱きかかえて優しく撫でてしまう。腕の中に納まるアビス、懐かしい。
「体のサイズを自由に変えられるんだな」
「ワフッ!」
「だから急にサイズ変わらなくなったのか。成長止まったのかと思ってた」
体を大きくした状態を維持できるなら背中に乗せてもらえれば移動が格段に速くなりそうだ。
ただ、人前では大きい姿を見せるのはまずいかもしれないから場所は選ばないとな。
アビスのスキルもわかったしこの鑑定機も全く使えないというわけではなさそうだな。
「これを使えば今後は魔物と戦いやすくなりそうだ」
「早速明日依頼でも受けて確かめてみるか?」
「そうしたいけど見た感じここは依頼が少なかったから都合よく魔物狩りがあるといいな」
「まあなかったら普通に狩りにいけばいいだろ」
「そうだな。じゃあ明日はまずギルドに行って依頼を確認しよう」
明日の方針も決まったし今日は寝るとしよう。
ー翌日
朝一でギルドに来てみたが昨日と同じで冒険者は少ないな。4人組の人間とドワーフの冒険者が3,4人程度か。こんなに人が少ないとちゃんとした依頼があるかも不安になる。
「魔物系だとこの辺のやつっぽいな」
「モスウルフの討伐、ロックリザードの皮採取、アイアンベアの爪の採取か」
「一番やりやすそうなのはモスウルフだけど、昨日も戦ったからな」
「少し挑戦してロックリザードでもいってみるか?」
「そうするか」
俺と悠真がどの依頼を受けるか話し合っていると後ろから「あの、」と声をかけられ、振り返ると鎧を着た青年が立っていた。
「突然すみません。Cランク以上の冒険者の方ですか?」
「はい。二人ともCランクです」
「俺はフォーリーフというパーティーでリーダーをしてますレオン・ヴァイスといいます。実は共同で依頼を受けてくれるパーティーを探していたのですが、よければ話だけでも聞いてもらえませんか」
「わかりました。聞きましょう」
「ありがとうございます。俺たち四人パーティーでCランクが二人なのでC⁺以上の依頼が受けられないんです。だからCランク以上の誘って共同で依頼を受けようかと思っていたんです」
「わざわざ共同にしてまでレベルの高い依頼を受けようとする理由は?」
「実は残り二人のDランクのメンバーは最近ランクアップ試験に落ちてしまって。それでしばらくCランクになれないんですが実力はあるのでCランクの依頼だと少し物足りなくなってきたのでどうにか上の依頼を受けたいんです」
「なるほど。ランクは低いが実力はあると」
「そうです。だからお二人が加わっていただけたら実質Cランクが6人の戦力になるのでC⁺依頼でも大丈夫だと思うんです」
「……わかりました。その申し出受けましょう」
「ありがとうございます!報酬は半分ずつということで大丈夫ですか?」
「いや、こちらの方が人数が少ないので6:4でいいですよ」
「いいんですか? もし増やしてほしくなったらまた言ってくださいね。ではメンバーを呼んできます」
レオンはギルド併設の酒場で休憩していた仲間を連れて戻ってきた。
魔法使いらしき杖を持った少女と弓を背負った少女、斧を背負った青年。みんな若いな。
「魔法使いのセリナ・アークライト、斧使いのボルド・ガイン、弓使いのミーニャ・フェンです。セリナがもう一人のCランクです」
「神代蓮です。魔法使いです。こっちは従魔のアビス。俺の護衛や近接を担当してくれます」
「俺は佐倉悠真、双剣使いです」
「蓮さん、悠真さんよろしくお願いします」
「それでなんの依頼を受けるんですか?」
「アイアンベアの爪の採取にしようと思ってるんですが、どうですか?」
「問題ないです」
「では受注してさっそく行きましょう」
フォーリーフ、神代、佐倉の連名で依頼を受注し、洞窟を通って外に出る。
他の冒険者の戦い方を見るのは初めてだな。どんな戦法を使うんだろう。
特に普通の魔法使いがどんな風に魔法を使うのかは気になる。
初めての共同依頼。フォーリーフは、どんな戦いを見せてくれるのだろうか。
Cランク冒険者の実力を見れるのは少し楽しみだ。




