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誘いと恩義

「蓮、なのか…?」


「あぁ、久しぶりだな。悠真」


 久しぶりに会った友人は少し痩せたように見える。

 しかしそれ以外は特に変わったところもなく、元気そうでよかった。


「蓮なにしてんだ」


「それはこっちのセリフだよ。ここで働いてるのか?」


「あぁ、色々あってな」


 二人で話していると店の奥から別の店員が出てきた。

 体格は俺と同じぐらいで4、50代ぐらいの男性。どこか厳格な雰囲気を感じる。


「佐倉どうした」


「ナーグさん」


「この人は?」


「この店の店主で俺を拾ってくれた人」


 そうかこの人が。少し怖そうな人だが良い人なんだろう。


「そいつは知り合いか?」


「はい、友達です」


「ほう…。佐倉、今日はもう店を閉める頃だし先に上がってていいぞ」


「いいんですか」


「久しぶりの再会なんだろ。ゆっくり話してこい」


「ありがとうございます!」


 店主の好意で早めに上がらせてもらえた悠真に連れられて近くの酒場に入る。

 注文を早々に済ませてさっそく今まで何をしてきたのかを聞く。


「最初に目が覚めた時にいたのは草原だった。そこで歩き回っていた時に荷物を運んでいるナーグさんに会って、迷子だと説明をしたら引き取ってもらえたんだ。それからは商人としての仕事を教わってた」


「そうだったんだな…」


「蓮はこの数か月どうしてたんだ?」


「俺は目が覚めたら森にいて旅人に助けてもらったり、このアビスを仲間にしたりして今ではCランク冒険者として活動してる」


「冒険者か。おもしろそうだな」


「悠真はこの先どうしようかとか決めてるのか?」


「特に何も決めてなかったな」


 決めていないのか。だったら誘ったら一緒に来てくれるだろうか…。


「なぁ…だったら俺と一緒に来ないか?」


「冒険者として?」


「うん。俺は知り合いがいないかと思って世界を探し回ろうと思ってるんだ」


「なるほど…。行きたいけど、ナーグさんから受けた恩もあるからな」


「そうだよな……」


「明日、聞いてみるよ。もしいいって言われたら一緒に行きたい」


「許してもらえることを願っとくわ」


 悠真は翌日も仕事があるらしいからほどほどにして切り上げることにした。

 宿の場所を教えておいたので店主の返事を聞いたら訪ねてきてくれるそうだ。


 どうか、許しを得られることを願ってる。



ー翌日


 悠真は仕事が終わってから来てくれるらしいから夕方ぐらいになるだろう。

 俺もそれまでは依頼でも受けて待っていようと思いギルドに向かったのだが…。


 なぜか受付の人に呼ばれて応接室に通された。しかも結構待たされるし。

 なんでこうなった。


 心当たりは…ない。何かしてしまったのだろうか。


 そうやって思考を巡らせているとコンコンとドアをノックする音が聞こえた後にそっと開かれた。

 入ってきたのは若い男性だ。俺より少し年上だろう。


「大変お待たせしました。僕は当ギルドの副ギルド長、ヤニスと申します。突然お呼び立てしてすみません」


「副ギルド長ですか…俺何かしましたか?」


「まぁしたと言えばしましたね」


 話を聞くと、どうやら昨日遭遇した盗賊は討伐依頼が出るほど被害が出ていたそうだ。

 本来はCランクパーティー推奨の依頼だったらしいが、それをなりたてのCランク冒険者が単独で撃破したと報告を受けたから一言礼を言いたかったそうだ。

 

「黒狼使いの噂は聞いております。討伐にご協力していただきありがとうございました」


「いえ、偶然だったので気にしないでください」


「ただギルドの規定上、受注していない依頼に報酬を出すことができませんので今回は謝礼をお支払いすることができません。申し訳ないです」


「いやほんとに偶然だったので大丈夫ですよ。慈善事業みたいなものです」


「ご厚意感謝します。ところで…そちらが例の黒狼でしょうか」


 ヤニスさんは視線を落とし俺の横で伏せているアビスに目を向ける。


「そうです。アビスって言います」


「僕は職務上様々な魔物や魔獣に精通しているつもりだったのですが…知らない種族ですね」


「やっぱりそうですか。アビスのことはよくわからないんですよね」


「もしよろしければ僕の方でも調べてみましょうか?」


「それは助かります。なにかわかったら教えてほしいです」


 ヤニスさんと約束を交わして退室した。

 アビスのことは確かに気になるが、一緒に戦ってくれるのでそこまで深く考えなくてもいいだろう。


 じゃあ気を取り直して依頼を受けるか。

 夕方までには終わるやつがいいな。

 うーん…。お、この周辺街道の警備なら街の付近の様子も知れてちょうどよさそうだ。


 依頼内容は街周辺の街道の見回り。魔物や盗賊が現れた際にはその討伐。

 もともと銀貨10枚で魔物や盗賊の討伐で追加報酬か。

 日暮れまででいいそうだし悠真と会うまでには終わるだろう。



 さて、さっそく依頼を受注して街を出てきたが、魔物も盗賊も現れないから少し退屈になってきたな。

 街に続く街道を順番に片道30分程度進んで折り返す。この繰り返しだ。

 どの道も商人や冒険者しかおらず目立った問題もない。


「アビス、なにか探知できたか?」


 俺の問いかけにアビスは「クゥン」と弱く鳴きながら首を横に振る。

 アビスの鼻でも見つけられないということは本当になにもないのだろう。

 それにしてもやけに街道が多いな。さすが商人の行き交う街だな。


 街道から少し外れたところに小さな森が見えてきた。

 昨日俺たちが通ってきた森ではないだろう。


「道から外れるけど行ってみるか」


「ワフッ」


 アビスも期待していると言わんばかりだな。


 森の規模はそこまで大きくないみたいだな。

 魔物の気配はするが危険なやつもいなさそうだし、とりあえず少し探索してみるか。


 森の外周を一周するように探索してみたが、現れる魔物はどれもEかDランク程度のものだった。

 アビスが意気揚々と倒してしまうので俺の出番はほとんど無かった。

 いい感じに魔石は集められたがこれは依頼とは関係ないので個人的に買取をしてもらおう。

 もう少しだけ街道の見回りをしたら街に戻るか。


 

 依頼としては魔物も盗賊も現れなかったので追加報酬は無し。森で手に入れた魔石は無事に買い取ってもらえたからまぁいい感じだな。


 じゃあ宿に戻って悠真が来るのを待つか。

 途中でアビスに軽食でも買ってあげないとな。今日は一日歩きっぱなしで疲れただろう。


 宿に戻って軽食を食べていると悠真が訪ねて来た。


「来たか。とりあえず入りな」


 訪ねて来た悠真を椅子に座らせて水を出してあげる。


「で、どうだった」


「ナーグさんとして行ってもいいんじゃないかって」


「おおー」


「ただ、商人としては簡単には許可できないって」


「どういうこと?」


「商人は損になることはしない。このまま俺が出ていけば今までの生活費が損失になるからせめて返済をしてからなら行ってもいいって」


「つまり金を出せってことか」


「まあ、そういうこと。ただ、金は俺が個人で冒険者として稼がないといけないらしい」


「金額は?」


「2ヶ月で銀貨40枚」


「おいおい、2ヶ月ってせいぜいDランクだぞ。いくらなんでも銀貨40は厳しいんじゃないか」


「本来はもっとかかったみたいだけど今まで働いた分を加味してこの金額だそうだ」


 昨日聞いた感じだと悠真は今まで戦闘の経験がない。つまりまずは冒険者になれる程度の実力をつけないといけない。それに何日かかるかもわからないし、仮に早く冒険者になれたとしても2ヶ月だとDランクまでしか上がれないから受けれる依頼も限られる。


 ただ…譲歩はしてくれてるみたいだし頑張るしかないか。


「とりあえず明日からは店を休んで冒険者の方に専念していいらしい」


「じゃあ明日から死ぬ気で鍛えて冒険者になって稼がないとだな。俺もできることは協力するよ」


「助かる」


「とりあえず明日の朝に門前集合な」


「わかった。また明日」


 さてと、どうやって二ヶ月で銀貨40枚稼げるほどに成長させようか。なんとか一週間ぐらいで冒険者になってもらわないと厳しいぞ。


 正直前の悠真ならこんな条件めんどくさがってやらなかっただろうが、今はやる気になっているしそれほど一緒に来たいということだろうか。ならば俺も全力でサポートしよう。



 翌日からさっそく悠真の特訓を始める。

 まずは悠真の適性を見る必要がある。魔法系かそれ以外か。


「悠真は魔法使えるか?」


「使えないな。身体能力を上げるスキルとかならあるけど」


「じゃあ初級武術の会得が必須だな」


「武術なんてやったことないぞ」


「俺の剣術もほぼ自己流みたいなところがあるしな。とりあえず本でも見てヒントを得てくるから悠真はアビスと基礎訓練でもしといてくれ」


「わかった」


 悠真には街の周辺で走込みなどの体づくりをしといてもらう。

 アビスは護衛兼見張り役だ。悠真がサボってしまわないようにな。


 俺はなにかしら武術について情報を得ないとな。

 たしかギルドに簡単な指南書が置いてあったはずだからそれから見てみよう。


 ギルド一階の隅の方にある小さな本棚。そこには初級程度の魔導書や各武術の指南書が置いてある。

 武術といっても色々あるんだな。

 剣術、槍術、双剣術、格闘術、弓術ほかにも色々と。

 とりあえずいくつか読んでみて悠真に合いそうなやつを探してみるか。


 剣術の指南書に書いてあることは森でクレイヴが教えてくれたこととほとんど同じだな。

 指南書には初歩段階と書いてあるし教えてくれたことは本当に初歩の初歩だったのか。

 悠真は身体能力を上げられると言っていたから、おそらく筋力や俊敏性を向上させられるのだろう。

 抜刀術や居合術もある剣術には自分に合った戦い方を見つけやすいかもしれない。


 槍術はリーチの長さを最大の武器として使えるので敵からの距離も取りやすい。

 ただその分剣より扱いが難しそうだな。長いものを振り回す器用さと、重心を捉える繊細な力加減が必要になりそうだ。


 魔剣術なんていうのもあるのか。

 魔法を帯びた剣を扱う剣術か。俺が使うフレイムエッジなんかも魔剣術に入るのだろうか。

 まぁ魔法の使えない悠真にはこれは関係ないか。


 おっと、夢中になって読んでいたらもう昼過ぎか。

 一旦二人のところに戻るか。


「すみません。この本って借りれたりしますか?」


「可能ですよ。冒険者の方でしたら1日銅貨5枚になります」


「じゃあ7日分お願いします」


「かしこまりました。貸出記録のため登録証を出してください」


 依頼受注の時のように登録証に記録するんだな。ほんと便利だな。


「完了いたしました。返却の際は受付にお声がけください」


「ありがとうございます」


 とりあえず借りたのは剣術、双剣術、格闘術の指南書だ。本当は魔剣術の本も借りて個人的に読みたかったがそれはまた今度にしよう。


 途中で昼飯買ってから戻るか。


 街から少し離れた草原で二人は寝そべっていた。


「おいおいなにだらけてるんだ」


「蓮戻ったのか」


「あぁ、昼飯も買ってきたぞ」


「助かる。疲れて腹ペコだよ」


「ちゃんとやってたみたいだな」


「さすがにサボったりはしないわ」


 談笑もしつつみんなで昼飯を食べながら今後の方針について話し合う。

 借りてきた本を悠真に手渡して俺の考えを簡潔に伝える。


「身体能力を上げてそれをバランスよく使うなら剣術、俊敏性を活かすなら双剣術、筋力なんかの力技を活かすなら格闘術って感じかな。とりあえずこの中のどれかに絞ろう。どれも簡単ではないからな」


「一晩考えてもいいか?」


「あぁ、そのつもりだからゆっくり考えな。さてと飯も食い終わったし走り込み再開だな」


「あー地獄だ」


 ブツブツ文句は言いながらもしっかりやりきるのは昔から変わらないな。


 夕方まで休憩を挟みながら走り込みをメインにした体力づくりを行った。

 悠真はヘトヘトになり、もう動けないといった感じだ。

 俺とアビスは森を走り回っていたし、普段から運動していたからこの程度は問題ない。


「今日はこの辺にしとくか」


「やっと終わったー」


「じゃあ指南書しっかり読んでどれにするか決めとくんだぞ」


「わかった。覚えてたらやるよ」


「ちゃんとやれ」


 軽く頭を小突いてやる。すると悠真が笑いだすので俺もつられて笑ってしまう。

 あぁ、なんて楽しいんだ。会えて本当によかった。


 指南書を読んでからしっかり休むように伝えてその日は解散した。



ー翌日


 門前に行くとすでに悠真は着いていた。


「悪い待たせた」


「大丈夫」


「それで決まったか?」


「うん。これにする」


 そう言って悠真が取り出したのは……双剣術の指南書。


「そうきたか」


「俺のスキルって筋力だけじゃなくて持久力とか反射速度なんかも上げられるんだ。だったらバランス型より何かに特化した方が強いかなって。それでよりスキルとも相性がよさそうな双剣術にするよ」


「良い判断だと思う。じゃあ今日からは指南書に沿って訓練しよう。目指すは一週間後に冒険者登録だ」


「おう」


 双剣術を選んだか。正直剣術なら多少は教えられることもあったかもしれない。けど、悠真が自分で選んだのだから俺は全力でサポートするだけだ。


「じゃあ今日はまだ武器もないし、反応速度を鍛える特訓でもするか。とりあえずアビスを追いかけてくれ。アビスは小回りもきくし俊敏だからそれに付いていけないと話にならないからな」


「わかった」


 アビスは草原を縦横無尽に駆け回る。悠真もそれに付いていこうとするが、急な方向転換や動きの緩急に上手くついていけていない。


 何度も転ぶがすぐに立ち上がって再びアビスを追いかける。服が汚れようが擦り傷ができようがお構いなしに、ただひたすらにアビスの動きに食らいつこうとしていた。


 まぁ、最初はこんなものだろう。

 これは俊敏性を鍛えるだけでなく、相手の動きをしっかり見て判断するという訓練も兼ねているが今それを言えば余計に気を張ってしまうだろうし黙っておこう。



 それからの日々は指南書通りの訓練をしたり、とりあえずの武器を買いに行ったり、基礎訓練をしたりとあっという間に日々が過ぎていった。


 そして特訓開始から一週間。悠真の武術もなんとか形になり、さすがに実践経験を積ませることはできなかったが初級双剣術の型は会得できたと思う。これなら試験に受かれるだろう。


 悠真を連れて冒険者ギルドへと赴き、試験の申し込みをする。

 朝に行ったことで当日の枠に入れてもらえることになった。


「頑張れよ悠真」


「ああ、行ってくる」


 見送った悠真の背中は一週間前とは違い冒険者のそれに見える。

 きっと大丈夫だろう。俺はただ信じて待つだけだ。


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