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再会

「リーシャさん、実は俺…次の街に行こうかなと思っているんです」


「え、」


 長い沈黙の後リーシャさんは口を開いた。


「そ、っか~。そうなんだね…」


「突然の報告ですみません」


「ううん。冒険者だもんね。いつ行くつもりなの?」


「数日後には出ようかなと思っています」


「……寂しくなっちゃうけど頑張ってね」


 そう笑いかけてくれたリーシャさんの表情はどこか硬いような気がしたのは気のせいだろうか。


 出立の日時が決まったらまた報告する約束をしてその日は解散することになった。



 翌日からは挨拶周りをしたり、旅支度をしたりであまりギルドに行く時間はなかった。


 鍛冶師のワンゼさんや東区の屋台の人たちにも一通り挨拶を済ませた。

 道中の食事用の保存食も作成して、傷薬なんかも補充した。

 明日には出発できるだろう。


 夕方前にギルドに向かうと多くの冒険者で賑わっていた。


 受付に波のように押し寄せる冒険者を素早く対応する職員たち。その中にリーシャさんの姿があった。

 忙しそうなので少し待つことにしよう。


 20分もしないうちにほとんどの冒険者が用を済ませ出て行った。


「リーシャさん」


「蓮くん…出発決まったの?」


「はい。明日の朝、馬車で行こうと思います」


「明日の朝ね。お見送りに行くね」


「ありがとうございます」


「じゃあ…また明日」


「また明日」


 リーシャさんや街の人とも仲良くなれて結構居心地がよくなってきていたが、俺の目的は知り合いを見つけることだ。少し長居しすぎてしまったかもな。


 次の街はここから三日ほど行ったところにある、カーディナル伯爵領地ノクレアの街。

 この伯爵領は周辺に他貴族の領地や鉱山があるため人も物も情報も多くの者が流通しているらしい。

 異世界人の情報が手に入れば上々だ。



ー翌日


 とうとう出発か。馬車乗り場は南門にあるので余裕を持つために少し早めに行こう。

 

 宿の女将さんには昨日のうちに早朝に出発することを伝えて謝礼金を手渡しておいた。

 部屋も軽く片付けておいたし、これで大丈夫だろう。

 本当に世話になったな。


 外はやっと日の光が出てきたぐらいの時間で人通りはほとんどない。

 宿を出てふと振り返る。宿はもちろん隣のギルドもまだ人の気配はなく静かだ。


「アビス、行こうか」


「ワフッ」



 南門に着くと馬車の乗客らしき人が数人待機していた。その中にはよく知った人影も。


「リーシャさん!」


「蓮くん、ついに行っちゃうんだね」


「はい、本当にお世話になりました」


「私も蓮くんが街に来てからは楽しかった。ありがとう」


 そう言ったリーシャさんは控えめに両手で俺の右手を包み込むように握る。

 その手はとても暖かく落ち着くが、微かに震えているような気もした。


「リーシャさん?」


「また…会えるかな?」


「…はい!落ち着いたらまた来ます。その時は木漏れ日亭でご飯でも食べながらお話しましょう」


「うん…うん!私、待ってるね」


 やっと見れたリーシャさんの笑顔は昇ってきた太陽のせいだろうか、少し赤く見えた。


「行ってきますリーシャさん!」


「いってらっしゃい蓮くん!アビスちゃん!」


「ワフッ!」


 馬車に乗り込んでから門の方を見ているとリーシャさんは姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。これから仕事だろうに、わざわざ来てくれるなんて優しい人だ。


 いつか、仲間ができたらまたここに来よう。



 馬車は整備された道をひたすら進むので比較的安全な旅路だ。

 乗り合わせた他の客は商人や冒険者などがほとんどだ。


 日が昇る頃に出発して、日が沈む前に野営地を決める。食料は各自で用意することになっていて、野営中の安全確保は自己責任。このぐらいの待遇は普通なのだろうか。


 ガルクスを出発して三日目。あと少しでノクレアに着くというところで森を横切らなければならない。

 事前の話ではこの森に生息する魔物は比較的温厚で刺激しない限り襲ってくることもないそうだ。


 しかし俺やアビスの索敵には、先ほどから馬車を囲むようにして移動している集団の反応が捉えられている。

 他の乗客は気づいていないようだな。

 気配からして魔物ではないだろう。おそらくは盗賊か。

 街までそんなに遠くもないみたいだしここは相手をして馬車には逃げてもらうのが得策だな。

 それなら御者に言ってここで降りよう。運賃も事前に払ってるからいいだろ。


「お兄さん、どうやら俺たちは野盗に狙われているみたいです」


「え、本当ですか?」


「ええ、索敵になにやら怪しい気配が引っかかりました。俺はここで降りて相手をするので、その間に街まで急いでください」


「そんな、無茶じゃないですか」


「大丈夫ですよ。なりたてとはいえCランクの冒険者なんで」


「Cランクなんですか!」


「お前、まさかとは思ったが黒狼使いの神代蓮か?」


 俺と御者の会話を聞いていた冒険者が会話に入ってきた。たしか新米のDランク冒険者と言っていた気がする。

 それより、黒狼使いだって? なんだそれ。


「黒狼使いですか?」


 俺の疑問は御者が代わりに尋ねてくれた。


「あぁ、なんでも黒い狼を連れた冒険者が活性化したアースボアを単独撃破したって聞いたぜ。しかも当時はまだDランクだったとか」


「たぶんそれは俺で間違いないと思いますが、まさかそんな呼ばれ方されてたんですね」


「お客さんそんなにすごい人だったんですね」


「いやまぁそんなにですよ。とりあえずここは引き受けるので行ってください」


「わかりました。お願いします」


「行くよアビス」


「ワフッ」


 俺とアビスは馬車から飛び降りて何者かの包囲の中心に入る。

 どうやら馬車を追った者はいないようだな。急に飛び降りた俺たちを警戒したのだろうか。


 すると木陰から続々と人影が現れる。ボロく、切れた服に刃こぼれのしている武器、どうやら盗賊で合ってそうだ。


「お前たち何者なんだ」


「そんなこと知らなくていいんだよ。とりあえず金目の物置いて行ったら見逃してやるよ」


「誰がそんなことするか」


「じゃあちっとばかし痛い目見てもらおうか!」


 その言葉を皮切りに盗賊たちは四方八方から襲い掛かって来る。


「アビス、後ろは任せた。殺すなよ」


「ワフッ」


 後ろの敵はアビスに任せればなんの心配もないだろう。俺は前だけに集中だ。


 盗賊たちは一見統率が取れていないように見えるが、広がりながら攻撃してくることで各々の死角や隙をカバーしている。


 正面上段からの剣の切りつけを左に逸れて避けると、別の奴が斧で薙ぎ払うのでそれを後ろに避けると右からまた別の奴がこん棒のようなもので殴りかかってくる。それを空中に飛んで避けると、後ろに控えていた奴が弓矢を放ってくる。なんとか体を逸らして避けて着地する。


 どこに避けようと誰かに攻撃される。今までは魔物としか戦ってこなかったが、知性のある者と戦うのはこうもやりづらいのか。


 とりあえず連携を崩さないことには倒せないだろう。


「土魔法《 クエイク 》」


 地面が揺れたことで敵は一瞬ふらつく。その隙に斧を持っていた奴の側面に回り込む。


 敵も反応して斧を構えるがもう遅い。


「風魔法《 エアブラスト 》」


「うわああああ」


 発生した突風に飛ばされ背中を強く木に打ち付けたことで気絶した。

 その様子を見て一瞬怯んだ弓使いに向かって魔法を放つ。


「土魔法《 ストーンバレット 》」


「グハッ…」


 連続で発射される石に撃たれ、弓使いもリタイアとなった。


「よくもーー!!」


 逆上した剣使いとこん棒使いが同時に襲い掛かって来る。すでに連携などなく感情任せの攻撃だ。

 そうなってしまえばこちらの勝ちだ。


「氷魔法《 アイススパイク 》」


 氷の柱が数本、二人に向かって伸びる。反応する間も与えず捕られる。


「おまえ、一体、」


「ただの冒険者だ」


「くそ、襲う相手を間違えたか」


「命までは取らない。反省しろ」


「植物魔法《 スリープバインド 》」


ーーーー

スリープバインド

植物系統中級魔法

魔力で特殊な蔓を生成し、対象に絡みつかせ棘から睡眠作用のある樹液を流し込む

ーーーー


 氷に拘束されていた二人は抵抗もできず樹液によって眠りについた。


 よし、終わったな。アビスの方は…。


 すでに敵は泡を吹いて倒れていた。まさか締め上げたのだろうか。頼もしいが敵からしたら恐怖だっただろうな。


 いくら盗賊とはいえ何かを奪うのは気が引ける。せめて拘束だけして他の冒険者にでも任せよう。

 これだけ圧倒的なまでに叩いたからもう懲りてくれているといいが。


「よし、街に行こう」



 森から一時間も歩かないうちに街が見えてきた。


 ガルクスの街より大きく、外壁も10mぐらいはありそうだ。

 身分証の確認もスムーズに済んですんなりと街に入れた。

 街に入ると規則正しく建物が立ち並んでいた。そのほとんどは商店のようだ。


 さて、とりあえずギルドの方に向かいながら宿探しでもするか。


 それにしても色々なお店があるんだな。ガルクスでは雑貨屋として一つの店で売られていたようなものでもここでは食器店や家具店のように専門店になっている。流通が盛んで一つのジャンルでも色々な物が入ってくるからそれだけで商売が成り立つのか。


 しばらく街並みを見て歩いているとギルドに到着した。

 結局宿を見つける前に着いてしまったな。

 ガルクスの時みたいにギルドで紹介してもらえるかもしれないし聞いてみるか。


 ノクレアのギルドは白い石造りの建物で、ガルクスの二倍はあるだろう。

 入り口も重そうな扉で、まるで貴族の屋敷のようだ。


 中も明るく綺麗で中央には小さめのシャンデリアまである。

 ますます貴族の屋敷に思えてくる。

 受付の数もガルクスより多い。ここが大きいのがあそこが小さいのか。


 ちょうど受付が空いたので宿を聞いてみよう。


「すみません、冒険者用の宿をさがしているんですけど」


「どのようなタイプがご希望でしょうか?」


「小さめでいいので一棟貸しているところなんてないですかね」


「一棟貸ですね」


 受付の女性は後ろの棚から資料を持ってきてペラペラとページをめくっている。


「申し訳ございません。ただいまギルドで紹介できる一棟貸は満室となっております」


「じゃあこの近くで従魔と泊まれる宿はありますか?」


「それでしたらギルドの正面の道を進んでいただきまして右手側の宿に空きがございます」


「わかりました。ありがとうございます」


 とりあえず一旦はそこの宿でいいだろう。しばらくして一棟貸に空きができたら借りるか…それともこの街はすぐに出ようか。どうしよう。


 悩んでいるうちに宿に着いたのでとりあえず三日分の宿泊料を払って部屋を借りた。

 間取りはガルクスの宿と同じぐらいかな。このぐらいがちょうどいい。


 さて、今日はもう昼を過ぎてるし依頼に行くには遅いな。夕飯探しがてら街の散策でもするか。


「アビス街を見に行こうか」


「ワフッワフッ」


 ノクレアは様々な商店が軒を構えており、あちこちに店がある。それでもある程度のジャンルで固まってはいるらしい。


 ギルド付近は宿屋が多く、門から通ってきた道は生活用品が多い。反対側は武器やら防具やらの店。飲食店が並んでいる通りもある。一個の物を買うにもあちこちで見比べて考えることになりそうだな。


 とりあえず武器の店の方から見ていこうかな。

 武器と言っても剣専門店や槍専門店のようにさらに一つに絞っている店もあるのか。

 冒険者としては見てて飽きない壮観な景色だな。


ーありがとうございました


 ふと、どこかの店から聞こえてきた挨拶。どこの店でも同じようにしているなんの変哲もない挨拶だが、俺はその声に聞き覚えがある。まさか!


 どこだ、どこの店だ。声のした方向にある店を片っ端から見ているが声の主らしき人物は見当たらない。


 ここは、武器全般を取り扱う総合店。店の中を覗いてみると懐かしくもよく知った姿がそこに。

 思わず扉を開けて中に入る。


ーカランッ


「いらっしゃいま、せ…」


 扉の開いた音に反応して店員が振り向いて挨拶をする。しかし俺を見た途端店員は固まってしまう。


 そして我に返ったかのようにハッとしてから、ゆっくりこちらに歩んできて両手で肩を掴む。


「蓮、なのか…?」


 店員は困惑したように震えた声で尋ねてくる。


「あぁ、久しぶりだな。悠真」


 それは地球での友人の一人。

 つまりーー俺と同じ異世界人だった。


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