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『詩忍にくちなし』~文字で戦う世界のお嬢様と勇者執事~  作者: ふるなゆ☆


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96.黒天喜面、弐

 壁は崩れかけ、常に天井から砂煙が落ちていく。一定時間経つと上から岩が一つ落ちる。唐突な衝撃で建物が耐えきれなかったのと、今いる場所が岩の中に埋まっている場所だからだ。



 壁へと吹き飛ばされて悪魔の姿は消えた。

 相対して、壁へと吹き飛ばされて斧は破壊される。


「私の勝ち……ね。」


 壁にもたれて座っているマユダを見下ろす。


「負けちゃった。負けた方は勝った方の言うことを聞く。煮るなり焼くなり好きにしていいよ。」


「ほんとうにいいの?」


「もちろんだよ。」


 どれだけやられていようとも、その喜びの表情はへばりついたように現存していた。


 手を伸ばす。


「じゃあ、帰るよ。そして、アンチギルドなんかじゃなくて私達の仲間として過ごしてよ。」


 彼は私の手を握った。

 そして、私を思いっきり引き上げる。私は彼を優しく抱いた。


「まったく……仕方ないな。」


 そう言いながら彼は笑った。

 足が崩れて倒れ込むマユダ。


「動けそうにないな。」


「まったく……仕方ないな」なんて言って、私はマユダをおんぶした。



【自分自身】



 何とか回復したもう一つの変身能力で基礎能力を上げて歩くことにした。こんなことしないと私も結構限界が来て歩けなさそうだ。


「ねぇ、お母さん。」


「何?」


「前から思ってたんだけどさ。お母さんの能力で情報を抜き取れるんじゃない?」


「情報は抜き取れるけど、一部だけだよ。抜き取られる人の許可が必要だし……。」


「僕から抜き取ってみてよ。」


 そう言われてマユダの情報を抜き取ることにした。



【情報――!】



 精神的空間。

 そこに私とマユダが立っている。私は小さな箱を持っていた。


「私はここから動けないの。マユダが伝えたい情報をここに入れて。そしたら、その情報が私と共有されるから。」


 マユダの脳内にある情報が綿のようなものになって存在している。それを精査したものを私が持つ箱の中に入れてくれた。


 箱の中がすぐに埋まる。そんなに情報を取得できない。――それが私の能力の限界なのだから、仕方ない。



 マユダの情報――記憶が私の脳裏に流れ込んできた。





 マユダは冬の厳しさが身に染み渡る土島で産まれた。あまりにも貧乏な暮らしだけど、家族愛には恵まれた方だった。



 六歳――。

 ちびっ子バトル検査。


 測定のために行われるバトル大会。同じ六歳の子がバトルコロッセオで能力を出し合って戦う。基本的に決着はつかない。目的はどのような能力を使えるのか、王国に遣える者に相応しい実力者がいるのか、を調べるため。



【魔法】ファイア!



 戦う相手として組まされた子は瞬殺された。


「強いぞ。流石だ。うちらの自慢の子だぞ。」マユダは父にぎゅっと抱きしめられ、母におデコを重ね合わされた。


 後日、マユダは二つ上の先輩と測定のために戦わされた。


 結果は圧勝――。


 学校に通いながら、戦いに励む日々が続く。徐々に敵が強くなっていくその戦いが急激にマユダを強くしていった。


「俺がこんなチビに負ける訳ないだろ。だってこいつ下民だぜ。」


 貴族の男が笑いながら馬鹿にする。

 十八歳の子。つまり、十二歳差だった。


「【魔法】ファイア!」


 笑いながら、その子を翻弄しリタイアさせる。


「な、なんなんだよ。近寄るなよ。こ、来ないでくれよ。」


 倒した子はマユダを怖がって逃げていく。それはなぜか伝播して、一瞬にしてマユダの周りから人が消えた。



 人がマユダを気味悪く感じて離れていったせいで孤独を感じさせる。それを唯一埋めたのは両親だけだった。



「強いのは世界の役に立つため。世界の役に立ってね。」



 その言葉が彼を包み込んだ。



 ――――――。



 土島はとても貧乏な人々が暮らす村でもあった。町から金なく爪弾きされた者が最終的にたどり着く場所。

 そこで産まれた人は下民として差別されてしまう運命にあった。



 そんな下民が十八歳だった貴族のプライドと強さの称号をボロボロに引き裂いた。



 それが祟ったのか……家が燃やされた。


「マユダ。ごめんな。一緒にいてやれなくて。生きていれば幸せになれる。俺はどこにいても家族の幸せを願っているからな。」


 父はマユダと母を助けるため、燃えて朽ちて材木の中へと埋もれて死んだ。


「寂しくさせちゃうね。お母さん達が本当の家族なのには限りないけど……いつしか新しい家族ができるはずだわ。迎え入れて貰えるはず。今は寂しくても、新たな家族の中にいれば、きっと楽しくて寂しくなくなるはず。おじいちゃんになって寿命を迎えたらさ、その時はお母さんやお父さんに、家族の話を聞かせてちょうだい。」


 母は火事の煙で衰弱し、そのまま死んだ。



 マユダはその日、雪がしんしんと振る白銀の地面と真っ暗闇に映る赤い炎の景色の中、大きく泣いた。しかし、それに構う人など一人もいなかった。



 孤独となったマユダ。

 引き取ったのはアルカナギルドだった。奇しくも実験体として有用性もあり、マユダは快く引き受けられた。


 しかし、家族というものには出会えなかった。


 ジェノムを先生と慕い、彼の下で時間を積み上げた。



 それでも、埋まらない孤独。

 それを埋めるために、無理やり楽しむことを自分自身に強いる日々。マユダは泣くことも怒ることもなく、ただ笑う感情ばかりが残っていった。



 そして、その実力を買われ、アンチギルドの幹部になった。



 ただ、『世界の役に立ってね』という言葉だけが心の中に残っていた。



 ――――――。



 任務で三大ギルド対抗覇戦にジュリネを出場させるために、スパイとして潜り込むことになった。


 新たな家族になるのだと期待を込めて、家族の呼び名を付ける。


 ジュリネをお母さん。ハロミトをお兄ちゃん。フェルネをお姉ちゃん。カナリンは妹。ボーニーはおじさん。ペットのパルパル。お父さんは今封印されているカゲトにつける予定だった。


 一緒に過ごすうちに仲間は家族のような温かさを感じさせた。とても楽しかった。



 だからと言って、世界の役に立つためにするべきことはしなきゃならなかった。



 そして、今日、マユダは――





 そこで貰った記憶が途切れた。

 いや、もっと情報はあったはずだけど、途中で途切れさせられた。


 気づけば、マユダは背中におぶられていなくて普通に立っていた。


 情報を読むのに気を取られて、状況を見るのを(おろそ)かになっていた。



 私とマユダとの対決で、特に最後の衝撃で、岩盤を破壊してしまい、岩が崩れ落ちてきていた。このままじゃ生き埋めになるのも時間の問題だった。



「ねぇねぇ、今すぐにさー、少し早めの誕生日を祝って欲しいんだけど。お願いしていい?」


(まさかり)


 その言葉を聞いて、反射的に「十一歳の誕生日おめでとう」と心から伝えた。



「ありがとう。家族(みんな)にも"ありがとう"って伝えといて。」



「ちょっと待――」



「【マグネット】!」



 強い磁力が私を吹き飛ばした。

 もう、私の体は動かない。


 落下していく岩石がさっき私達がいた所に落ちていく。崩落していく岩がマユダを襲う。


 体がもう動かない。手を伸ばしても何にもならない。


 彼の姿が見えなくなっていった。

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