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『詩忍にくちなし』~文字で戦う世界のお嬢様と勇者執事~  作者: ふるなゆ☆


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94.魔王城の探索

 舗装された道を進む。

 まるでそこは教会のように神秘的な雰囲気があり、王宮のような荘厳さを持ち合わせている。


「流石に戻った方がよくない?」


「大丈夫だから。僕に着いてきてよ!」


 彼に連れられて行くと、巨大な書斎へと立ち入った。古書の匂いが漂う都の図書館とは違って、新品の本が自然の空気に溶け込んで並んでいる。


「ここは図書館。でっかいけど、都の方がもっと沢山あるんだよねー。」


 静寂な図書館に楽しそうな声が広げられていく。


「お母さんはどんな本を読むの?」


「私?」


 ふと振り返って見た。


「ハリーポッターとか。面白いよ。」


「どんな物語なの?」


「主人公のポッターって子がね、実は魔法使いの子で、魔法使いの学校に通うことになって――」



 マユダとハリーポッターの話で盛り上がった。

 こんな違和感と危険性に富んだ場所というのに、何呑気に話しているのか……。話している最中はそんなことも考えすらしなかった。



 不思議な部屋へと連れて来られた。

 研究室のような部屋だった。


「僕の先生がね、実験で()つのロボットを作ったんだー。まぁ、一つは壊れちゃったけどね。」


 続いて、大きな広間に来た。

 そこにいる魔族がこちらを見た。しかし、なぜか手を出してこない。


 さっきから不思議だ。魔族の視線を感じるのに、近寄って来ないのだ。



 さらに進むと、洞窟の中に来た。無限回廊とは違う洞窟。すぐに広い空間へと出た。


「この城の半分は山の中にあるんだよ。面白いよねー。」


 そして、(きびす)を返して、戻っていく。


「僕ね。六歳の時に、バトルコロッセオ大会で十八歳の子に勝ったんだー。けど、みんな気味悪いってみんなが逃げ出したんだ。だけど、本当のお父さんとお母さんはそんな僕をぎゅっと抱きしめて『強いのは世界の役に立つため。世界の役に立ってね』って言ってくれたんだ。まぁ、三年前に二人とも死んじゃったんだけどね。」


 突然話されるマユダの過去。悲しい過去なのにトーンは明るい。


「だから、僕は決めたんだ。世界の役に立つって!」



 長い階段に敷かれたカーペット。まるでレッドカーペットのような豪華さがある。


 長い階段を進んでいく。


 着いた先には巨大な魔族の石像が置かれていた。


「これが魔王シェムハザだよ。びっくりするんだけど、石像の回りは不思議なバリアが張ってあって触ることすらできないんだよねー。」



 試しに手を近づけてみた。

 バリアが邪魔して近づかせることができない。


「けどね。これを使えば触れるようになるんだ!」


 取り出されたのは"秘宝――神の矢"だった。



 それが石像に向かって進む。



 パリンッ! バリアが破壊される。

 

 ザッ。石像に矢が刺さった。石像だから刺さる訳ないと思うけど、削れた訳でも砕けた訳でもなく、確かに刺さっている。私もカナリンも思わず目を疑った。


「これを攻撃したらどうなるかなー!」



(まさかり)――!】



 振り回される斧。それが石像に当たりかけた。



【回避!】



 カナリンの能力で斧は石像をすり抜けた。

 彼女は焦った表情を浮かべていた。


「ジュリネ。マユダの攻撃から石像を守って。今石像を破壊されたら、その中から魔王が復活するの。そしたら、石像二体倒すまで魔王は不死身のまま世界を襲うわ!」


 それを聞いたら、私も少しばかし焦りを思う。

 あの主忍やギルドマスターを初めとした精鋭十二人でようやく倒した『雷忍』と同じ強さを持つ石像が残り二体。

 それを倒さなきゃいけないのに、さらに強いと言われる魔王を石像と同時に対処しなければならない。


 考えただけで――地獄だ!



 狂気じみた笑いを浮かべるマユダ。言うなれば狂喜(きょうき)



「【魔法】ブリザード!」


【カウンター!】



 マユダが斧から放つ凍てつく風。それをカナリンが能力で跳ね返した。

 マユダはその勢いのまま隣の部屋へと吹き飛ばされた。


「ジュリネ。マユダの所へ行って。カナリンはもう戦えない。カナリンの能力が発動できるだけの気力が戻るまで、近くの換気口を探して英気を養ってる。マユダのこと、任せたわよ。」


 とても疲労困憊(こんぱい)しているカナリン。その表情は切羽詰まった感じだ。


 あまりに唐突で、状況を飲み込めない。

 ひとまずマユダの所へ行って状況を確かめるしかない。



 私は隣の部屋へと壊れた壁を通って進んだ。



「邪魔しないでよー。せっかくいい所だったのに。」


 そこに魔族がやって来た。


「動くな!」魔族が攻撃をするぞ、と威嚇している。


「ねぇ、君達は邪魔だからどっか行ってくれない? 魔王がいない今、この城で一番偉いのは誰か分かる? ヘイムさんなんだよ。そして、次に偉いのは――?」


「アンチギルドの幹部だろ? だから、どうした?」


「あー。完全に僕のこと、認識できてないね。仕方ないかー。」



 マユダは斧を床に突き刺した。


【マント】黒いローブを召喚して着る。

【マスク】喜んだ顔の仮面を繰り出してそれをつけた。



「僕がアンチギルドの幹部――黒天(こくてん)喜面(きめん)のマユダだよー。分かったら、さっさと失せてね。」



 それを聞いて、魔族は苦虫を噛み潰したような顔でその場から去っていった。



「あーあー。お母さんにはバレないようにしてたんだけどなー。僕の正体。」


 軽い口調が重い雰囲気を消し去っている。


「知ってたよ。あなたの正体がアンチギルドの幹部だってこと。」


「じゃあ、なんで黙って見過ごしてたのー?」


「大切な仲間になれると思ってたから。」



 ヴァリアントギルドに入ってすぐにクエストで竜牙兵と戦った時から、マユダが黒点喜面ということは分かった。ピューリに相談して、一人で抱え込むことにした。

 その後、怪しい動きを見せないから、信じていいのかなって思うようになった。今はもう信じてしまいたいぐらいになっている。


 だから――ショックもある。



「僕が寝返ったり絆されたりすると思った? 甘いねー。」


「ほんと……甘いよ。」そんなこと言われなくても分かっているよ。


「ちょっとお喋りしようよ。なんで僕が仲間(かぞく)にずっといたのか知ってる? お母さんを利用するためだよ!」


「利用された記憶はないけどね。」


「利用したし、目論見通りになったみたいだよ。ヘイムさんは占い師に、お母さんが三大ギルド対抗覇戦に出れば"神の矢"を手に入れられるって聞いてたんだー。神の矢ってね、魔王を倒せる力があるからアンチギルドで封印しときたかったんだよねー。けど、王様が手放さずに持ってたから僕達も何にもできなかった。そこであの占いだよ。僕はね、監視するのと一緒にお母さんが三大ギルド対抗覇戦に出られるように頑張ったの。」


 マユダがいなければ三大ギルド対抗覇戦に出られなかったのは確かだ。竜牙兵を倒したのも、ピューリ達のパーティーを倒せたのもマユダが大活躍したから。頑張りは確かだった。


「そしたら、ヴァリアントギルドの秘宝に選ばれて、ようやく神の矢が出回るチャンスになったんだよ。」


 そして、私が優勝して神の矢を手に入れて……


「そしたら、どう? 神の矢は家族が手に入れたし、家族の一員の僕は簡単に手に入れられた。『僕が持っとくよっ』て言うだけだもん。うんうん。こうしてアンチギルドの幹部の手に渡ったんだ。」


 フェルナには伝えておけば良かった。そうしたらマユダに手渡すことにならなくて済んだのに。いや、もう何を言っても仕方ない。もはや後の祭りだ。



「ねぇ、マユダ。アンチギルドから私達のとこに寝返らない?」



「何言ってんのさ。寝返る訳ないじゃん。」


 そんな簡単なことじゃないのかな。けど、話し合えば……。


 突然、斧が投げられた。

 このままじゃ避けられない。


【自分自身】【時間】


 何とか時間をずらして避けた。



「ほんとに、何すんのよ!」


「僕にとって大切な言葉があるんだ。それはねー、『世界の役に立ってね』っていう言葉なんだ。強く産まれた僕は世界の役に立つために世界で最も危険な敵を倒す。でね、世界で最も危険な敵はねーえー、この世界の人間でも魔族でもないと僕は思うんだー。僕はね、別の世界から来た人間だと思うんだ。うん、誰か分かるよね。」


 マユダが走り出してきた。

 斧を召喚して手に持った。


「世界のために、僕はお母さんを殺す。」



【重火器!】



 重火器で振り下ろされた斧からガードした。重火器が凹む。


「話し合えないの?」


「話し合える訳ないじゃん。この世界は暴力が全て。勝てば官軍だっけ? 戦いで勝てば何の問題ないのさ。」


【重力!】


 重火器を持ち上げて、横に振られる斧に合わせてガードした。


「その話だと、もしさ、私が戦いに勝ったら言うこときいて貰えるの?」


「――もちろん。」


 本当は戦いたくない。けど、やるしかない!


 

「あーもー。戦えばいいんでしょ!」



 重火器を振り回す。マユダはそれを後ろに跳んで避ける。



「じゃあ、殺り合おっか――。」マユダは狂気の笑みを浮かべていた。

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