89.チェイスの流儀
殺風景な雰囲気。空き缶が風に飛ばされて枯れた地面を転がっている。サボテンが生えている。木でできた建物が建ち並んでいる。
二人のガンマンが戦っていて、それに野次を飛ばす人々がいる。
ここは、ラストウェスタン――。
西部劇の舞台にありそうな村。
ガンマン達が酒場で屯し、時に決闘を行う荒くれ者の村。
一人の渋い見た目の男が馬に乗ってやって来た。
「お前ぇらがジュリネさんと勇者さんかぁ。初めましてだな。俺はチェイス。荒くれ者の村のリーダーだぁぜ。みな、俺のことをタイマン最強の人間とぉ呼ぶ。今日から、よろしく頼む。」
彼がピューリの師匠――チェイス。
「ここでは《攻撃的超常》を身につけて貰う。詳しく言うと"回転"だ。地球は自転してると同時にその上に立つ俺らもぉまた知らず知らずのうちに回転してぇんだぜ。その回転を利用して、体の回転、攻撃の回転、衝撃の流れを一致させんのが《攻撃的超常》だ。決まれば威力を百パーセント通す攻撃に変わるって訳よぉ。習得したくなってきただろ?」
「えーっと、つまり……どういうことっすか?」
「要はなぁ、体の捻りを無駄なく全部ぶつけるってことだぁ。回せば回すほど、威力は逃げねぇってこっだぁ。こういうもんは脳みそ全力で回転させて理解するもんだぁぜ!」
つまるところ、回転を利用して攻撃するってことでいいのかな?
「ここでの修行は俺との二対一だ。あんたら二人が俺に一撃を与えればあんたらの勝ち。俺があんたら二人に一撃を与えれば俺の勝ち。他の奴ァ、試合後にアドバイスでもしてやれ。文句は、ねぇよなぁ?」
もちろん、なかった。
「もしものために俺ァ殺傷能力のねぇ跳弾しか使わねぇ。猿も木から落ちるだとか弘法も筆の誤りだとか麒麟の躓きだとか色んな言葉が、奢るなって言ってるんだぁぜ。よって、俺はプロだから峰打ちでできるなんて言うことはしなぁい! ただァし、そのせいで俺は六発しか撃てねぇから、それをハンデとして受け取ってくれ。」
「じゃあ、私も同じ感じで行く!」
変身状態の前に銃を出せば人を殺せないぐらい威力のない銃が召喚される。跳弾のように跳ねはしないけど、六発は撃てる。
「まぁ、これ以上とやかく言ってもつまらねぇ。場所は村の中のみ、建物の中はなし、だ。じゃ、始めようじゃあないか。」
馬が嘶く。
チェイスが馬を走らせて建物が建ち並ぶエリアへと移動した。
【銃!】殺傷能力がない銃。
【自分自身】そして今、変身する。
彼を追って中心街へ。
彼は柱に背もたれでいた。
ハロミトが剣で切り裂きに行く。しかし、柱を蹴飛ばして避けられた。
「はい。まず一人目!」
放たれた跳弾。柱にぶつかり、跳ね返った玉がハロミトの腹に向かって進む。が、何とかそれを避けるハロミト。
「避けた気になってちゃあいけないぜ!」
銃が彼の背中に突きつけられた。
パン。「痛っったっ!」
彼は背中を抑えながらその場に転げ回った。
パンッ!
その間に私は銃を放ったが、軽々と避けられた。
今度は銃弾が向かってくる。それを何とか避けた。
「いいねぇ。回避的超常を習得してる。が、攻撃的超常を身につけなきゃ、俺には当たりはしないんだぜ。」
【鎖】
手から出る鎖が柱に巻き付かれ、それ後、収納されていくことで柱に向かって飛んでいくチェイス。
二階のデッキへと上がるとそこから走り始めた。
「遅けりゃ当たりはしない。じゃあ、早撃ちするしかないんじゃないか? 限界を超えてみせろ。」
放つ銃弾。しかし、走っていく彼には当たりもかすりもしない。
走りながら銃を向けてきた。
集中――。桃太郎との修行で身につけた回避術で避けるんだ!
一発目が放たれた。――何とか避けれて。
二発目が間髪入れずに放たれた。
避けきれない。
パシッ!
痛っ!
おデコに直撃する跳弾。凄く痛すぎる。額を抱え続けることしかできなくなった。
――。
一時的に集まる私達。
「《攻撃的超常》を身につければ速度と威力がぁ上がる。避けにくい攻撃になる。あちらこちらにある"黄金の長方形"から黄金の回転を切り取ることで……」
ハロミトがそれを聞いて、あー、と頷いた。
「それ、あれっすね。ジョ〇ョっすね!」
「言うんじゃあなぁい!」
――――――。
ぞろぞろと集まる住民達。カウボーイや保安官みたいな見た目のガンマン達だ。
一人の男が私の近くへと来た。
「ねっ、お嬢ちゃん。俺と一緒に酒を飲ま――」
パァン!
チェイスの放った跳弾がその男を吹き飛ばした。
「くだらないことをしてるんじゃあないぞ! 次、くだらねぇことしたら、吹き飛ばすだけじゃ済まないぜ。冷凍保管庫の中に閉じ込められた従業員みたく希望はあるけど絶望しかない状況を作ってぇやるぜ。」
その圧力が周りの人達の姿勢を正した。
「さて、ここには戦いてぇ奴がうじゃうじゃいる。戦う敵は俺だけじゃあないんだぜ。この修行では血気盛んな奴らとも戦って貰うから覚悟して挑むんだな。」
【銃】【跳弾】
取り出された銃。跳弾へと入れ替えると、それを近くにいた男に手渡した。
さらに、もう一度能力を使い別の男に手渡した。
「次の勝負はこの男と……この男だぜ。」
カウボーイと保安官のような男だった。
他の人達はぞろぞろと酒場を始めとする店へと入り、私達の様子を見ていく。
「さっ、二回戦と行こうぜ。」
◆
半月後――。
◆
第六感を信じる――。
暗闇の中で見える景色。気配を滞りなく感じていく。その時にだね、滾るエネルギーが見えた。エネルギーは絶えず微妙に回転してる。
そして、一発を放つ。
銃弾がガンマンを吹き飛ばした。
「諦めろ。お前じゃ力不足だ。お前相手じゃ、アイツはマルマル年早ぇ、出直してきなって言えるぐらいの差があるんだぁよっ。」
私とハロミトがチェイスに挑戦を挑む。
「じゃあ、開始だっ!」
【鎖】
鎖を使って村の中を駆け回るチェイス。それをひたすら追うハロミト。
この地形で彼の動きだと――先回りできる。
まず一発!
【鎖】左手からも鎖を出して、柱に絡ませ。しなやかに流れる動きを無理やり止めた。当たり前のように避けられる。
そこに近距離型のハロミトが追いつく。
鎖が消えた。
横に振られる剣。それを軽やかにアクロバティックで避けていく。
そこに向けて一発――! 避けられないはずだ。
カンッ!
銃弾に銃弾を当ててきた。
「威力がねぇんじゃぁないかぁ? こんなもん見せかけだけのハリボテよ。」
やはり、連携しただけじゃ倒せない。
「けど、油断してちゃやられちゃいそうだから。おじさん、少し本気出すね。」
その上、本気出されるなんて……。
いや、勝つんだ!
剣をまっすぐ投げるハロミト。剣は軽々と避けられた。
【発射!】
凄まじいスピードで進む彼はそのまま飛んでいく剣をキャッチして、空中で体をねじって剣を振るった。
集中――。
今! パンッ!
「《回避的超常》を極めすぎると、予測だけで未来が見えちゃうんだよねぇ。」
跳弾が私の放った銃弾を横から当たって軌道を逸らした。明らかに私の銃弾の方が早いはずなのに、彼は横にある壁に向かって放った跳弾の跳ね返りを銃弾に当ててきた。まさに神業だ。
剣で突く攻撃。
しかし、チェイスは片手で剣の側面を触り、その剣の軌道を大きく変化させた。
「《攻撃的超常》も応用しりゃあ、回避に使えるんだぁぜ!」
バランスを崩して前へと出るハロミト。私の近くへとよろめてやってきた。
強い……。
勝てる未来が見えない……。
これが、タイマン最強と言われし人間。
だからって負けてはいられない。
ダラダラやっても負けるだけ。なら、次の一発で全ての決着をつける気持ちで行く!
「一気に決めるよ。ハロミト!」
「承知っすよ!」
壁へと向かって放たれた跳弾は、壁から柵へ、そしてハロミトを襲う。それを避けて剣を振るう。しかし、距離は空いていてこのままじゃ当たらない。
"能力解除"
剣が伸びる――。チェイスは当たりかけた剣を避けるために後ろへと跳んだ。
集中――。
悪魔の力が溢れるのが分かる。その力が血液を通って体に巡る。――回転しながら進む黒いエネルギーが体を循環する。
まるで無我の境地だ――。
パン!
放った銃弾。それと同時に放たれた跳弾。攻撃的超常を織り交ぜた銃弾が跳弾を跳ね除けてまっすぐ進み、チェイスの胸に衝突した。
「ぐひゃっ。」痛すぎる。
放ったのは一発じゃなくて、二発だった。二発目の跳弾は壁に向けて放っていたみたいで、跳弾が頭頂部に当たった。すごく痛い。
「流石だぜ。そこなら実弾でもすぐには死にはしねぇ。最強と言われた俺ですらそこに当てるのが限界だ。そこまで追い詰めたんだ。喜んでくれてもいいんじゃあないか?」
「まさか2発撃ってるなんて……。」やはり、チェイスについた最強の名はダテじゃないなと思う。こんな早撃ち、私にはできない。勝った気がしないから素直には喜べない。
「いいや、同時に三発だ。俺の最強の奥義、早撃ち三連だ。……が、三発目は守られたみてぇだけどなぁ。」
ハロミトは剣を顔付近に構えていた。
「危なかったっす。」
つまり、私とチェイスで相打ち。ハロミトはぎり助かったってことだ。
「よぉし。お前ら、上出来だ。文句なしで合格をくれてやる!」
◆◆
〇主忍修行②――チェイス
……攻撃的超常(回転)取得、兼、判断力向上、他。
◆◆
「さぁ、行くぜ。お前ぇら、置いてかれるんじゃあないぜ。」
私はカウガールの背中に捕まった。乗っている馬が思いっきり走っていく。
私達は馬に乗って進んでいた。馬の乗馬技術のない私達は誰かの騎手の後ろに座っていく。
広がる荒野を幾頭の馬が進む。
おっと。馬が止まった。
目の前に魔族が現れた。――竜牙兵だ。周りには骸骨騎士が現れている。
「お前ぇら二人。修行の成果見せてみろ。俺らは周りの魔族をやるぞ。」
ガンマン達が骸骨騎士を攻撃し始めた。
私とハロミトで竜牙兵と対面する。
「もしもの時は僕達がいるからねー。」
「とりあえず、困ったら言ってね。」
後ろではマユダとフェルナ、ボーニー、カナリンとパルパルが様子を見守る。
【自分自身】→【銃】
威力の出る銃で撃つも竜牙兵が硬くてダメージが入らない。
目を瞑る――。集中――。
体に巡る悪魔の力。それを右腕に溜めて放つ!
悪魔の斬撃――!
斬撃が当たった所の骨が凹んだが、倒し切るにはまだまだだ。
「おいおいおい。修行の内容を忘れてんじゃあないぞ。銃でも銃じゃなくてもやることぁ同じ。回転を意識するんだぁぜ!」
もう一度……集中――。
悪魔の力を右腕に溜める。
今度は回転を意識する。
「今!」
回転エネルギーを閉じ込めた斬撃!
骨を斬り裂くダメージ。
追い討ちのようにハロミトが剣を横振り一閃。竜牙兵を斬り裂く。
十時に斬り裂かれた竜牙兵が消えた。
骸骨騎士の方は、マユダやフェルナ、ボーニーも参戦し、チェイスと共に圧倒的な力を見せて破壊した。
強くなった実感を抱きしめながら少し笑ってみた。
――――――。
荒野を走り抜ける馬の集団。
いつしか砂漠に変わっていく。
大きな城――砦が目に見える。
「さぁ、着いたぜ。俺らはここでお別れだ。それじゃあ、じゃあなっ。」
ここまで運んできてくれたチェイス達にお別れと感謝を伝え、馬でラストウェスタンへと戻っていく彼らを見送った。
砂漠に乾いた風が吹く。
「じゃあ、三つ目の修行に行こうか――。」




