88.裏切りの予言
人間が何かしらの情報を受け取る時、利用するのは――『83%』の視覚、『11%』の聴覚、『3.5%』の嗅覚、『1.5%』の触覚、『1%』の味覚と呼ばれている。
それら五感を一時的に『0%』に近づけると無意識の境地――氣や第六感にたどり着ける。
「――と言われても、全然、できないんだけど!」
目を瞑って、耳を塞いで、呼吸を一時的に止めて……。
駄目だ。雑念が邪魔をする。
今日もまた鬼ごっこ。
どんなに頭を使って逃げた所で桃太郎の掌で踊るしかできない。
隠れても犬や猿が見つけるし、空から雉が見ている。まず隠れることさえできない状況の時点で、万策尽きているのかも知れない。
また、捕まった――。
「ハロミト合格! けど、速さ上昇のための鍛錬のため鬼ごっこは続けるぞな。」
「マジっすか! せっかく終わったと思ったのにぃ。」
ハロミトが抜けた。ついに、私一人となってしまった。これから私一人のために他のみんなはここで足踏みになる。早く合格しなければ――。
――――――。
「肩に力が入りすぎ。もっと自然体にならにゃあ合格は遠いいよ。」
「そうっすよ。大事なのは、考えることじゃないっす。感じることっす。考えるな感じろっ、すよ。」
店で大手門饅頭を頂く。上品な甘い味が脳をすっきりさせてくれる。
考えるな感じろ――!
ゆっくりと目を瞑る。
一瞬、悪魔の時の状態と同じ空間にいたかと思った。何か掴みかけそうな気がした。
「いつでも待つっすから、頑張って掴んで下さいっす。」
目を開く。風通しの良い店の椅子に、優しい風が吹いていた。
◆
半月後――。
◆
いつもの鬼ごっこが始まった。
動物には見つかるし、桃太郎には遊ばれるように先回りされる。
けど、捕まえる気でいるのかあえて捕まえないようにしているのか――直感で分かるようになった。
手が伸ばされる。後ろに倒れ込んで何とか避けた。
ひたすら逃げて、家の影へ。
目を瞑って、感覚を研ぎ澄ませる。
犬が吠えている。そこに桃太郎が来た。段々と近づいてくる。
瞬間移動――!
屋根の上に瞬間移動した。一時的だけど、私の体の半分は悪魔となっているのが分かる。
桃太郎が屋根の上に上がってきた。
手が伸びる。それを何とか避ける。
「時間じゃな……。」
彼の動きが止まった。そして、彼は私に向かって笑った。
「合格じゃ。次へ進んでええでー!」
ようやく桃太郎の修行が終わった。
達成感が半端なかった。
どこからか突風が起きた。
何やら町の一区域が騒がしい。
桃太郎の門の力で騒がしい場所へと移動した。
――。
そこにいたのは棒人間だった。
棒人間の彼はボーニー――私達の仲間だ。
彼が相対するのは一人の女性――アンチギルドの幹部ティナだった。彼女は何故か、私達が大切に保管していたはずの"秘宝――神の矢"を持っていた。
「なんで、それを持ってんの?」
「なんででしょう。秘密。そして、これはアンチギルドが大切に保管してあげる。二度と魔王討伐する人が手にしないように……。それがアンチギルドのためになるから。」
魔族サイドの彼女らにとっては理にかなった行動なのかも知れない。
私達にとっては非常にマズイ状況なのかも知れない。
ボーニーがティナを追い詰めていく。
【テレポート!】
ティナが消えた。
いつの間にか私の背後にいて、鏃を首元付近に構えている。
「この子の命が惜しければ、あたしを無事に帰らせること。もちろん、神の矢も持ち帰らせて貰うよ。」
一瞬にして人質になってしまった。
桃太郎も、フェルナやハロミト、カナリンも私が人質になったせいで手を出せずにいる。
殺気すら感じられる。
緊迫した状況――。
仲間が動きたくても動けずにいる。首元に当てられかける鏃が冷たい。
そんなものに飲み込まれちゃ駄目だ。
集中――。
目を瞑り――精一杯、感覚を開かせる。
一ヶ月半も鬼ごっこしてきたんだ。ようやく花開いたこの力をものとしなきゃ意味がない。今ここで使えなきゃ意味がない!
瞬間移動――!
悪魔化による瞬間移動で、窮地を脱した。
「やるでござるな。これで卑怯な手は使わせないでござるよ!」
【ボール!】
ボーニーの放つエネルギー弾がティナに直撃した。大きく吹き飛ぶ。その時に神の矢が落とされた。
「まだまだ行くでござるよ!」
【ボール!】
放たれるエネルギー弾。
【テレポート!】
しかし、ティナは瞬間移動によって消えたために空を切った。
少しばかしの警戒。
それなりに時間が経つと敵は襲ってこないことを確信した。
「そう言えば、どうしてボーニーがここにいるの?」
「怪しい動きがあったから、これは重い腰を上げなきゃいけないって思ったからでござるよ。ここから少しの間は同行するでござる!」
ボーニーが助っ人としてパーティに加わった。
「次の修行も頑張りょ!」
私達は桃太郎に見送られながら、次の村へと向かうことになった。
◆◆
〇主忍修行①――桃太郎将軍
……回避的超常(氣及び第六感)取得、兼、速さ上昇、兼、体力向上、他。
◆◆
私達はサバンナの大地のような道を進んでいた。
殺風景みたく真っ平らな土地は中途半端に整備されている。というのも、横に柵が並んでいるだけの道だ。
乾いた道を進むと、何やら一面畑のようなものが見えてきた。
「ラストウェスタンはお茶の名産地なのでござる。実は、岡山大河町とは仲が悪く、茶と桃でどちらがいいか喧嘩祭りがされるぐらいでござる。」
いや、一周まわって仲がいいのでは……?
歩いていると向こう側から歩いてくる行商人。スーツケースをガタガタ鳴らしながら進んでいる。
すれ違いざまにチラッとその顔を見た。
「あれ? 占い師さん……?」
「これはこれは……。そう言えば、あなた達四人とサポーター三人の予言をしたことがあったような気がしますね。」
四人とは私、ハロミト、マユダ、フェルナのことで、三人がカナリン、パルパル、ボーニーのことだ。
「今やあたしは流浪の占い師。奇遇ですね。いい情報を与えられそうな予感がするわ。……占う?」
「じゃあ、お願い……。」
「七人分でいいわよね? 値段は……」
掲示された値段が高すぎて、目が飛び出てきそうになった。
「待って待って待って。高い! なんで人数分取るのよ! なら、私が代表して聞くよ!」
「分かったわ。あなた一人分の料金なら――」
交渉が成立した。
私と占い師のウメノは二人きりとなった。
【占い――!】
空中に現れるタロットカード。それらがひとりでに動き始める。
逆――隠者――欺き。
「ははは。可哀想にね。占いの結果、あなたが待つ大きな試練があるわ。その試練はね、大切な仲間の裏切り――。そして、裏切った仲間と殺し合うことになるの。」
裏切り――。その言葉が強く響く。
目を逸らしたい事実。耳を塞ぎたい言葉。
ティナが盗んだ"秘宝――神の矢"。なぜ、あれが盗まれたのか。外部からの侵入じゃ盗めないはず。
つまり、誰かの協力者がいた可能性がある。
一体誰が――。仲間の顔が浮かんでいく。考えたくはないな……。
「最後に、さっきのパーティーの中に、裏切り者がいるわ。そして、魔王と直々に繋がりがあるの。」
タロットカードが再び動き出した。
正――塔――崩壊。
「もし対策を講じなければ――この世界は崩壊し、世界の消滅は免れない。これが運命よ。」
占いが終わり、仲間達の元へと戻った。
「どうだった?」とマユダ。
「あんまり、良さそうなこと聞けなかった」と嘘を吹聴する。誰かを疑うような空気感を作りたくなかった。
胸が締め付けられる――。
ハロミト、マユダ、フェルナ、カナリン、パルパル、ボーニー。
この中に、裏切り者が――?




