87.桃太郎の鬼ごっこ
目の前で大切な人が自分を庇って消えてしまう経験はありますか――?
私はこの世界に閉じ込められて、この世界から抜け出すために魔王討伐のために行動をした。けれども、魔王討伐は甘くなかった。
強敵を前に、大切な人が私を庇って攻撃を受けた。今はその攻撃によって封印の中にいる。
このまま魔王討伐に出ても、また大切な人が私のせいで消えてしまう気がする。だから、強くならないといけない。
もし、その強くなるチャンスがあるなら、私は掴もうと思う。
「修行の準備はよろしいでしょうか?」
国の忍の言葉を聞いて頷く。
待っててね――。封印が解かれた時。その時、私は肩を並べて笑い合えるぐらいにまで強くなるから。足を引っ張る存在から脱却してるから。
主忍による修行が始まる――。
「岡山大河町から始まり、永久の町に向かって戻るように五つのスタンプを集めていく。そして、最初の担当はわしだ。まずはわしからスタンプをつかみ取れ!」
そこにいる桃太郎。
【門――!】
彼が壁に門を作り出した。かなり遠くの地にある岡山大河町に繋がる異次元の門だ。
私達はその門の中へと入っていった。
◆
岡山大河町――。
自然豊かな土地。田んぼが広がっている。田舎の匂いが漂っている。所々、かやぶき屋根の昔ながらの家が建ち並んでいる。
「今日はこの岡山大河町の探索じゃ。」
優しい匂いが立ち込める。
透き通る浅い川へと来た。
「ここは名物の桃の川じゃ。時々、どんぶらこどんぶらこと桃が流れてくる。」
言ってる側から巨大な桃が流れてきた。
川に足を突っ込んで桃を引き寄せた。
「『35%』の確率で普通の桃が流れてくる。」
「何その確率!?」
「『30%』で甘い桃じゃ。『20%』で舌の上でほろける高級な桃じゃな。割ってみな。」
パッカーン。
中から何枚もの銀貨が現れた!
「いや、なんでなの!?」
「銀貨は『10%』の確率じゃ。ちなみに、桃から人間が産まれるのは『1%』じゃ!」
「桃太郎ってゲームのガチャみたいに産まれてくんのっ!?」
「じゃあ、百個桃を集めれば人間が産まれるってことっすか?」
「多分、百回回しても『60%』そこらしか出なかったはず。」
「ごめん。何の会話!?」
気を取り直して、再び探索を始める。
白茶っぽい色の土の上を歩く。茅葺き屋根の建物が建ち並ぶ。落ち着いた服装の人々が日常を繰り広げている。まるで江戸時代の町に来たみたいだ。
自然豊かな町はとても居心地が良かった。
◆
今日から泊まる所はカナリンの能力で造りだした家だ!
【隠れ家!】カナリンが繰り出した秘密の家。
【改造!】【絡繰!】
その家は地下に造られた地下三階建ての建物で、ちゃんとした建物である。私達の個室部屋はもちろん完備。他にもリビング、キッチンなど当然の設備に加え、和室が造られている。
侵入者が来たら、罠が侵入者を襲う仕組みだ。お陰で安心して暮らせる。
「ここに矢を置けば、大丈夫でしょ。」
"秘宝――神の矢"を置いた。ここに置けば盗まれる心配もいらない。
何やら下の階が騒がしい。
降りるとフェルナが何やら掃除機を持って何かと戦ってる素振りを見せていた。
「どうしたの?」
「虫がいたんだけど!」
正直言うと、私も虫はダメだ。
蜘蛛か百足かはたまたGか。どれも最悪だなぁ、って思いながら見渡す。しかし、その姿は見つからない。
「どんな虫?」
「てんとう虫!」
「そんな騒ぐレベルの虫だっけ!?」
結局、てんとう虫は見つからなかった。
◆
今日から本格的に修行に入る。
集合場所に辿り着くと桃太郎が先に着いていた。
「今日から本格的に修行に入る。わしの修行では"超常能力"の一つ『回避的超常』を身につけて貰う。」
「超常……能力――?」初めて聞いた言葉だ。
「ああ。超常能力は誰でも身につけることが可能な能力じゃが、身につけることができるなぁひと握りの強者しかおらん能力のこと。」
つまり、誰でも会得できる可能性はあるけど、会得できるのは相当な実力者だけってこと?
矛盾してるように思えたけど、どんなに出自やステータスが低い人間でも努力次第では会得できると考えれば納得できる気がした。
「二種類ある"超常能力"のうち、一つが『回避的超常』。いわゆる、《氣》や《第六感》言われるもんじゃ!」
説明を聞くに、
五感とは別の、“全体を俯瞰して感じ取る感覚”であり、それにより、危険や攻撃を“予兆”として察知できるらしい。
全体を俯瞰して感じ取る感覚――か。
まるで悪魔になった時の私が陥った状況のような気がした。
「さて、修行の内容を伝える。今から一時間の鬼ごっこを行う!」
「鬼ごっこっ!?」
「そうじゃ。エリアは岡山大河町全部。一時間、わしに捕まらなんだら、スタンプをやろう。一つ忠告だが、犬、猿、雉がわしの手伝いをしてくれる。隠れてもすぐ見つかるけぇ気ぃつけることじゃ。」
そうか。だから、昨日は岡山大河町の探索しかしなかったんだ。鬼ごっこをするための下見を私達にさせていたのか。
けど、意外と町は大きいから逃げ切れるような気がする。まぁ、修行として役に立つか分からないけど、絶対に逃げ切ってやる!
「今から十分後に開始する。今の間にお逃げられー!」
鬼の桃太郎から逃げる修行が始まった。
――――――。
建物の影に隠れて時間を過ごすことにした。
ワン。キャンッ。ワォゥゥンッ!
犬に見つかった。小さく吠えてきた。
軽く移動する。犬は鬼じゃないので捕まらないけど、まとわりつくように来られるのが鬱陶しい。
家の壁に小さな門が現れた。そこから桃太郎が出てくる。
「町中ならどこでも移動可能でー!」
見つかった。
ひたすら逃げるしかない。
何とか逃げ切っていくけど、今度は猿に付きまとわれる。
【自分自身】【重力!】
体を軽くして、屋根の上に乗る。屋根の上はダメというルールはないはず。
雉が私の上でキィーと鳴く。
「屋根の上におるけぇって余裕ぶる時間はねえでー。もんげぇ鬼が来たさー、さぁ、逃げな!」
屋根の上にさっと飛び移る桃太郎。身軽すぎる動きに、翻弄される。
何とか屋根から降りて、何とかやり過ごす。
刻刻一刻――。時間は経ってるはず。
たった一時間。されど一時間。……長い。
木の影に隠れてひとまずやり過ごそう。
疲労感が溜まっている。走るのがキツくなってきた。変身状態の特別な力も流石に限界がある。
「後、何分なの……。」
「後、十分を切っとるなー。」
触られた――。
アウト!
最初の鬼ごっこは敗北で終わった――。
――――――。
「合格はマユダとフェルナじゃ。ってか、一つ言いてーことがあるけど、フェルナは教わる側じゃのうて教える側じゃねんか?」
元々、不参加のカナリンとパルパルを除くと、この鬼ごっこは残り私とハロミトだけ。二人ともお互いに疲れきってる。
これ……桃太郎は捕まえれなかったんじゃなくて、私達が泳がされたんだ。今気づいた。
「この鬼ごっこをクリアできるまで続けるぞな!」
地獄の修行が幕を開けていたことに今気づいた。
◆
そして、一ヶ月の時が過ぎた――。
私達は未だに合格できていなかった――。




