82.カナリンは泣かない
「最強の秘宝使い――栄光の回転鉄具の使用者ジュリネに神の矢を託す。魔王を――倒してくれ。」
私は先が光っている矢を頂いた。
観客の熱気が最高潮に達していた。
――――――。
控え室に戻る。
「お疲れ様っす。」「すごーい。」仲間たちからの声が安堵させてくれる。ようやく肩の荷がおりた。
「少しお時間よろしいでしょうか?」
そこに現れたジェノム。
警戒をする。私はブーメランを手に取り、ハロミトは剣を取り出した。
「安心してください。戦うつもりはありませんから。」
彼は掌を開いた。その上にリングの中に幾つかの鍵がある。
「この中にアルカナギルドの鍵とカナリンを閉じ込めている檻の鍵があります。」
恐る恐る手を出した。彼は普通にそのリングを手渡した。
「少しよろしいでしょうか?」
「何?」
「私は昔から、なぜこの世界はこのように生まれたのか、なぜ私はこの世に生まれたのか、そんなことをよく考えていました。そして、ネヌ様の薦めでアルカナギルドに入り、歴史について深めることにしました。ある日、真実に辿り着きました。この世界の真実――」
唐突の語り。内容が内容のせいで、私の脳の理解が追いついていない。
「そう、我々は人間と思い込んでいますが、人間ではなかった――。」
その言葉がまるで時間を止めたかのように空気を凍らせた。頭にはてなを浮かべていく。
「我々は本物の人間のコピーし人格を投影したクローン。言わば、極性能AIと呼ばれる人間のような人間ではない何かなのです。」
「何を言ってるんすか? 大丈夫っすか?」
ハロミトやマユダ、フェルナは理解していない。だけど、私はうっすらと理解している。
「真実を知ってから、余計に生きている意味が分からなくなりました。きっと私が偽物だからでしょう。だから、聞きたいんです。本物の人間であるあなたなら、答えられると思いましてね。」
人間味溢れる感情が言葉に混じっている。今までの彼とは思えない言葉の味。
「何のために私達は生きているのでしょう――?」
どこか哀しいような、そんな言葉。生きる価値を見出すことを諦めたと分かる流れからの希望を私に見出そうとしている現在。けれども、私はそれに答えられない。
「分からないよ。だって、私だって何のために生きてるかなんて分からないんだから。」
「本当に……。我々を生み出した理由を知らないのですか?」
「全く分からないし、そもそも、人間ってそういうもんじゃない?」
「……といいますと?」
「だって、私だって生まれた意味を知りたいよ。けど、私だってそうだし、あなただって、ここにいるみんなだって、同じじゃん。こんなにも悩んでる。怒って泣いて笑ってる。私には本物の人間にしか見えないよ。」
一瞬、彼の表情が柔らかくなった。どうしてか頬が濡れている。
「私も人間でいいんでしょうか?」
「きっといいんだよ。だって、こんなにも、感情があるんだから。」
その言葉を聞いた彼は、踵を返して背中を向けた。そして天井を見ていた。
「感謝します。しかし、私はアルカナギルドを背負う者として、"神の知恵"を追い求めるのが使命ということには変わりません。あなたに感謝すれど、私は魔王へと歩みよることは辞められず、次会う時も敵でしょう。最後に、いい事をお伝えしてお別れしましょうか。」
彼は出入口まで歩いて止まった。
「あなたの中には眩く光る玉があります。私が追い求める"神の知恵"、英雄バムが持つ"天使の勇気"、それと並ぶ強大な力――"悪魔の力"をあなたは秘めているのです。」
確かヴァリアントギルドでリュウジャスが教えてくれた話にそんなのがあった。しかし、その内の"悪魔の力"を私が秘めている……?
「あなたはまだ"悪魔の力"を引き出せていません。あなたはもっと強くなれます――。」
「どういうこ――」
「では、ごきげんよう――。」
彼はそのまま去ってしまった。追ってみても、もう姿が見えなくなっていた。
◆
「胴上げだぁ!!」
怖っ!
天井近くまで飛ばされる胴上げ。
「優勝、バンザイ!」
タンッ!
天井にぶつかった!
「痛いわ!」飛ばしすぎだわ!
まったく……。
本当に賑やかな室内。
けど、それがヴァリアントギルドの変わらない日常。騒がしいはずなのに、逆に安心してしまう。
けど、今は安心してる場合じゃない。
「アルカナギルドですよね。私も着いていきます。」
ギルド嬢と共に、私達はクエスト移動用のカゴの中に入った。
「では、土島に向かいますよ」とプルリュー。
プテラノドンが私達を目的の村まで運んでくれた。
◆
しんしんと降り積もる雪。
年中冬の村――。そして、見渡す限り殺風景のような真っ白なまっさらな村――。
土島――。
「お兄ちゃん、アウト!」
「やったな。これでも喰らえっ。くっ、外したか。」
私達は積もる雪の上にいた。
アルカナギルドは雪で白くなった建物だった。
「喰らえっ! 雪連弾!」
こいつら……。
「雪合戦してる場合か!」
まったく……。
カナリン救出が優先だって言うのに、のんきに遊びやがって……。
ギルドの中はまるでラボのような場所だった。
地下へと進んでいく。
薄暗い雰囲気の中、人気はまったくない。いたとしても、私達に興味がないようで手元のパソコンなどに没頭している。
「話は聞いています。こちらです。」
そこにいたのは砦にいた国の忍のムイヘだった。彼に連れられて最深部へとやって来た。
持ってる鍵で閉ざされた部屋を開ける。
檻の中に閉じ込められているカナリン。
「良かったですね。では、ボクはこれで――。」
ムイヘは踵を返して去っていった。
それよりも今は、カナリンに会えた喜びで胸がいっぱいだ。
急いで近寄り、鍵を開く。
「助かったわ。ありがとね。」
「良かった。本当に良かった。ねぇ、酷い目に合わされてない? 大丈夫?」
「大丈夫よ!」
その言葉を聞いて、安堵で心が満ち溢れた。
「久しぶりじゃない? 懐かしいわね。」
「無事で良かったです。けど、ずっと閉じ込められていたんですか?」
「……。まぁね。どんなことがあっても、カナリンは口を割らないし、手を貸そうとはしないから。」
「やっぱりカナリンさんは強いですね。私は折れてしまいそうです。まるで夜鶯鳥は鳴けど、金糸雀は鳴かないみたいな、感じですね。」
「何それ、初めて聞いた……。」
「夜鶯鳥は味方も敵も癒す囀り回復させるけど、金糸雀は心が強いから、敵のために囀り危険を知らせることはしない。という都に伝わる古い諺です。」
「と言いたいけど、一つだけ、敵に力を利用されちゃったの……。」
「何……?」
「石像の封印解除よ。あ、一ついい?」
カナリンは不思議そうな顔をして、
「一つ聞くわよ? それをさせた張本人と一緒に来たのはなんでなの? さっき帰っていってたけど」と質問される。
よくよく聞けばムイヘの話題だった。
しかし、ムイヘが張本人?
どういうことだろうか。聞いてみた。
「そのムイヘって言う人が、ヘイムなのよ!」
気づかなかった。
ってか、よくよく思い返せば、ムイヘって、名前のヘイムをひっくり返しただけの名前じゃん。なんで気づかなかったんだろう。
「ねぇねぇ、こんなとこで話をするよりも、ヴァリアントギルドに戻ってゆっくり話をした方がよくない?」
マユダからの提案。
「そうね。戻りましょうか。」
――――――。
空を飛びながら都へと近づいていく。
「なんですか? あの巨人は……。」
雲すら貫く巨大な人型の何かが都市に向かってゆっくりと進んでいるのが見えた。
「何……あれ?」
「あれが、カナリンの解いた石像よ。」
強烈な嫌な予感が空を覆っていた。




