81.蒼天哀面
会場の熱気は今までで一番激しい。
フィールドの上に立つ。
「あんたに勝って、カナリンは必ず取り戻す。」
「いいえ。勝つのは私ですよ。魔王に危険を及ぼすとされている"秘宝――神の矢"は必ず私が手に入れます。魔王に敵対する人間が手に入れるのだけは、アンチギルドとしては避けたいのでね。」
「大丈夫。神の矢も手に入れて、魔王は倒すから。」
「では、尚更、あなたには負けて貰わなければなりませんね。アンチギルド幹部――蒼天哀面として、あなたに勝つ。」
紺色のローブが揺れている。手に持つ金色の塔がギラギラと輝いていた。
◆◆
決勝戦――。
〇ジェノム
……秘宝――毘沙門の塔
〇ジュリネ
……秘宝――栄光の回転鉄具
◆◆
始まりの合図。
私の背中を貫こうと、地面から斜めに現れる細長い塔。
【時間――!】
五秒時間を遅らせてその間に避ける。
避けてから、避ける勢いを乗せてブーメランを投げる。
【時間!】
敵も時間を遅らせて攻撃を避けた。
『いきなりお互いの攻撃が炸裂っ! しかし、どちらもギリギリの所で避けるっ!』
止まってるとどこからともなく現れる塔に貫かれる。走るしかない。
【自分自身】からの【磁力】
ブーメランを引き寄せて移動しながら、自ら回転することで走りながら投げる。
ジェノムもまた走りだした。
ブーメランの弱点もまた、走っている敵には当てにくいということ。お互い走るしかない。
塔が現れていく。走っていると後ろ側の攻撃は遅く感じ避けれるようになる。お陰様で攻撃は避けていける。
隙を見て、投擲。
彼も走ることで避ける。ブーメランが彼の近くの地面に突き刺さった。それを見て彼の足が止まる。
『お互い一進一退だぁ!! さぁ、展開はこっからどう動くっ!?』
ひとまず近づくしかない。
【磁力】
ブーメランに引っ張られる私。
彼の近くにこれた。ブーメランをキャッチ、からの回転しながらリリーフ。
敵の攻撃が出遅れた。現れる塔も見切れる位置。
【時間】――!相殺!――【時間】
ザクッ。
ジェノムに刺さるブーメラン。
【磁力!】私はブーメランを手元に戻してダイヤルを回した。
「同じ能力を使えるのは厄介ですね。」
彼も私も"時間"の能力を使える。時間を遅らせてきたら、その分時間を早めればいい。
しまった。ちょっと気を緩めた所に塔の攻撃が来た。
【時間】――!相殺!――【時間】
避ける攻撃が無効化された。肩に突き刺さる塔の先端。――痛い。
「まぁ、それはお互い様でしょうけどね。」
「まぁ、そうだね。」
【重火器!】
重火器を召喚。敵に向けて、砲弾を放つ。しかし、現れる塔が壁となり防がれる。
「仕方ありませんね。見栄えが悪くなり観客のブーイングの嵐は免れませんが、私にとっては勝てば何も問題ない。勝てば官軍なのですから。」
真ん中に現れる巨大な塔。段々と高く聳えていく。
『フィールドに建物が現れたぁ!』
「あなたは私の《言霊系》能力の他に《具現化系》能力も使える上位互換。ですが、《変身系》能力故に時間制限という明確な弱点が存在しますよね。」
「なるほどね。」
「ゆっくりとしていてください。能力が切れた頃に殺しに行きますから。もちろん、登ってきてもいいですが、塔の中には罠が仕掛けられてるかもしれませんので、ご注意下さい。」
目の前に現れた巨大な五重の塔。
その最も上の方、屋根の上にジェノムが立っている。
ここから彼に向けて攻撃した所で些細な威力しか出せない。倒すには確実に近づくしかない。
近づくには罠が見透ける塔の中に入らないといけないのか……。ただでさえ、時間制限があると言うのに、五階分も上がっていったら、多分力尽きてしまいそう。
『これからどうなるんだぁ!』
「全く……。絶対絶命じゃん。ドラヴァスさんとの修行がなかったら、つんでいたよ。」
私はブーメランを手に持った。
それを思いっきり高くにいるジェノム目掛けて投げる。
【時間!】
ブーメランの時間を数秒止める。私は投げる時の回転を利用して、片足をブメーランに乗せる。
【重量!】【軸!】
ブーメランの時間が動き出す。私はブーメランの上にほぼ垂直で立っている。
重力をゼロにして落ちないようにしてから、軸で立てるようにする。これを使えばブーメランの上でぐるぐる私も回転することもなく、どんな垂直でも立つことができる。
そう、まさに――
「ドヤッ――だよ!」
一気に五重の塔の屋根上へと上がった。
【磁力】――!相殺!――【磁力】
吹き飛ばそうとしてきた。しかし、同じ技を使って無効化させる。
ダイヤルを回して……
シュッ!
投げたブーメランがジェノムをすり抜けた。
戻ってくるブーメランをキャッチ。そして、ジェノムは時間差でダメージを受ける。
「貫かれなさい!」
手に持った小さな塔で刺しにきた。
手に持ったブーメランでいなす。
『秘宝同士――塔とブーメランのぶつかりあいだぁ!!』
カキンッ! 塔とブーメランがぶつかっていく。突く攻撃といなす攻撃。元々、使い方が近距離用じゃないから、攻めきれない。
カンッ。
何度も当てていく攻撃。
一度距離を置く。埒が明かない以上、これにかけるしかない。
カチカチカチ。ダイヤルを回した。
『さぁ、お互い距離を置いて……。おっと、再びぶつかりあうかぁ!?』
塔を刺してきた。ブーメランで斬る。
ブーメランは塔をすり抜け、ジェノムもすり抜けた。
ザッ。私の腹に突き刺さる。その間にブーメランで攻撃をしていくが、その攻撃は全てすり抜けた。
「捨て身とは……何のつもりですか?」
一旦距離を置くジェノム。下がっていく彼に向けてブーメランを投げる。
ブーメランがすり抜けた。
そして、出戻りするブーメランで二回目の攻撃を加――
『塔が、塔が消えたぁ!?』
崩落――いや、消滅する足場。空中に放り出された。
「塔の上じゃ塔を出せないですからね……。」
落ちていく体。上の方ではブーメランがあらぬ方向に飛んでいった。流石に今引き寄せていく場合じゃない。落下ダメージを何とかしないと。
【重力】――【重力】
私もジェノムもお互い、"重力"を利用して落下ダメージをなくした。
再び地上戦だ。
磁りょ――。能力が発動できない。
「ようやく変身が解けましたか。ここからは私の番ですかね。」
もう技を出し切った状態。次の変身までクールタイムが必要だけど、さすがにこの試合中には回復し切れない。
ひとまず走る。
塔が現れる。それを何とか避けていく。
時間を止めて回避もできなければ、敵の時間を相殺することもできない。届かない位置にあるブーメランを磁力で回収することもできなければ、攻撃できる武器や技を繰り出せない。
『これはジェノムの独壇場だぁ!』
ブーメランの効果で数分か数十分後には大ダメージを与えられる。それまで避け続ければ何とかなるはず。このまま逃げ切る――。
「いや、ダメだよね……。こんなんじゃ。」
ひとまずジェノムに向かって走る。
現れる細長い塔を辛うじて避けていく。
よしっ。もう少しで手が届く位置。
「パルパルとカナリンを泥棒して、怖い思いをさせた分。きっちり返させて貰うから!」
ぶん殴る!
しかし、吹き飛ばすなんて夢のまた夢。少し頬を赤めるぐらいしかできない。変身状態だったら思いっきり飛ばせそうなのに……。
彼が私の腕を掴んだ。
「確かアナココ氏でしたか……。そして、ギルドマスターのリュウジャス氏。それと、あなた。ヴァリアントギルドはやり返しにただただ殴るのが芸当のようですね。」
体が動かない――。
「私の秘伝の技"実験"。体の隅々を弄り回し改造を加えられるお気に入りの技です。条件はありますが、体力をきらしたあなたは条件下に入るようですね。では、死の改造を始めましょう――。」
【実験――!】
『ジュリネ! 不思議なオーラに包まれたぁ!!』
「えっ――?」
彼は手を離した。
何も起こらなかった。
「三つ目の眩く光る玉が誰かの中に存在していることは存知あげていましたが。まさかあなたが、"悪魔の力"の光る玉を宿しているとは……。」
何を……言っているの?
全く話が頭の中に入ってこない。
「あなた、もしかしてこの世界の人間ではないのでは? それとも、そんな人間と関わりがあったのでは?」
その問いに、
「この世界の人間じゃないけど」と答える。
ここは、VRMMOのゲームの中、バグ技を使って入ってきて閉じ込められた世界。私にとってはバグ世界。なぜそんなことが分かったのだろうか?
「そうですか。では、私から質問を――」
その時だった。
ザンッ!
ブーメランの遅延のダメージが一撃――。
二撃目。三撃目。……。一気にダメージが襲いかかっていった。これが塔の上ですり抜けた分のダメージ!
怒涛のブーメランのダメージ。彼はそれに耐えきれずに消えていった。
『勝者は、ジュリネだぁ!!』
私は凄まじい熱気を浴びていった。




