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言葉で戦う世界で、「は」しか使えない執事と、お嬢様の成り上がり~『詩忍にくちなし』~  作者: ふるなゆ☆


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52.人形の魔法使い

「おい。馬鹿ジャス。なぜ止めた。こいつらは私らの仲間を殺した奴なんだぞ。」


 ため息。しかし、龍のため息となるとまさに突風を引き起こす。風が強い。


「こいつらは殺した奴じゃねぇぞ。あいつらを殺したのはヘイムただ一人だけだ。こいつらは巻き込まれた偶然居合わせただけの民間人だ。アンタ、異変の様子を記録するレコーダーを最後まで見ずに早とちりして行ったろ。最後まで見ろよ。……全く。」


 二人の対話。それを聞くに、ひとまず私達への誤解は解けたらしい。


「ちっ」と言ってその場を去ろうとするダイセナ。


「おい。謝れよ。謝って許されることじゃねぇけど、人間として謝っとけよ!」龍の威厳が彼女を威圧する。


「ちっ」と言って立ち止まるダイセナ。


「すまねぇ。悪かった。ごめんなせぇ。これでいいよな。ちっ、気に入らねぇ。」


 こいつ全然謝る気ないじゃん。私、こいつ嫌いだわ。


「本当に申し訳ない。うちのエースが失礼なことをした。」


 その後、私はお世辞を言い、龍も同様に当たり(さわ)りのない言葉で取り(つくろ)いその場で話すような言葉はなくなった。


「またの御縁(ごえん)があったら、よろしくお願いする。」


 そんな礼儀正しい言葉を言って龍は都市の方に向かって空を翔けて去っていった。



 今頃になって、どっと疲れた。

 目の前で沢山の人の命が奪われたこと、屋敷が燃やされたこと、カナリンとパルパルが奪われたこと、突然ダイセナと言う女に襲われたこと、圧倒的な存在感を放つ意外と礼儀正しい龍。


 今日一日の色々なことを思い出すと、思わず瞳から涙が(あふ)れ出してきた。


「――疲れた……。」


 なんか立てなくなった。いや、立つ気力がなくなった。こんな時、もしカナリンがいれば、もしカ……やっぱりやめよう。





 朝だ。出された簡易的な朝食を頂く。

 民宿から出ると、相変わらず一面桜花びらの町が現れる。


「絶対に取り戻すっすよ。そのためにギルドのある都市へと向かいましょうっす。」


「……。」


「どうかしたんすか?」


「いや、ギルドに入るのって、絶対罠だからさ……。」


「そんなもの百も承知っすよ。あいつらも言ってたじゃないっすか。見え透いた罠だけど、こうするしかないって。だから、ひとまずギルドに入るしかないんすよ。出し抜く方法なんて後から考えればいいんすよ。」


 彼の言葉は相変わらず、計画性もなく、口から出るのはその場(しの)ぎのような適当なもの。「まったく」やれやれ、と思うけど、今回は彼の言葉に感謝するしかない。

 彼は前に進んでくれるのだから。今はその道標(みちしるべ)がありがたい。



 緑の草原が見えてきた。


「ねぇねぇ。今からどこか行くの?」


 民家の屋根の上に座る一人の男の子。歳は小学生の中学年から高学年ぐらいだろうか。太陽の逆光が邪魔して見えにくい。


「僕はマユダ。昨日の戦い見てたんだー。僕、すっごいワクワクしちゃった。」


 昨日、まともに戦ったのはヴァリアントギルドのダイセナとの路地裏での戦い。その争いは見られていたのか……。


「だからさー、もし冒険するなら僕も一緒に連れてって欲しいなーって思って。」


「俺らは都市でギルドに入ろうと思ってるんすよ。」


「いいねっ。じゃあ、僕も一緒にギルドに入るっ!」


 この子は軽快な言葉でさくさくと行動を決めていく。


「じゃあ、行くっすよ!」


「待って!」ととりあえずその場を止める。そして、「そんな大事なことサクサク決めちゃ駄目(だめ)でしょ。お父さんお母さんに許可取らなきゃ!」と(ひざ)を曲げて言った。


「大丈夫。お父さんお母さんは争いに巻き込まれてもういないからっ。僕は自由なんだよ。」


 ここは……シビアな世界だ。簡単に争える分、簡単に命を落とす。そんなこと考えると胸が痛くなる。


「じゃあ、一緒に着いてっていいよね?」


 私は優しく頷いて、いいよと伝えた。



 緑の原っぱを踏みしめながら、会話していく。


「俺は勇者ハロミトっす。ジュリちゃんの執事をしてるっす。」


「へー。勇者なんだ。すごい! かっこいい! よろしくねっ、お兄ちゃん!」


 もう二人は打ち解けている。その様子はどこか微笑(ほほえ)ましい。

 次は私が自己紹介する番だ。


「私はジュリネって言うんだ。実は別の世界から来たの。」


「別の……世界?」


「そう。バグ技を使ってこの世界に来たんだ。で、帰れなくなっちゃった。帰るためにはこの世界の魔王を倒さなきゃいけないみたい。」


「そうなんだ。じゃあ、僕も一緒に魔王退治頑張るよ! だから、よろしくね、お母さんっ!」


 元気で気さくでとてもいい子だ。明るい気持――


 ん……?


「お母さんっ!?」


「うん。何となくお母さんっぽいから。お母さん。」


「う、うーん。まぁ、うーん。」


 なんか絶妙な気持ち。まだ私、大学生で人生設計上で親になるのはまだまだ先だし、まぁ、子どもからしたら変わらないのか。まぁ、ここは素直に喜んでおこう。


 ひとまず受け入れた。



 それなりに進んだ。



 私達は多くの人に囲まれてしまった。

 そして、私達の前に現れる一人の見知った顔。


「……ヘイム!」


「昨日ぶり。昨日はぐっすり眠れたかい?」


「眠れる訳ないだろ!」腹の底から怒りが溢れ出しそうだ。昨日の出来事の全ての元凶が目の前にいるんだ。


「ボクは今、落ちぶれ山賊(さんぞく)に手を焼いていてね。まとめる人がいなくなった今、ただの手に(あま)る厄介者さ。アンチギルドはこんな野蛮(やばん)(じん)と同類に見られてしまっていて、ボクも相当困っていてね。」


「何が言いたい!」


「後始末を君達に頼もうと思ってね。」


 今度は声を大きくして「死にたくなければ逃げればいい。逃げるなら今のうちさ!」と草原に声を張り巡らした。


 そして、「ボクはこれで失礼するね」と去ってしまった。



 囲む山賊達のせいで追うことはできない。逃げることもできなさそうだ。


「戦うしかなさそうっすね。」


「そうね。」【自分自身――】


 ハロミトは剣を取り出して、私は技が放てる状態に変身した。


「やってしまえ!」


 山賊が襲いかかってきた。


【重火器】【重力】


 重火器を出して、重力をゼロにし、振り回す!


 ()ぎ払う!



 ピュンッ!



 弓が頬を(かす)める。


「数が多すぎる――。」


 技を使えない魔族の群れならまだしも、技を使える頭も働かせられる人間の群れだと、流石に押されてしまう。


 駄目だ。キリがない。


「やべぇっす。中途半端に弱いから、剣が使えないっす。」


 ジリジリと削られていく体力。ハロミトも結構ギリギリの肉弾戦で場をやり過ごしているけど、絶対に長くは持たないことは一目瞭然(りょうぜん)



 ヤバイ――。



 もう限界だ。


「僕も参戦するねー。」


 マユダが笑顔で言い放つ。そんな彼の元へと山賊が近づいていく。


「マユダ、逃げてっ!」


 心の底から叫んだ。目の前の敵に手一杯で、私達にはマユダを助けることができない。

 このままじゃ……。


「何心配してるのさー。僕は心配される程、弱くないよ。」



【マリオネット!】



 突然、どこからともなく現れ出す人間の形を模した人形。大量の人形が山賊達を(つか)んでいく。

 不気味な人形のお(かげ)で、私達に余裕ができた。


 関節が上手くくっついていない未完成のような人形。力を込めれば破壊は簡単にも見える。

 が――すぐに元通りにくっつく。

 さらに、数の暴力で山賊達の身動きを取れなくする。


「"操人形(マリオネット)喜劇場(・サーカス)"――!」


 覆い尽くす人形。


「や、やめてくれ。う、うわぁ!」



 ボキッ。



 首を折られて光となり消える。

 首だけじゃない。骨という骨が、人形達の手で折られていく。


 ボキボキボキボキボキボキ。


 骨の音が鳴り響く。

 まるで骨と悲鳴を響かせるコンサートホールの中にいるみたいだ。


「た、助けて、くれぇ。」


 こちらへと逃げてきた山賊。しかし、人形に足を(つか)まれ、そのままそれらの領域(テリトリー)に引き()り込まれ、消えていった。


 思わず唖然(あぜん)としてしまった。


 もう人形も、山賊もそこから姿を消した。

 脳裏に人形の変わることの無い(よろこ)びの表情が浮かぶ。耳には助けを求める声と恐怖の音楽が残っている。


「お疲れ様っ! 無事倒せたしっ、さっさと都市に行こーよっ。」


 ハッと意識を取り戻した。

「そうね」と軽く返す。



 畏怖(いふ)――。



 私の体は寒気を感じている。


 草原に吹く風。夏よりの春風はとても寒かった。

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