51.奪われた大切
家が燃えていく。焼け崩れた板が崩れて落ちる。黒い煙が上がっている。
町の忍――この世界にて消防士の役割を果たす人達が水をかけて消火活動をしている。野次馬共がその様子を見ている。
私達が住む屋敷が今まさに燃えて消えていく。
住む家がなくなるのは百歩譲っていいとしても、まだ中に大切な人が残っている。妖精のカナリンとペットのパルパルの安否が一番の問題だ。
絶対に死なないで……。その思いだけが胸の中でこだまする。
入ろうにも忍に邪魔をされて屋敷には入れない。とても焦れったい。
「久しぶり――。」
私は振り向いた。見知った顔がそこにはいた。あまり会いたくない人だった。
「ティナ。」思わず歯軋りしてしまう。
彼女はどこかへと逃げ出した。急いで追いかける。
"アンチギルド"の幹部――ティナ。明らかに私達の敵だ。
人目のつかない裏通り。屋敷の火事のせいで余計に人の気配はない。
「あんたらでしょ。あの火事。」
「そうだよ。」
悪びれもなく言う姿に苛立ちすら覚える。
「何のつもり……?」
「ジュリネちゃんは……占いは信じる人? それとも信用してない人?」
「何の……話?」
唐突な質問に戸惑ってしまう。一体何を考えてるんだろうか。
「ヘイムさんは占いを信じてる。占い通りにすれば、きっと未来は必ずその通りになるってね。」
どこからか取り出される二つ連なる大きな鳥かご。その中にそれぞれカナリンとペットのパルパルが入っていた。
良かった……。ひとまず二人は無事みたいだ。胸を撫で下ろせる状況じゃないのに、どこかホッとしてる自分がいる。
「二人を返して。」
「返さない。この二体はアンチギルドで管理させて貰う。ヘイムさんがね、言ってたんだけど、このペット、景品になるみたいだよ。"三大ギルド対抗覇戦"のね――。」
そこにハロミトが遅れてきた。
一方で、相手側にも仲間らしい人がやって来た。その人は全身を紺色のローブで纏い、哀しそうな表情の仮面で顔を隠していた。
「そのための準備は整った。もし取り戻したかったら、ギルドの代表となって、優勝すれば取り戻せるよ。奪うことも買い取ることも現実的ではないから……、優勝して景品として手に入れるしかないの。」
「ご丁寧にどうも。けど、今取り戻せばいいんじゃない?」
【自分自身】
私は技が使える状態へとなった。そして、飛び込みに行く。必ず取り戻す。
「見え透いた罠だけど、仲間のためには飛び込むしかないよね? 今回は、私は外野で楽しませて貰うね。――さよなら。」
【テレポート。】
私がそこへと着く頃には瞬間移動して消えてしまった。まんまと逃げられた。
殺風景だけが残ってしまう。
「あーもう。」意味もなくレンガの塀を叩いた。叩きつけた拳が震える。少し……痛い。
まるでアンチギルドの掌で踊らされている気分だ。まるでこのために用意周到に準備でもしてきたのか……。
いずれにしろ、どんなに罠だと思っても、その罠に飛び込んでいくしか無さそうな気がした。
――――――。
裏路地から出るために歩いていく。
スッ――
「えっ?」
石の斧が突然、頭を目掛けて振られた。何となくの勘で頭を下げたら、とりあえず避けることができた。
【打製石器】尖頭器。
石の斧が石の槍に変わった。そして、私達を目掛けて突いてくる。
それも避ける。
突然、攻撃しだした謎の女。あまりに唐突な出来事で何が起きているのか脳内で処理できない。
一体……なぜ不意打ちで攻撃してきたのか。一体……誰なのか。
さっきまでいたアンチギルドが差し出した人なのだろうか。けれど、さっきの話で殺しにくるものだろうか。
考えれば考えるほど、よく分からなくなる。こうなったら聞くしかない。
「突然、攻撃するなんて卑怯じゃない? あんたは一体誰で、何のために攻撃してきたの?」
「ダイセナだ。所属はヴァリアントギルド。……と言えば、分かるよな?」
「ごめん、分からない。」
「とぼけても無駄さ。今日のことだぜ。忘れたとも言わせないぞ。殺された仲間達の餞に殺してやる。」
【ダガー!】
ナイフが現れては投げてきた。
【重火器――!】
重火器を召喚して、それが盾になった。
いつの間にか私達の後ろに来ていた。
ハロミトが取り出した剣が盾となり、強く振られたナイフとぶつかりあった。少しだけハロミトが後ろに吹き飛んだ。
「殺したってなんの事? ぜんっぜん、状況が把握できないんだけど! 少しぐらい話し合う時間を与えなさいよ。」
死なないために動くので精一杯で、それ以上の頭が働かない。
「もしかして、さっきのヘイムって奴に殺された人達のことじゃないっすか。」
「やっぱな、図星だろ?」
振られていくナイフを避けるので手一杯。
「図星じゃない。私達も巻き込まれた側。」
「巻き込またんなら、なぜ生きてるんだい? 理由は簡単。嘘をついてるからさ。」
まともな話し合いができない。この人、めんどくさい。
ナイフが振られる。重火器を振り回したとて当てる前に刃先が私に当たる。なら、小回りが効く――
【十手!】
鉄の棒に鉤が着いた江戸時代の代官が持ってそうな武器。
カキンッ!
ダガーと十手がぶつかり合う。
何とかやり合っていける。
私にナイフを当てながら下半身はハロミトへの蹴り――。それを彼は剣で受け止めた。
それは……ダメ!
バギャンッ。
ハロミトは後ろに大きく吹き飛ばされて背後の家へとぶつかった。すぐに立ち上がるが、それなりのダメージを受けている。
「そんな強く蹴った覚えねぇぞ。もしかして……。」
「あんたの相手は私がっ!」
私なんか相手にされずにハロミトに向かって殴りに行った。彼はそれを体で受け止める。
「なぁ、その剣って、強い攻撃は弱くなって、逆に弱い攻撃が強い攻撃に変わるんじゃねぇの? 図星だな。」
図星だよ!
剣を通して威力などが逆になる。つまり、弱点は弱攻撃。それさえ分かれば、彼は途端に弱くなる。
ここは私が対処するしかない。
「焦って攻撃しちゃ、当たるもんも当たらないぞ。」
攻撃が躱される。
いつの間にか背後に回られている。
「とりあえず、死ね!」
しまった。十手が間に合わない。
「待て――!」
どこからともなく聞こえる男の人の声。
彼女の手が止まった。
これは……助かったのかな?
空が荒ぶる。
突然、空から顔を出してくる龍――。
赤と黒を基調とした色の龍。蛇のように長い体をうねらせて空を翔けている。顔が私達の所を覗いている。
その体躯――巨大すぎる!
「何なんすか……この――龍。」
「俺は"リュウジャス"。ヴァリアントギルドのギルマスだ!」
つまり、この巨大な龍は、突然襲ってきたダイセナという女の……仲間!?




