62.空を舞う戦い
「この三人は僕にやらせてよ。」
つまり、あの空中に浮かぶ椅子を二人に任せたってことだろう。
「で、どうやって空に行けばいいの?」
「……。分かんない。」
そこはノープランなのか。
いや、普通に空に浮かぶ相手にどうにかできる訳ないじゃん。空を飛ぶなんてできないんだか――
ピコン、とちょっと閃く。
荒唐無稽な方法だけど、背に腹はかえられない!
「二人とも。耳貸して。」
さっと要件を伝える。
すぐにマユダは【まさかり】を繰り出して地面に斜めになるように構えた。
"半分解除"
ハロミトの剣の長さが二倍になった。いや、本来はこれが本当の長さで、あまりにも使いにくいからハロミトが常に技で半分にしているだけ。
私とハロミトでそれに乗る。私はハロミトを強く掴んだ。
「一か八か。けど、もうやるっきゃないもんね!」
【ジェット――!】
私の背中から放たれる衝撃波。勢いよく剣が進んでいく。
剣はマユダの持つ斧に乗り上げて空に向かって進む。まさに斧の飛台だ!
今、私達二人――飛んでる。
【重力――!】少しでも重力をなくして浮遊できるようにしてから。
とうっ!
空を舞って飛んでる椅子に飛び移る。何とか椅子の脚部分を掴めた。
「意味が分からないよ。いや、人間って本来、頭おかしいから当たり前なのか? いや、普通にそんな発想するっ!?」
まぁ、ちゃんちゃらおかしいだろうね。だって、斧を飛台に、剣をボードにしてジェットで勢いよく進み、空を舞うなんて、普通考えもしない。
「十日間の修行が役に立ったかも。」
「絶対にピューリ君はそんなこと教えてないと思うけどな。」
【磁力!】
ハロミトを磁力で呼び寄せた。私の足を掴んできた。
「痛い……。ハロミト、強く握りすぎ。」
「いやいや、落ちますって。」
「重い……。二人分も乗せて飛べないよ。」
……。
「やばいよやばいよ! こんなの二人も重いのいるなんて飛べないよ。」
「飛べなくていいからゆっくり降りて。」
「もう、無理!」
ヒューン!
勢いよく空高くから落下していく。……マジか。
地面が近づいてくる。やばいやばいやばい。
木の葉っぱの集まりへとぶつかった。
バキバキバキ。枝が折れていく。
「木のお陰で……助かった。」
私達は何とか地面に無事に着いた。
椅子もそこにいる。
「逃げるは恥だが役に立つってまさにこのことだよね。これ以上、君たちとはやってまれないよ。じゃあねー。」
「逃がさないっすよ。」
ハロミトの方を見た。彼は独特なフォームで剣を構えていた。
【発火――!】
剣が燃えていく。
「俺の必殺技っす。とくと受けるがいいっすよ。」
【発射!】
足から放たれる衝撃。瞬く間に椅子を炎の剣で斬り裂いていた。その先で止まるハロミト。
「はやすぎっ!」椅子は消えた。
いつもはおっちょこちょいで頼りないハロミトなのに、今はどこか頼もしくてカッコよく見えた。
「そんな場合じゃないや。マユダの所に加勢に行くよ!」
――――――。
ザンッ!
アルマジロが斬られて消えた。
「とりあえず、鳥と今の動物は倒しといたよ。」
ナギサとアナココはマユダが倒したみたいだ。
残るはピューリ、ただ一人。
「もう一人どこかにいるはずなんだけどなー。」
森の中に隠れているのか……。
ここは拠点付近の深い森の中。
私達を狙わずとも拠点を狙うことも可能。現に拠点はダメージを負っている状態。強い攻撃を一発でも受けたら負ける。
【銃――!】適当に狙いを定めて……
パンッ!
片手を抑えながらピューリが現れた。
「よくここが分かったな。」
「勘だよ、勘。」
「まさか、勘で狙いを済ませたように撃てるなんて、神のご都合良すぎだろ。」
「いや、そうでもないかもよ。たった十日間だけど、ピューリさんは私の師匠だよ。師匠なら、そこにいそうって思ったんだ。」
「なんだよ、それ。泣けてくる話じゃねぇか。」
【ピストル!】
「マユダ、お願い!」
【鉞――!】
拠点に向かうはずの攻撃。ハロミトが自らの体を呈して銃弾を受けた。ハロミトはそのまま消えてしまった。
一方で、マユダの投げた斧がピューリを真っ二つにした。彼もまた消えていった。
「とりあえず、勝利だね。」
勝敗を報せるドラが響いていった。
勝った。これで覇戦に近づいた。
森は心地よい音を鳴らしていた。
◆
「お疲れさん。戦闘中、感動したぜ。戦勝祈いに何か奢ってやるよ。」
この世界での持ち金はたんまりあるのでお金に困りはしていないけど、貰えるものは貰っておきたい性。約束を交わした。
「流石だぜ。こりゃギルマスパーティーに下剋上取れるかもなぁ。」「新たな時代かぁ!」
外野がとっても賑わっている。
「今回のギルド覇戦はあんたらかもな!」
そんな声がちらほら聞こえた。
「なかなか、舐められてんじゃねぇか。あ?」
その一喝で、静寂となる。
リュウジャスだ。
彼がこちらへと近寄ってくる。圧が半端ではない。
私達は何にも言っておりません。静粛するなら言った本人達にして! なんて萎縮して声に出せずに、心の中で叫ぶ。
「ヴァリアントは力こそが全て。正々堂々、実力を示せば、それだけで後ろは勝手についてくる。だがな、後ろが揺らぐことがあるんだな、これが。」
背の高い彼が凄むと、まるで蛇。さしずめ私は鼠。この状況はまさに蛇睨み。
「権威が揺らいでる時だよなぁ。こういう時ははっきり白黒つけなきゃいけねぇ。拒否すんじゃねぇぞ……。一週間後、お前らに決闘を挑む。」
「決闘……?」
「ルールはギルド内バトルと同じだ。かけるものは地位。あんたらが勝てば、ギルドの役職の座は全てくれてやる。こっちは欲しいものはねぇ。あるとすれば、倒したって証拠だけだ。」
唐突に仕掛けられた戦い。今、圧とそれによる恐怖で萎縮して声が出せない。
「やるよな?」
……。
「何とか言えや!」
「やります!」
彼は踵を返した。
「本気でこなきゃ潰す。」そう呟いて去っていった。
魂が抜けそうだ……。
――――――。
「まぁ、なんだ。大変なことになったな。ご愁傷さま。」
「他人事だからって。」
ピューリは苦笑いを浮かべている。
「まぁ、だが、覇戦に出る唯一のチャンスだな。負けりゃ、遠ざかるだろうな。」
「まぁ、そうね。やるしかないし、勝つしかなさそうね。」
「まぁ、今んところ、お前さんらじゃ勝つのは到底難しいだろうな。」
「なんで?」
「ギルマスさんらの本領は崩れない防御力と機動力だ。その点、俺らは足を引っ張ったことになる。よなぁ?」
もはややる気のない男アナココがだらんとしながら口をもごもご動かした。「しっかり喋れ、聞こえねぇぞ」と言われてしっかりと喋り出す。
「俺は役不足なんだよ。なんでフライングフォーに汚名を被らせる役目になったんだよ。殺される……。罵倒されてくんだ。死にたい……。」
殺されたくないのか、死にたいのかどっちなんだ、この人は……。
「流石だな。役不足なんて言えるのは自信のある証拠だぜ!」
「何を根拠に言ってるんだ……。この人は……。」
アナココのやる気が段々と削がれていくのが見てわかった。
「話を戻そうか。俺らは機動力に欠けてる。が、次はそうはいかねぇだろ。今度は機動力のあるパーティーで戦ってくるぞ。それに二度も同じ手は通じねぇ。何しろ、ギルマスさんもいるしな。」
以前、ギルマスのリュウジャスと戦った時は全く歯が立たなかった。彼の強さは私もよく知っている。
「ギルマスさんの強さは主忍レベルだ。まぁ、マユダも主忍レベルあるかないかの強さだが、問題はお前さん二人だ。」
主忍とは国の代表する五名のこと。代表だけあって相当な実力者じゃないとなれない。
リュウジャスもマユダもそれ相応の実力者ってことだ。して、私達は……。
「マユダで俺ら三人と何とかやり合っていたが次はそうはいかねぇだろうな。もしマユダが、ギルマスと当たれば、二人は他の奴らを対処しきれず。もし他の奴らを対処すれば、二人はギルマスに倒される。どっちみち、勝つ未来が見えねぇんだよ。これが……。」
じゃあ、ダメじゃん。
何の励ましにもならない所が、逆のベクトルで物事を進めてきた。
「こればかりは成長じゃ厳しいなぁ。」
「えー。駄目じゃん。」
「まぁ、もし可能性にかけるとしたら、四人目だな。パーティーの基本は四人だ。誰が入るかで勝利の行方は分からなくなるぜ。」
そうだ。数の不利があったんだ。次の試合は数で不利を取っていれば、勝ち目はほぼ無い。なら、四人目を迎えるしかない。
四人目は一体誰を誘えばいいんだろう――。




