77、 夢の中へ
まるで映画のワンシーンのような、雪降るクリスマス
思いがけないプレゼントと、心に残る特別なディナー
何気ない会話も、ふたりで歩く時間も、大切な宝物
そんなに歩かないうちに、控えめに降っていた雪が、だんだんと勢いを増していった。
「わ、すごくない?」
「本当……これ、吹雪?」
何年かに一度、積もることはあったけど。
この日に降るとは思わなかった。
「クリスマスに雪なんて、ついてる!」
「そう?」
大きな雪を口で受け止めようとチャレンジ。
「おいしい?」
「すぐ溶けちゃうからわかんない」
大雪のせいで、パレードも花火も中止。
そのせいか、さっきまでたくさんいた人たちも、どこかへ消えてしまったみたい。
「たかこちゃん、メリーゴーランド乗らない?」
「いいね!」
軽快な音楽に合わせて、馬や馬車が回っていく。
「わ、朱海さん、上下するよ。本物みたい」
今日は私が前。
「しっかりつかまっててね」
なんて、少し偉そうに。
バイクの前の景色って、こんな感じなのかな。
楽しい。
たっぷり三回乗って、一息ついたら、お腹が鳴った。
そういえばお昼食べてないんだっけ。朝も?
「お腹空いた?」
「うん」
「いい時間だから、行こうか」
そう言って連れてこられたのは、大きな白い船。
「船だよね?」
「船だね」
船内なのに、ホテルみたいに重厚な階段が続いている。
朱海さんについて行くと、入口で止められた。
ほら、やっぱり。予約がないと入れない。
ハンバーガーでもいいよぉ。
携帯を見せて何か話してる。
「ご案内致します。こちらへどうぞ」
帰ろうとしていた私に、朱海さんが「おいで」合図する。
豪華なフロアを歩いて、テーブルに案内される。
椅子を引いてくれた、思わずキョロキョロしてしまう。
「…もしかして、予約してたの?」
「僕からのクリスマスプレゼント、驚いた?」
「もう、びっくりだよぉ…」
雑誌で見たことはあるけど。
これって、クリスマスディナーってやつ?
嬉しすぎて、少し泣きそうになる。
すぐそばの窓の向こうに、雪。
本物に、船の中なんだぁ。
「朱海さん、雪、見えるよ」
「真っ白だね」
「こんな素敵なところで食事できるなんて思わなかった。ありがとう」
お酒は飲めないから、お水で乾杯。
「メリークリスマス、たかこちゃん」
「メリークリスマス、朱海さん」
雪景色を見ながら、ゆっくりご飯を食べた。
割り勘にしようって言ったけど、
クリスマスプレゼントだからって、ごちそうしてくれた。
こんなプレゼントも、あるんだ。
船を出ると、雪はしっかり積もってた。
「あ…足跡…」
雪の上にハートを描く。
その中を、朱海さんが歩いた。
「台無し!」
「違う」
「何が?」
「二人分なの」
そんな、どうでもいいことが楽しい。
「お腹もいっぱいになったし、散歩の続き、行く?」
転ばないように、なんて言いながら、
傘を持つ腕につかまって歩く。
私たち、ちゃんと恋人に見えてるかな?
「どこに行く?」
「歩いてない道!」
初めて歩く道は、どこを見ても新鮮で。
気づけば、少し疲れていた。
ちょうど、待たずに乗れるアトラクションを見つける。
もうすぐ閉園らしい。
顔を見合わせて、少し急ぎ足。
最後に乗ったアトラクションも、とても楽しくて。
満足したまま、駅へ向かった。
「あー。夢の国とお別れかぁ」
「また来ようか」
「うん。今度は晴れた日にね」
そんなことを話しながら電車に乗る。
しばらくは、今日の思い出を話していたけど。
気づいたら、二人とも眠っていた。
……夢の中でも、会えたらいいな。




