75、 夢の国へ
誰かを喜ばせたい。
その気持ちで考えたサプライズも、心を込めて用意したプレゼントも、
今日という一日を、きっと特別な思い出にしてくれる。
少し早起きして、夢の国へ行ってきます。
「朝5時に迎えに行くね」
知ってたけど、寝たのは3時。
結局マフラーの完成がギリギリになってしまった。
ママに教えてもらった時は、すごく簡単そうだったのに。
編んでみると難しい。
1つ目をほどいてやり直したり、編み間違えたり、落としたり。
初めて編むんだから、下手っぴなのは分かってたけど。
せめて、と、毛糸にはこだわった。
細めで、フワフワの白くてやさしい糸。
きっと朱海さんに似合うはず。
思ったよりは上手にできたので、まあ満足かな。
2時間しか眠れなかったけど、目は冴えてる。
遠足の日みたいにワクワクしてる。
朝ごはんはあきらめよう。
その時間をメイクにあてる。
寒いけどミニスカート。お気に入りの。
寒いから、ロングダウン。ママに借りた。
ママが20歳の時に買ったって言ってたから、もう何十年もの。
このままもらっちゃおうかなぁ。
リビングに降りると、ママがもう起きてた。
「朝ごはんは?」
「いらない。もう出るね」
「そう、遅くなるんでしょ? 連絡はしなさいよ」
「なんでいいの?」
「だって、みーくんでしょ?」
朱海さんだと何でいいのか、まぁいいか。
玄関をそっと閉めると、朱海さんがいた。
「ごめん、お待たせ」
「今来たとこ。あったかくしてきた?」
「うん、ホッカイロ3個もってる」
それに、お腹に隠したマフラー。
手品みたいにパッと出すんだ。
びっくりさせるの。
「長い1日になりそうだね」
なんて言いながら、電車に座ったとたん爆睡。
思いっきり寄りかかってた。
「着いたよ、たかこちゃん、起きて」
ちょっと寝ボケてたかな。
目をつぶったままでも歩けるくらい、しっかり手をつないでくれる。
おんぶしてって言ってみようかと思ったけど、さすがにやめた。
本当にしてくれそうだから。
駅を出て、冷たい空気に当たって目がぱっちり覚めた。
どこにいるのか初めて把握した。
「朱海さん、ここは…」
「目、覚めた?わかる?」
「うん、本物、だよね…」
夢の国じゃん!
1回だけ家族で行ったことある。
10年前かな、小学生の時。
よく覚えてない。
「もしかしてこれ、クリスマスプレゼント?」
「そ、びっくりさせたくて」
「もう、びっくりだよー! ありがとう朱海さん」
けっこう早く着いたのに、すでにすごい人混み。
みんな何時から待ってるんだろう。
入園待ちの列に並んだら、後ろにはもっとすごい人数がいた。
40分並んで、ゲートをくぐった。
その瞬間、X’masの景色。
「クリスマス」より「X’mas」が似合う感じ。
「本物だぁ…」
思わず声が出た。
写真も撮った。
入口はクリスマスケーキのように、素敵にデコレーションされていた。
眺めてるだけで幸せ感じる!
「ひとつどうしても乗りたいのがあって、並ぶけどいい?」
「もちろん」
アトラクションに乗るにも手続きが必要で、
私がキョロキョロしている間に朱海さんがやってくれていた。
朱海さんがいなかったら、訳わかんなかったと思う。
並んでびっくり。180分待ち。
「どうする?」
って朱海さんは言うけど、もちろん並ぶよ。
全然だいじょうぶ。
待っている間も、色んな人がいて、綺麗な景色や素敵な建物。
何を見ても楽しくて。
でも、朱海さんはずっと携帯をいじっていた。
「何見てるの?」
「お昼ご飯の予約と、次に乗れそうなアトラクション探し」
並ばなくてもレストランに入れるように。
わたしが喜ぶように。
ショーを観るのも抽選。
私が観たいって言ったから。
ずっと調べてる。
きっと、私のため。
楽しく過ごせるように気をつかってくれてる。
とても嬉しい。
その気づかいが。
でもね。
「朱海さん、もういいよ」
携帯を持つ手を、そっと包んだ。
「え、でも次のエントリー」
「ううん、いいの。一緒に色んなものを見たいの」
「ここ、とっても素敵な景色がいっぱいあるよ。お散歩するだけでも、とっても素敵だよ」
朱海さんは驚いたように目を見開いて、困ったように笑った。
「ごめん、気づかなくて。なんか意地になっちゃって」
知ってる。
いつも人のために一生懸命なの。
でもね、今日くらいは。
「一緒に楽しもうよ。素敵なもの、たくさん見つけよう」
「いいね、それ」
朱海さんは携帯をしまった。
空いた手で、私の手を取る。
嬉しくて、話したい事がたくさんある。
一緒にみたい景色がいっぱいある。
「ゆっくり行こうか」
「うん」
クリスマスは、まだ始まったばかりだから。
こんなに楽しみな一日は、そうあるものじゃない。




