73、 季節外れのプール
同じ景色を見ていても、心に残るものは人それぞれ
誰も気づかずに通り過ぎる景色を、
君は今日もみつける
。
学園祭が終わり、残務整理もあるものの、やっと日常が戻ってきた。
たかこちゃんも進路が決まり、やっとゆっくり会える雰囲気になってきた。
「行きたいとこある?」
「プール!」
「秋だけど。夏終わってるけど?」
「あのね。温泉プールがあるんだって。お湯が茶色いの、知ってる?」
検索したらすぐに出てきた。
ここ、子供の頃に行った事あるな。
「25mプールもあるって。泳げる?」
「平泳ぎなら、50mはいけるよー」
そんな感じで、早速行ってみる事にした。
今日はたかこちゃん、おとなしめの水着。
ちょっと、いや、すごく残念。
「来年はビキニにしよっかなー」
なんて言うから。
やめてほしいけど、見たい気もするな。
「へぇーびっくりー。本当にプール茶色いんだー」
まずは久しぶりに泳ぎたいので25mプールへ。
「朱海さん泳げるの?」
「人並みには」
プールサイドで止められた。
「水泳帽、ないとだめなんですよ。」
泳ぐつもりで来てるから、残念。
…と思ったら、たかこちゃんが胸元から何かを取り出した。
手品か。
「はいっっ!朱海くん、これをお使いなさい」
得意げに、水泳帽を2つ。
「え、なんで?しかも僕の分も」
「ママがね。25mプールなら絶対必要だから持っていきなって。
小学生の頃、市営プール家族で行ってたから。はい、これも」
水中眼鏡も出てきた。
四次元ポケット、ドラえもんか。
「ありがとう。助かります」
「たかこ様とお呼び」
「たかこ様、お礼にクロールをお教え致します」
「げっ」
いいよーなんて言いながら、コツを教えてあげたら、
すぐに泳げるようになった。
「すごいじゃない。運動神経いいね」
「朱海先生のご指導のおかげですよ」
委員会でなまっていた体には、ちょうどいい。
何本か泳いで隣のコースを見ると、たかこちゃんが歩いていた。
「ごめん、夢中になっちゃって」
「いいよー。ダイエットには水中歩行がいいんだってー」
キリがいいので、温泉プールに移動する。
「朱海さん、温泉だよ!本物!!」
浅くてクロールはできないけど。
たかこちゃんが、潜水してる。
「朱海さん、すごーい発見!ちょっと見て!」
手を引かれて、一緒に潜る。
すると、茶色い世界。手元は見える。
1m先くらいまでかな?
その先は……真っ暗だ。
ザバッとお湯から出て、
たかこちゃんが興奮したように言う。
「ねぇ、わかった?洞窟みたいじゃない?探検してるみたい!」
なるほど、確かに。
「じゃあ端から端まで、探検ね。息つぎなしだよ!」
端から端まで?20mはあるぞ。
行けるのか?
意外にも、たかこちゃんは難なく泳ぎきった。
「やるなぁ」
「まあねー」
ごきげんで何度も往復する。
周りの子供達よりも楽しんでいる。
しばらくして、また、たかこちゃんが止まる。
もう一度潜って、今度は立ち上がる。
何か探してる?落としもの?
「どうした?」
「えーとね、ちょっと今……あ、ここだ!ここ!」
「何かあるの?」
「うん、朱海さんの色!」
「色?僕の?」
何のことだか、さっぱりわからない。
「ちょっと下がって、潜ってみて。中で教える!」
訳が分からないまま、潜る。
薄暗い水中で、たかこちゃんが指をさす。
ここ!ここ!
その先にはーー
茶色く薄暗い洞窟のような世界。
その奥に、光。
夕方のオレンジ色より輝いて。
雲間から差し込む光のように、
水面に揺れて、光のカーテンになっている。
「よく気づいたね」
「多分あそこ」
見上げると、10階くらいの高さはありそうなドームの天井。
天窓から、太陽の光が差し込んでいる。
「あ、消えた」
しばらくすると、また光る。
雲だ。
「ね、綺麗でしょ?オレンジ色の海みたいで」
この水面の輝きを、みんな素通りしているのに。
見つけてしまうんだね。
「……綺麗だね」
「でしょ!もう一回潜る?」
本当に、綺麗だよ
そんな小さな事に気付く
君の心が




