72、 発表
寝る時間も惜しいほど忙しい一日。
それでも、大切な人の笑顔を見る時間だけは作りたい。
そして、
ふたりにとって忘れられない出来事。
学園祭当日。
毎年、委員長がよく叫んでたけど、よくわかった。
1週間前から近くで下宿している先輩のアパートに泊めてもらい、この3日は学校で寝泊まりしている。
布団を貸してもらえたのが救いだった。
学内にシャワー室があったので、汗も流せた。
今日は初日で、開会式がある。
学長や市長も来て、その中で委員長の僕も壇上に立つ。
緊張する…。
たかこちゃんに聞いたら、何回も大きなステージに立っているから、あまり緊張しないそうだ。
うらやましい。
偉い人達の祝辞をもらい、僕の番がきた。
「本日は学園祭にお越し頂き、誠にありがとうございます」
開会式では書道部のパフォーマンスもあり、かなり学生も集まっている。
友人や関係者くらいしかいないと思ってたら、客席の一番いい所に…見慣れた顔。
母さん…3人そろって、たかこちゃんまで。
たかこちゃんは、去年のメンバーに気に入られたらしく、今年もゲスト枠で参加と聞いていた。
…正直、かなり恥ずかしい。
見るのはいいけど、見られるのは…。
「今日は、ここに来てくれたすべての人に、心から感謝してます。それでは四葉祭、開会です!」
深くおじぎをして顔をあげると、
4人は手がちぎれんばかりに手を振ってくれた。
舞台のそでにはけたら思わずしゃがみこんでしまった。
あー、一気に力が抜けた。
どっと疲れた。
今日は正門の立ち番をしつつ、トラブル処理。
何もなければいいけど。
表に出ると、母さん組につかまった。
「みーくん、やせた?ちゃんと食べてる?」
「なんか買ってこようか、ちゃんと寝てる?」
「今夜は帰れるのー?」
相変わらずのマシンガントーク。
「家に帰る時間の分、ちゃんと眠れてるなら大丈夫」
「差し入れは、委員会室にあふれてるから」
「あー、母さんからのも届いてた。ありがと」
早口で返した。
「そっかー。じゃあ、何かあったら連絡しなさいよー」
嵐のあとの静けさ。
そこに残ったのは、大好きな女の子。
「朱海さん、今日、14時からステージなの。来れたらでいいんだけど」
「14時?もちろん見に行くよ」
「本当?でも無理しないでね」
たかこちゃんは、多忙な僕を気遣ってか、長話はしなかった。
「じゃあ、夜ちゃんと眠れるように、おまじない」
そう言って、たかこちゃんは背伸びをして、優しくなでてくれた。
おいおい、学校で頭なでんなよ…。
でも、おまじないが効いたのか、緊張も疲れもふっとんだ気がした。
ーーー悪くない。
14時。
たかこちゃんのステージが始まる。
昼休みなんてのはないんだけど、休憩ってことで時間を作った。
やっぱりいいな。
一番うしろで目立たないように見る。
あ…目が合った。
離れているけど、わかる。
大学生にまじっても見劣りしてない。
2曲踊り終わって、たかこちゃんが走ってきた。
「朱海さーん」
大声で名前を呼びながら走ってくる。
珍しいな。
褒め台詞を考えながら待っていたのに。
そのままの勢いで、いきなり抱きついてきた。
「え…え…?」
「朱海さん、受かった!受かったよ!」
な、何…?
「さっき、発表があって。ママと確認した!学校受かったの!」
そうか、今日、発表だったのか。
結果が出たら教えるね、とは言われていた。
今さっき?すごいタイミング。
「おめでとう。よくやったね」
「ありがとう!朱海さんのおかげだよー」
いきなり抱きつかれてしまって……。
僕も抱きしめたい、んだけど……。
理性の方が勝ってしまって。
「よく頑張ったね、僕も嬉しいよ」
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ抱きしめた。
「みんな見てる…から…ね」
「え、あ、ご、ごめんなさい!」
回れ右して、そのまま走って帰って行った。
一つのイベントが終わったのかの様に、ジロジロ見ていたギャラリーも、潮がひく様に消えた。
「ごめん、ありがとう。まずは報告、詳細は明日電話するから!」
すぐにメッセージが来た。
なんでもないという顔をして、仕事に戻る事にした。
今日までの疲れは、すっかり消えていた。




