70、 決定
進路に迷いながらも、忘れていた"夢の始まり"を思い出す
ふたりの何気ない会話が、お互いの距離を縮めて行く
進学を看護学校に決めた私は、先生と相談して、
学校推薦をしてもらうことになった。
一般入試よりも倍率が低く、一足早く結果が出る。
早く決めて、落ち着きたい。
それが本音。
試験は、小論文と面接、そして集団討論。
……ぜんぶ苦手。
朱海さんに話したら、勉強のスタイルを変えよう、
って事になった。
「討論って聞くと難しそうだけど、要は自分の考えをしっかり伝える事…らしいよね」
「それが苦手なんだよね。普段あんまり論理的に考えてないし」
「まあ、散歩しながらできる勉強ってことで」
図書館やカフェで座りっぱなしにも飽きてきていたから、ちょうどいい。
二人で真面目におしゃべりするーーみたいな。
「そういえば何で看護師さんになろうと思ったの?」
「日本全国で働けて、くいっぱぐれない神職業」
「言い方」
「んー……
将来のライフスタイルに合わせて働き方も変えられて、誰かの役に立てる仕事、だと思います」
「百点。いつから?」
「高三になって、進路を考えて…」
「ん?どうかした?」
立ち止まって、私を見る朱海さん。
ーーそうじゃない。
唐突によみがえった記憶。
確か中二の、担任の音楽の先生。
進路面談で聞かれたんだ。
将来、どんな仕事をしたい?って。
「……中学だよ」
「中学生?」
「うん、面接で看護師になりたいって先生に話して。
それなら進学を考えて、この高校がいいって勧められたんだ」
「そんなに早くから」
「小学生の時にね、友達がけがをして……私、びっくりしちゃって何もできなくて」
その時、思ったんだ。
看護師さんになりたいって。
「そうか。思い出せたんだね」
「うん。思い出した!」
最近考えた志望動機だと思っていた。
でも、本当は何年も前からの夢だった。
「たかこちゃんってさ、我慢しちゃうんだよね」
「わたしが?」
「うん。誰かが嫌な思いをするからって、言い訳もしないし、反論もしない。
みんながそう言うなら、それでいいか、って」
言われてみれば…そうかもしれない。
「だから、集団討論とか、苦手って思うのかも」
「発表会とかは得意なんですけど」
「見せるのは得意なんだね、きっと」
確かに。
その場で意見をぶつけられることはない。
「僕も面接とか討論とか苦手なんだけどね。
でも、誰かを批判したり、自分を否定したりする必要はないとおもう」
「いかに相手を説得するか、じゃないんですか?」
「面質感の考え方にもよるだろうけどね。
でも、相手を否定する必要もないし、自分の意見を180度曲げる必要もないと思う」
「勝たなくても、負けなくてもいいってこと?」
「そう、相手を認める。そして、自分も認めてもらう」
その発想はなかった。
どちらかに舵を切らなきゃいけないと思っていたから。
勝ち負けはいらないんだ。
「たかこちゃんはさ、相手を認められる人なんだよ。
だから、自分を曲げなくてもいい」
否定しない。
自分の意見も、相手の言葉も、ねじ伏せない。
お互いに寄り添って、
納得できる落としどころを探す。
「…なんか、目から鱗ってこのことかも」
「そう?」
「うん。朱海さんと話してると、楽しい!」
「そう? 僕も嬉しいよ」
いつものお散歩コース。
わたしは、忘れていたことを思い出せた。
がんばろう。
まだ先は長い。




