69、 浴衣
夏祭りの夜、いつもとは少し違う姿に思わず見とれてしまう――
そんな夏ならではの、特別なひととき
夏
母さんが言うには、昔は夏の夜は涼しくて、上着が無いと寒いくらいだったって。
嘘だろ。
夜は冷房を消すと、汗だくで目が覚める。
昼間の熱さは尋常じゃない、夜も。
でも、夜の祭りは暑くても苦にならない。
たかこちゃんも楽しみにしていた。
初めて会ったのは…正しくはもっと前なんだけど…この神社。
特別な場所。
迎えに行こうとしたら「鳥居で待ってて」
今夜の催し物はプロの手品師が来るらしい。
もうすぐかなって頃、後ろから肩をたたかれた。
振り向くと、ほっぺが指でぷにってなった。
こんなことをするのは…
「あ…浴衣」
「うん、ママの借りちゃった」
ああ、よく似合ってる。
気の利いたセリフを言え…ない。
「じゃあ、今日はおしとやかでいくのかな」
「いつもですけど?」
背伸びして覗き込んでくるから、どこをみていいか迷う。
かわいい。
……すごく。
こういう事は伝えた方が喜ぶんだろうけど、今更…。
「朱海さん、手品見に行く?それとも食べる?」
「手品かな」
「そうだね、早く行こう!」
いつもの調子で急ぐから、ほら、危ない!
「あ…ぶなかったぁ、ありがと」
「うん…」
支えた手にあたる感触が、いつもより素肌っぽくて…。
何でもない風に、背中を支えて歩き出す。
イベントの広場は、あっという間に人でいっぱいになった。
たかこちゃんを前にして、後ろに立つ。
背の順。
たかこちゃんのつむじ。
それすら可愛くて、ちょっと押してみた。
ほんの、いたずら心。
「何?」って目をして、のけぞって見上げる。
前をむいたまま、首だけ。
どれだけ柔らかいんだ。
見下ろすと胸元に目がーー
そーっと、ほっぺを手ではさんで前を向かせる。
夏の夜には刺激が強すぎる。
手品師は饒舌だ。
いっぱい笑わせてくれる。
たかこちゃんが笑うと、ほっぺに置いた指に息がかかる。
ちょっと耳たぶをつまんでみる。
少しひんやりして、柔らかい。
気持ちいいな。
手品は面白かったけど、
それ以上にたかこちゃんの反応が楽しかった。
「くすぐったいよー」
って、笑うたかこちゃんが可愛くて。
自然に口にした。
「綺麗だね」
「え、そんな、急に………ありがと」
「その浴衣」
おかえしにほっぺをつねられた。
今年の夏祭り
一緒に来られて、よかった。




