67、 委員長の隣
学校では、家族も恋人も知らない顔がある
頑張っている姿は少し遠く感じることもあるけれど、
その姿を見つけた時、きっと好きな気持ちは少しだけ大きくなる
少し照れくさくて、少し誇らしい時間
七月の土曜日。
私は、学校見学で朱海さんの大学に来ていた。
興味本位もあるけど、私なりに真面目に進路を考えて。
看護学校ではない選択も、あるかも、なんて。
門をくぐった瞬間、思っていたより広いキャンパスに少し驚く。
芝生の広場。
ガラス張りの建物。
行き交う学生たち。
学園祭の時とは全然違うかも。
なんだか、全部が少し大人っぽいな。
受付でもらったパンフレットを見ながら歩いていると、遠くで声が聞こえる。
「委員長ー」
思わず顔を上げた。
その声の先にいたのは…朱海さん。
腕まくりをして、何か作業をしている。
周りには何人かの学生。
「これ、先に運んだ方がいいかも」
朱海さんがそう言うと、
みんなが「了解」とか「分かった」とか返事をして動き出す。
その様子を、少し離れたところから見ていた。
なんとなく、見つからないように。
「委員長、次どうする?」
また誰かが聞く。
委員長。
なんだか、少し不思議な響き。
でも、その呼ばれ方が、妙に似合っている気もした。
誰かが困っていたら、すぐ近くに行く。
荷物を持っている人がいたら、さっと手を貸す。
朱海さんらしい。
気が付くと、周りの人が朱海さんのところに集まっている。
頼られてるんだなぁ。
そう思った。
嬉しい気持ちと、ほんの少しだけ…遠い感じ。
私の知らない朱海さんの時間。
私は、パンフレットを持ったまま、少しだけその場に立っていた。
すると。
朱海さんがこちらに気付いた。
「たかこちゃん!」
驚いた顔で、こっちに走ってくる。
なんとなく見つからないように…でもなかったか。
気づいてもらえると…やっぱり、嬉しい。
「来てくれたんだ」
「うん。学校見学」
そう言うと、朱海さんは少し照れたみたいに笑った。
いつもの朱海さん。
その時、後ろから声がする。
「朱海先輩、その子誰ですか?」
振り向くと、委員会の人らしい学生が何人かこちらを見ていた。
そして、一人が軽く笑いながら言う。
「委員長の彼女さん?」
一瞬、空気が少しだけざわっとする。
やっぱり隠れてるんだった。
どうしよう…
私は思わず朱海さんを見る。
でも、朱海さんは、特に迷う様子もなく、普通に言った。
「うん」
それだけ。
本当に、あっさり。
でも。
その一言を聞いた瞬間、なんとなく、ね。
委員会の人たちは
「いいねー」
「なるほどね」
なんて笑いながらまた作業に戻っていく。
朱海さんは少し困ったみたいに笑って、
「ごめん、ちょっと待ってて」
と言った。
私は近くのベンチに座って、その様子を眺めていた。
忙しそうに動く朱海さん。
「委員長」って呼ばれて、いろんな人に声をかけられている。
なんだかね。
少しだけ、誇らしいな。
でも、やっぱり少し遠いよね。
今は、そんな気持ち。
夕方。
見学が終わって、私たちは駅までの道を歩いていた。
「委員長って呼ばれてたね」
私が言うと、
「からかって呼ぶんだよ」
朱海さんは苦笑する。
「でも、頼られてた」
「そう?」
「そう」
夕方の空が、うっすらオレンジ色。
その時、朱海さんが言った。
「でもさ」
「ん?」
「たかこちゃんが見てると」
少し照れたみたいに笑う。
「ちょっと頑張れる」
私は思わず笑っちゃう。
「なにそれ」
「ほんとだよ」
そう言って、少しだけ肩をすくめる。
信号待ち。
人が並ぶ中で、
朱海さんの手が、そっと近づいてくる。
そして、指が軽く触れた。
私は少しだけ笑って、
そのまま手を握る。
夕方の風が、少しだけ涼しい。
歩きながら、ふと思った。
委員長って呼ばれてる朱海さん。
忙しそうで、
たくさんの人に頼られていて、
少し遠く見える時もあるけど。
でも、委員長の彼女って
小さくつぶやく。
「ちょっと自慢かも」
朱海さんは不思議そうにこっちを見る。
私は、何でもないって顔で笑った。




