65、 花火
海を見に行った。
それだけのはずだったのに、予定していたことよりも、
偶然起きた出来事の方が心に残ることがある。
楽しかったね
ゴールデンウィーク。
やっとまとまって、休みがとれた。
学園祭の委員長になってから、忙しい日が続いていた。
協賛のお願い、イベントの打ち合わせ、予算の申請。
事務室から呼ばれるのも、もう慣れっこだ。
だからこの日は、少しだけ特別だった。
「どこ行く?」
そう聞いたとき、たかこちゃんは少し考えてから言った。
「海、行きたい」
それで、電車に乗って少し遠出することにした。
古いお寺を見たり、坂道を歩いたり。
観光地らしく、人は多かったけど、なんだかそれも楽しい。
「次、あの電車乗りたい」
海の近くを走る、小さな電車。
窓から海が見えるたび、たかこちゃんが嬉しそうにする。
「ほら、海!」
「見えてる見えてる」
そう言いながら、僕もつい笑ってしまう。
夕方になって、海辺の駅で降りた。
浜の方へ歩いていくと、やっぱりすごい人だった。
「すごいね」
「うん」
「ゴールデンウィークだもんね」
そう言っていたら、遠くでアナウンスが聞こえた。
――本日の花火大会は、まもなく開始いたします。
「え?」
思わず、たかこちゃんと顔を見合わせる。
「花火?」
「知らなかった」
偶然らしい。
「…せっかくだし」
僕は笑う。
「見ていこうか」
浜辺は人でいっぱいだったけど、
思っていたよりずっと広くて、少し歩くと座れる場所があった。
コンビニでおにぎりとアイスを買って、砂浜に座る。
「え?」
たかこちゃんが言った。
「アイス買ったの?」
「うん」
「ダメじゃん、早く食べないと」
「そうだね」
袋を開けながら笑う。
「急いで食べないと」
「半分食べる?」
「いいの?」
「溶けるから」
たかこちゃんは、少し嬉しそうに笑った。
「じゃあ…半分」
アイスを二人で持つ。
「早い者勝ち、同時に食べよう」
「え?ずるーい!」
顔を近づけた瞬間。
……近すぎた。
「……」
「……」
思わず、二人で止まる。
たかこちゃんの顔が、すぐ目の前。
近い。
近すぎる。
「……やっぱ普通に食べよっか」
「……うん」
結局、二人とも照れてしまって、
黙々とアイスを食べることになった。
そのとき。ドン、と大きな音。
夜空に、光が開く。
「わ」
たかこちゃんが小さく声を上げる。
花火だった。
赤、青、金色。
海の上に、大きく広がる。
「すごいね」
「うん」
偶然見つけた花火大会。
なんだか、僕たちらしい気もする。
「うちらってさ」
たかこちゃんが笑う。
「ラッキーかもね」
「かもね」
そのとき、海風が強く吹いた。
「くしゅん」
たかこちゃんが、くしゃみをする。
「寒い?」
「ちょっとだけ」
僕は少し迷って、後ろに座った。
体育座りをして、その中にたかこちゃんを入れる。
……抱きかかえるような距離。
でも。やっぱり、やめた。
代わりに、上着を肩にかける。
「これ使って」
「ありがとう」
本当は、抱き寄せたかった。
でも。
なんだろう。
たかこちゃんは、まだ少し――
触れてはいけないものみたいに思える。
大事すぎて。
綺麗すぎて。
……天使みたいで。
だから僕は、そっと手を伸ばして。
たかこちゃんの頭を、撫でた。
「どうしたの?」
「いや」
夜空に花火が広がる。
「今日、来てよかったなって」
たかこちゃんは、少し笑った。
「うん」
花火の光が、横顔を照らす。
触れたい。でも、触れない。
その距離が、今はまだ…ちょうどいい気がした。




