64、 委員長
好きな人が頑張っている姿は、かっこいい。
でも。
少しだけ寂しいなって思うのも、
たぶん恋なんだと思う。
かな。
春になって、新しい年度が始まった。
そして朱海さんは、学園祭実行委員会の、委員長になった。
「え、ほんとに?」
聞いたとき、私はちょっとびっくりした。
だって、立候補は朱海さんだけじゃなかったはず。
そういう時には、引くタイプかと思ってたから。
他にも三人いたらしい。
でも。
「先輩たちがさ」
朱海さんは少し困ったみたいに笑った。
「朱海がいいって」
「へぇ」
「ほぼ、強制」
そう言って肩をすくめる。
なんとなく分かった。
たぶん、しんちゃん先輩の影響だ。
実行委員長だったしんちゃん先輩を、
朱海さんはすごく尊敬していた。
「大変だよ」
そう言っていたけど。
その顔は、少しだけ嬉しそうだった。
でも。
……本当に大変そうだった。
協賛してくれる会社を回ったり。
イベントの手伝いをしたり。
予算の申請をしたり。
「朱海くん、ちょっといい?」
なんて事務員さんに呼ばれるのも、日常茶飯事で、
気が付けば、土日もほとんど委員会。
そして。
「ごめん、今日も無理そう」
デートのキャンセル。
一回目。
二回目。
そして――三回目。
さすがに、ちょっと寂しい。
だから私は、その日。
大学まで迎えに行った。
校門の前で待っていると、
朱海さんが少し走ってきた。
「たかこちゃん!?」
びっくりした顔。
「どうしたの?」
「迎えに来た」
「え?」
「デート無理ならさ」
少しだけ笑う。
「せめて、一緒に帰ろうよ」
朱海さんは、一瞬ぽかんとして。
それから、ふっと笑った。
「……ありがとう」
帰り道。
夕方の空が、少しオレンジ色。
朱海さんの色。
「委員長って大変だね」
「うん」
「知ってたけど」
「うん」
朱海さんは少し申し訳なさそうに言う。
「ごめんね」
「いいよ」
本当はちょっと寂しいけど。
でも。
一生懸命な朱海さんを見ると、
それ以上は言えなくなる。
しばらく黙って歩く。
そして、信号待ち。
そっと。
ポケットの中で、手が触れた。
朱海さんの手。
驚いた顔で、こっちを見る。
私は、少しだけ笑った。
「忙しい委員長さんに」
指を、そっと絡める。
「ご褒美ね」
朱海さんは少し照れて。
でも、ちゃんと握り返してくれた。
夕暮れの帰り道。
ポケットの中の手は、
思っていたより、あったかかった。




