63、 進路
将来のことなんて、まだ先だと思っていたのに、
いつの間にか「進路」を決める年になっていた。
ねえ、どう思う?
気が付けば、高3になってしまった。
早く大人になりたいなぁ。
子供って、面倒くさいことがいっぱい。
早く働きたいけど、
「来年就職しなさい!」
…って言われると、踏ん切りがつかない。
もう少し、学生やりたい。
んー、ジレンマ。
今の成績なら、贅沢言わなければ大学の推薦はもらえる。
どこかには、必ず。
それでいいなかなぁなんて、思って、考えて。
色んな人とっていうか、バイトの先輩メインだけど。
話して、本も読んで、決めた。
まだ100%じゃないけど。
たぶん。
看護学校に行こうと思う。
ママに相談した。
「看護学校に行こうかな。ママみたいに看護師になろうかな」
そう言った瞬間、ママは「え?」って顔をした。
それから、ふっと笑う。
「ママ、看護師じゃないけど?」
「あ、そうだった」
私もつられて笑う。
ママはクラーク。
病院の受付とか、書類のチェックとか。
小1までは看護師さんだと勘違いしてた。
「お家の人の仕事」という作文を書くのために、
インタビューして、そこで初めて知った。
「でもね」
ママはお茶をいれながら言った。
「看護師さん、すごいなって思うことはいっぱいあるよ」
湯気がふわっと上がる。
「大変そうだけどね」
「うん」
「夜勤もあるし、勉強も多いし」
「うん…」
それは、なんとなく知ってる。それでも。
「やってみたいなって思ったの」
ママはカップを置いて、私を見た。
「どうして?」
少し考える。
「病院ってさ、弱ってる人がいっぱい来るじゃない」
「うん」
「そういうときに、そばにいる人って…大事だなって思って」
ママは、少しだけ驚いた顔をした。
それから、やさしく笑う。
「そう思ったんだ」
「うん。まだ、ちゃんと決めたわけじゃないけど」
「そっか」
ママは少し黙ってから言った。
「朱海くんには話した?」
「まだ」
「言ってみたら?」
ちょっといたずらっぽい顔。
「たぶん、ちゃんと聞いてくれるよ」
……そうなんだよね。
だから、少し緊張する。
その日の夜。
いつもの坂の上。
「たかこちゃん?」
先に来ていた朱海さんが手を振った。
夜の空気は少し冷たくて、
でもどこか春の匂いがする。
「どうしたの?真面目な顔」
「相談」
「うん」
朱海さんはすぐに頷く。
いつもの、”ちゃんと聞くよ”って顔。
だから私は、深呼吸して言った。
「私ね」
「うん」
「看護学校、行こうかなって思ってる」
言ったあと、少しドキドキする。
朱海さんは一瞬だけ驚いて――
それから、ゆっくり笑った。
「いいと思う」
「え、そんな簡単?」
「うん」
朱海さんは少し空を見て、それから言う。
「たかこちゃん、向いてると思うよ」
「そう?」
「うん。人のこと、ちゃんと見てるから」
そんなふうに言われると、照れる。
「大変だと思うけど」
「うん」
「でも、たかこちゃんが選んだなら、応援する」
そう言って、いつもみたいに手を差し出した。
「がんばるのは、得意でしょ」
私は少し笑って、その手を握る。
まだ、決まったわけじゃない。
でも。
なんとなく。
この道でいい気がしてきた。




