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碧い航海日誌   作者: 松本朱海|徒然なるままに
続きの話

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46/59

46、白い夢

夢の中では、素直に会えるのに。

現実では、言葉を選んでしまう。

大切な人、だから。

白い花に囲まれて、少女が小さく歌っている。

ゆっくり近づく人影。

優しく名前を呼ぶと、大きな目に涙を浮かべて、走ってくる…。


…たかこちゃんに似てる。


しまった、バイト中だ。

照明、付けないと。


上映前と上映後は忙しいけど、上映中は映画をみることもできる。

気を抜くと、つい見入ってしまう。


上映後のお客さんの表情は豊かだ。

日本には、いい映画がたくさんある。


最近、よく夢をみる。

電車かバスに乗っていて、白い服を着た、たかこちゃんが耳元でささやくんだ。

「大好き」って。

起きなきゃ、と思うのに、体が動かなくて。

たかこちゃんだけが席を立って降りてしまう。


幸せなのに、目が覚めるのが怖い。

なんでそんな夢をみるんだろう。

初詣あたりからだ。

終点まで寝てたから、そのせいか。

映画のヒロインが似ていたから、思い出してしまった。


館内の人がいなくなると、忘れ物や、異常がないかのチェック。

終わったら、次の準備。


…この映画、たかこちゃんが観たいって言ってたやつ。

面白そうだな。

誘ってみようか。


社員さんがダブルチェックをしに来た。

二つ年上の、長い髪の先輩、川島玲子。


「はい、異常なし。次の上映は、20分後ね。

10分前に開場するから、よろしく」


業務連絡をして、ちょっと世間話をして立ち去る。

いつもそうなんだけど。

今日は、いなくならない。


「ねえ、バイク、のせてくれる約束、覚えてる?」

「……」


いつもとは、違う内容の話。

お互いここの仕事は長いし、古い付き合いと言えば、それもそうだ。

バイクを買いたいって話をしていた時、

「買ったらのせてね」と言われて、軽く返事をした。


「ねえ、覚えてる…?」

「ごめん、乗せたい人がいるんだ。」


「女の子?…よね。」

「うん。」


たかこちゃんに、話せないことはしたくない。


「恋人?」

「大切な人。」


今度は、迷わなかった。


「そっか…じゃぁ、またね」


「彼女がいる」って言えば、簡単なんだろう。

恋人じゃない。

大切な人。


どう言ったところで、

たかこちゃんの耳に入ることは無いんだけど。

何となく嘘をつくのが嫌で、でも、期待を持たせたくないしな。


断ってスッキリするかというと、そうでもない。

モヤモヤする。

もっと、スマートに生きたいんだけどな。


「ヤバ、開場しないと」


雑念を振り払うために、仕事に戻ることにした。


今日も又、夢を観にたくさんの人がやってくる。

上映時間に合わせて、照明を落とす。

館内が鎮まるあの瞬間が、好きだ。


そして、

今夜もきっと、また夢を見るだろう。




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