40、 ひとりごと
気づけば、朝になっていた。
つないだ手と、肩に残るぬくもり。
このまま、時間が止まればいいのにと思いながら、わたしはつぶやく。
家まで、あと何駅だろう。
窓の向こうが、少しずつ明るくなっているのに気づいて、私は目を開けた。
あれ…?
ここ、どこ…?
一瞬、状況がわからなくて、小さく瞬きをする。
肩が重たい気がして、隣を見る。
…そこにいた。
朱海さんが、肩によりかかるようにして、眠っている。
指先を見ると、いつの間にか、ちゃんと手をつないでいる。
ほどよく力の抜けた手。
でも、離れない。
寝息は、少し深くて、穏やか。
しばらく、ぼうっと見ていると、まつげが、朝の光をうっすら受けている。
そこから、目を離せなくなった。
……起こせない。
起こしたくない。
この寝顔を、この距離で見ていられる時間が、もったいなくて。
朝日がまぶしくなった頃、電車が、終点に近づく。
ブレーキの音が、少しずつ、私を現実に引き戻す。
それでも、まだ、ただ見つめていたかった。
大切に、そっと。
駅に着くアナウンスが流れた。
それでも、
まだ。
永遠に、この時間が終わらなければいいのに…。
電車の速度がゆっくりになって、朝日はもっと眩しくなる。
もうすぐやってくる、いつもの時間。
起こさなきゃ…
私は、朱海さんの耳元に、そっと唇を近づける。
声は、朝に溶けるくらい、小さく。
「……朱海さん。大好き。」
返事は、ない。
でも、つないだ手に、ほんの少し、力がこもった気がした。
空はもう、いつもの朝の色だった。




