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碧い航海日誌   作者: 松本朱海|徒然なるままに
続きの話

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33/42

33、 風の中の距離

帰り道は、少しだけ特別だった。

風の速さも、夕焼けの色も、全部同じはずなのに――

隣にいる人が違うだけで、こんなにも変わる。

近いようで、まだ少し遠い距離。

そのあいだを、やわらかな風が通り抜けていく。

「おまたせ、さあ、行こうか」


声をかけると、少し照れたようなたかこちゃんが、階段を降りてきた。


「ヘルメット、ママが使ってたのなんですけど‥」


半キャップにシールが何枚も貼ってある。

夜露死苦?摩武駄致?


「これってもしかして?」

「やっぱりそうですよね!さっき改めて見てどうかと思ったんですけど‥」


相変わらず笑わせてくれる。


「面白いけど、まぁ、気にしないでいいんじゃない?」

「とか言って、思いっきり笑ってるじゃないですかー」


軽口を叩きながらバイクにまたがる。


「乗り方は?覚えてる?」

「はい!大丈夫です。」


遠慮してるのか、恥ずかしいのか、またシートのバンドをつかんでる。

飛んできそうでおっかないんだよなぁ。

女の子の気持ちよりも、安全。


「危ないから、手はこうしなさい。」


両手を掴んで腰に回す。


「はい!わかりました!」


素直に返事はするけど、掌はタンクを押さえている。

まぁ、そこならまだ安全かな。


「じゃあ、行くよ!」


始めはゆっくり、だんだん早く。

夕日の色の風が気持ちいい。


「大丈夫?」

「はい!楽しいです!」


気を使って大きめの声で答えてくれるけど、半キャップだから、声がよく聞こえる。

ちょっと興奮したような、嬉しそうな顔もよく見える。


安定した乗り方で、あっという間に到着した。

オレンジの光が紺色に変わってしまい、もう表情まではよく見えない。


「ありがとうございました!楽しかったです!」


俺も楽しかった。

ただ、走ってるだけなのに。


「どういたしまして。気をつけて行きなね」


声をかけたけど、もじもじしていなくならない。

ヘルメットを外して顔を覗き込む。


「どうしたの?忘れ物?」


さすがに取りに帰るには時間が足りない。


「あのー、いつでもいいんですけど。

ヘルメット買いに行くの、付いてきてくれませんか?」


そんなに気にしてたのか!

笑いすぎたかな?


「変えちゃうの?すごく似合ってるけど。」

「ひどい!これじゃあ私生活、疑われちゃいますよ!!」


まぁ、確かにね。

たかこちゃんのママもお茶目だな。


「いいよ。日にちは‥連絡するよ」

「ありがとうございます!じゃぁ又!」


少し歩いて、振り向いて手を振って。

スキップしながらビルの中に消えていった。


見送ってから走り出す。

いつの間にか夜の冷たい空気に変わっていた。


角を曲がった所で飲酒検問をやっていた。

こんな所で、面倒くさい。


「こんばんは、飲酒検問です。はーって長めに息を吐いてもらえます?」


俺はおもいっきり不機嫌に、でもちゃんと息を吹きかけた。


「はい、大丈夫ですね。

何かいいことあったんですか?運転中は落ち着いてお願いしますねー」


いいことだって。

検査、ちょっと睨むようにしてやったんだけどな。


検問でできてしまった渋滞のテールランプが、星空みたいに輝いてる。


後ろからクラクションを鳴らされて、ハッとする。

お巡りさんに促されて、慌てて発進した。

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