28、 澄んだ瞳に、影が落ちる前に
夏の気配が、少しだけ早くやってきた頃
何気ない日常の中で、ふとした違和感に気づくことがある。
それが気のせいで終わることもあれば、後になって意味を持つこともある。
そんな“引っかかり”を見過ごせなかった、ある日の記録
暑いな。
夏はまだ先なのに、十分暑い。
朱海にバイクを譲ったので、練習もかねてタンデムで走りに行く。
あいつにとって至福の時。
でも、時折寂しそうな、辛そうな顔をする。
人の事をかまっている暇はないんだが、この間のこともあり、気になる。
そう、この間、中庭で。
3年の女子と一緒にいた。
普段ならからかうんだけどな。
ちょっと噂も気になるし。
「朱海ー、飯いくぞー」
俺も念願のマイカーを手に入れてゴキゲンだ。
久しぶりにドリフトを見に行こうかって話になった。
「んで?付き合ってんの?」
「え…、あ‥告白めいたことを言われたことはあるけど…。
よくわかんないけど、誘われて遊びに行くけど、二人で出かけた事はないよ。」
「好きなのか?」
「ん~、普通。」
笑って話しているだけに見える。
特別なことは何もない。
でも、珍しく気になった。
あの日はたまたま少し離れたところから、その様子を見ていた。
朱海は、ああいう場面でもちゃんとしているはずなのに。
あの日は少しだけ、相手のペースに引き込まれている気がした。
他人に口出しをするのは主義じゃあない。
でも、引っかかる。
「大丈夫だよな」
誰に言うでもなく、そう思った瞬間、逆にその言葉が引っかかった。
理由はわからない。ただ、いつもと同じじゃない。
それだけが、妙な違和感だった。
「じゃあ、ドリフト、いつにする?言っとくけど、見るだけだぜ。」
「あの車で走ったらでんぐり返るでしょー!」
もうすぐ秋。
学園祭の準備で忙しくなる。
でも、そういう事に時間がないとかは関係ないんだよなぁ。
こいつの澄んだ瞳を曇らせたくないと思う俺は、
……暇なんだな、
多分。




