26、 ひと夏の恋
好きって、こういうことだと思っていた。
一緒にいる時間が楽しくて、それだけで十分だって。
でも――
それだけじゃ、足りなかった。
夏休みは山本さんとたくさん遊んだ。
2人とも日焼けして真っ黒だった。
新学期になると、学校が終わると山本さんの家に行って、車で家まで送ってもらって。
二人で会う回数は増えたけど、夜遅いとか、外泊するとかはもちろん禁止で、
多分、私はまだ「子ども」だった。
それでもバイトの後に遊びに行っていたら、門限を言い渡された。
これは、ヤバい。
さすがに門限を破るのは…。
私はそこまでは出来なかった、したかったのならすれば良いのに。
したかったのかどうかも今はよくわからない。
先輩たちと遊ぶことが自動的に減って、山本さんと会うけど、夜は早く帰るようにしていた。
それが大人の彼には物足りなかったかもしれない。
寺田に町でばったり会った。
今は違うバイトをしていて、それが性に合っているらしい。
道にしゃがみこんでしばらく話した。
「ねえ、山本さんとは私が付き合ってる時から、付き合ってた?」
とんでもない!
ってか、そんな風に思ってたんだ!
ほんと、ごめん!
「えっと、付き合いだしたのが8月だから、寺田が別れたあとで間違いないよ!!!」
誤解はちゃんと解かないと!
言い訳っぽくきこえなきゃいいんだけど!
「そっか、安心した。あー、絵里さんには気をつけな。」
何のことか、その時はわからなかった。
でも、わかる時が割とすぐにきた。
朝早い時間、登校の途中、道を一本はいったところに絵里さんのアパートがある。
なぜだろう。
その道はいつもは通らないのに。
何となく行ってみた。
そしたら…
山本さんの車があった。
今は朝7時。
今着ました…なんて、思えなかった。
なんで?
何してるの?
そのまま吸い付けられるように、絵里さんの部屋のチャイムを鳴らした。
1回、2回…
反応がない。
3回目を押すと、ドアが開いた。
絵里さんが出てきた。
でも、すぐにドアを閉められた。
またチャイムを鳴らした。
無心で。
今度は2回目でドアが開く。
嫌そうな顔で絵里さんが言った。
「はいって」
玄関からリビングが見えた。
こたつで寝ている山本さんを絵里さんが揺する。
「ねぇ、起きて」
間違いない、山本さんが寝てる…
もう何がなんだか……
「お邪魔しました」
丁寧にお辞儀をして、ドアを閉めた。
山本さんの車、いつも乗ってた助手席。
ノブに手をかけると…開いた。
不用心だよ、山本さん。
いたずらされちゃうよ。
私はドアをロックして、何もなかった風にその場を離れた。
学校に行く気にはもちろんなれない。
先輩の家に電話したら、すぐにおいでと、家を教えてくれた。
こうすけさんの彼女。
他に相談する人が思いつかなかった。
私がこうすけさんにフラれた時から仲良くなった。
泣きながらさっきの話しをした。
涙が少し落ち着いた頃に、山本さんから電話が来た。
そこにいると思って連絡したらしい。
駅に来てくれって伝言。
気が進まなかったけれど、駅に行った。
いつもの助手席なのに、知らない場所みたいだね。
たくさん色んな話をして、山本さんが言った。
「こんな男ふっちゃえよ」
好きなんだけど、胸が苦しい。
氷のトゲが刺さるみたいで。
こんな思いはもう嫌だ。
「別れよう…」
山本さんは、ハンドルに顔をうずめたけど、しばらくしたら笑顔で言った。
「じゃあ、さよならだね!」
わたしの初恋は、あっけなく幕を閉じた。




