春寒
美有は、その言葉を聞くなり、奏人に背を向けて、
「もう嫌…」
と言った。奏人は、その背中から、美有を抱いて、
「美有、僕、好きな人なんかできそうにない。美有しか、見えない。」
と言う。
美有が無視するので、奏人はやめた。でも、その日以降、マッサージがひどく物足りなく思える。ネットで調べたことや、先輩から聞くいろんなことをやってみたい、もっと気持ち良くなりたい、と思っている。けれど、美有は、マッサージ自体も嫌がるようになって、「今日、生理だから…」とか、「体調悪いから…」とか、拒絶してくる。奏人は、「美有…」と手を引いたり、抱き着いたりするが、最後は不機嫌になって、「もういいよっ!」と部屋を出て行く。
奏人は、美有をあえて無視したり、お母さんの前で、美有に意地悪したり、すごく陰険になった。美有は、部屋に引きこもりがちになった。しかし、それに耐えきれないのは、奏人の方だった。
奏人は、真夜中に、部屋に忍び込んできて、
「ごめん、美有…ごめん…こんなことしたくないんだ…本当にごめん」
と、大泣きしてくる。
「美有…もう、僕、関わらないから…許して…嫌いにならないで…」
美有は、
「もう、マッサージは、しない…」
と言った。「自分でしな。」
奏人は、泣きながら、
「いつか、僕が大人になったら、許してくれる?」
と聞いた。美有は、
「大人になっても…大人になったら、余計…だめだよ」
と、背を向けた。




