第二十七章 平安時代に親友ってあり?
急ぎ身支度を整えているうちに、あっという間に時が過ぎた。
ほどなくして、右大臣家の北の方、小乃葉が到着した。
奥の間へ通されると、瑞穂の母である北の方が小乃葉を上座へ案内した。
まずは、このたびの瑞穂の参内に際して力を尽くしてもらったことへの礼を述べる。
小乃葉もまた、届けられた数々の贈り物への礼を、教えられてきた通りの作法に従って丁寧に返した。
型通りの挨拶が続く間、瑞穂はというと、早く二人きりになりたくて、うずうずしていた。
ようやく母親が退室すると、
「小乃葉さま、来てくださってありがとうございます」
瑞穂が嬉しそうに声をかけた。
「まあ、瑞穂さま。私も急に使いを出してしまいましたでしょう。主人に叱られてしまいましたの」
「まあ、なぜですの?」
「毎日、同じことを積み重ねるのが大事なのだそうです。突然の訪問は縁起がよくないとかで……陰陽師に方角まで見てもらって、よい日なら使いを出しなさい、と。そんなことをしておりましたら、瑞穂さまと何をお話ししたかったのか、すっかり忘れてしまいましたわ」
そう言って、小乃葉はころころと笑った。
「まあ……本当に。毎日違うからこそ、楽しいのに。都の方々は不思議ですわね」
瑞穂は笑いながら続けた。
「偶然の出会いこそ――」
そこで、ふっと言葉を止めた。
そして、なぜか頬が赤くなる。
「……?」
小乃葉は、その変化を見逃さなかった。
「瑞穂さま、いかがなさいました?」
「え……? いいえ、何でも……」
瑞穂は慌てて目を伏せた。
「そうですか?」
小乃葉は何かあるとは思ったものの、あえて問い詰めることはしなかった。
そして、少しばかりいたずらっぽい笑みを浮かべると、
「ところで、お噂では、こちらのお屋敷には都中の殿方が訪れていらっしゃるとか」
「まあ!」
「実は私も少々興味がございまして……」
そう言って、小乃葉は人懐こい笑顔を見せた。
「それで、来てしまいましたの」
「まあ、噂とは恐ろしいものですね。それでは私も覚悟して、品定めさせていただきますわ」
瑞穂が笑う。
「まあ、怖い」
小乃葉もつられて笑った。
しばらく二人で笑い合っていたが、ふと小乃葉の声が少し真面目になった。
「ところで……この間の宴で、東宮様をご覧になりまして?」
瑞穂の胸が、どきりとした。
「え……ええ。宴で、御簾越しに……」
慎重に答える。
「私も、普段はあまりお見かけしないのですけれど、この間の宴で久しぶりに拝見しましたら……」
小乃葉は、少し考えるようにしてから、
「まあ、あんなにお美しくなられていたのかと驚きましたわ。まるで物語に出てくる光る君かと思いましたもの」
「まあ……そんなに……」
瑞穂は平静を装った。
けれど、胸の鼓動はどんどん速くなっていく。
――小乃葉さまに、この音が聞こえているのではないかしら。
そう思うほどだった。
「宮中も、少しずつ世代が交代してまいりましたものね」
小乃葉は何気ない様子で続けた。
「春の除目では、多くの方が官職を替えられましたし、若い方々も次々と殿上されました。これで東宮様もお出ましになるようになれば、いっそう華やかになりますわね」
そう言って、小乃葉はにっこりと微笑んだ。
そして、ふと思い出したように言った。
「そうそう。今日、私がこちらへ伺いましたのには、もう一つ理由がございましたの」
「何でしょう?」
「今度、中宮様の姫君の御生誕を祝う宴が催されるそうですの。昨日、瑞穂様にもぜひ出席していただきたいと、使いが参りました」
瑞穂の顔が明るくなる。
「まあ……!」
「本来でしたら、ご両親に申し上げるのが筋なのでしょうけれど……」
小乃葉は瑞穂を見つめた。
「瑞穂様を、私から直接お誘いしたくて参りましたのよ」
「ありがとうございます。ぜひとも出席させていただきますわ」
「ありがとうございます。では、改めまして兼之様へは、正式なお使いを。中宮様から出していただきますわ」
「……中宮様から?」
瑞穂が驚いて目を見開く。
小乃葉は、少し声を落とした。
「ええ」
そして、瑞穂にだけ聞こえるように、そっと囁いた。
「実は……中宮様が、瑞穂様とぜひお話ししたいとのことですの」




