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第8話 最強と最凶

「まさか、ノースヘルから数百キロも離れたこんなところに魔人と魔物の群れがいるなんてね…それに、この場所は帝都からさほど離れていない。一匹の討ち漏らしが大惨事を巻き起こしかねないな…

第一部隊全軍に告ぐ!この作戦は掃討作戦とする!一匹残らず討ち滅ぼせ!」


 グリューナクの声が響き渡り、第一部隊全員に緊張が走る。そして魔人に引き連れられた魔物たちの軍勢が姿を現した。


「ほう?強き者の気配を探って来てみれば、【聖なる殺戮者】グリューナク・ベルムント率いる第一部隊のお目見えか。これは良い!ここで貴様を討てば魔王様の悲願達成はより近づくであろう!それに、強き者との殺し合いほど滾るものはない…!

 貴様ら絶対に手を出すなよ?あの者は我の獲物だ。貴様らはあの雑兵どもと戯れていろ」


 その声と共に魔人に引き連れられていた魔物たちは一斉に騎士団達に襲い掛かる。


 「さあ、グリューナク・ベルムントよ。貴様の相手はこの我。魔王軍第三席、【武極】のディコトムスがお相手仕ろう。命潰えるまで殺りあおうぞ!」


 そういうとディコトムスは目にもとまらぬ速さでグリューナクに接近し、身の丈以上の大剣を力任せに振り下ろした。その衝撃は凄まじく、近くにいた魔物を吹き飛ばし、地面に大きなひびが入るほどであった。土煙が舞い上がり、視界が一気に悪くなる。そのような中ディコトムスの声が先に聞こえてきた。


「まさか、この程度で潰えるほど軟弱なものではあるまい」


 舞い上がる土煙がおさまると、そこには大剣を振り下ろし、悦に浸った表情をしたディコトムスとその大剣を片手盾で表情を変えることなく受け止めていたグリューナクの姿があった。


「魔王軍の三席ともあろう者の実力とはこの程度のものなのだな。私は戦いを好む質ではない」


 グリューナクは左手に持っていた剣でディコトムスの首を狙って横一閃。先ほどの大地を割らんばかりの大剣での一撃とは違い、音のない剣撃。しかし、その切っ先にはディコトムスの姿はない。ただ大木が静かに切り倒されていた。


「カッカッカ!流石は帝国騎士団最強と謳われるだけの男であるな。あれをまともに喰らえば消滅はまぬがれんだろう。だが、この我には通じんがな!」


 グリューナクによる一閃に対して上体を反らせて躱したディコトムスは先ほどまで持っていた大剣を手放しどこからともなく二振りの双剣を取り出し、グリューナクにその刃を振るう。


「さあ!この連撃捌ききってみせよ!」


 大剣による力任せな一撃とは異なり流れるような剣術をグリューナクに浴びせ続けるディコトムス。グリューナクはその斬撃一つ一つを丁寧に盾と剣でしのいでいる。しかしながら防ぐその音は一つ一つはまるで雷が落ちたときのような轟音であり、一撃一撃の威力の高さが尋常ではないことを示していた。


「なるほど、【武極】と言われるのは実力もさることながら武器を無尽蔵に生成する特殊能力故か…厄介だな」


 その言葉とは裏腹にグリューナクはそこまで焦っている様子はない。ほどなくしてディコトムスの持っていた双剣が「バシャーン!」とガラスのごとく砕け散った。その瞬間を見計らってグリューナクは大地を踏みしめ、音速の突きを繰り出したが…ディコトムスは不敵な笑みを崩さなかった。


「ぬぅ!まさか、貴様の聖属性がここまで強力だとはな…我の武装がこうもあっさり砕け散るとは…だが、貴様自身の実力は我には及ばん。ゆえに不意を突いたであろうその突きすらも我の命には届いておらんな」


 グリューナクの突きは間違いなくディコトムスの心臓を狙っていた。しかし、その突きは心臓に届く前にディコトムスの生成した鎧によって受け止められてしまったのだ。とはいえその鎧もグリューナクの剣を一撃受けただけで霧散してしまった。


「お喋りだな。それは余裕の表れか?戦場でのその余裕は命に関わるぞ」


 一度体勢を整えるために後ろに飛びのくディコトムス。しかしグリューナクは即座に反応して追撃する。目にもとまらぬほどの斬撃による波状攻撃。だがしかし、それら一連の攻撃は全て防がれてしまう。


「喋らせるほどの余裕を我に与えているのは貴様自身であろう?さあ、もっと本気を出してみろ!それともなんだ?それが本気と言うのか?ならば致し方あるまい。その馬車の中に乗っている小童もろとも粉微塵にしてくれようぞ」


 グリューナクを力で押し返したディコトムスは再び大剣を生成した。初撃の時とは比べ物にならないほど禍々しい魔力を帯びた大剣をディコトムスは構える。


「っ!貴様…!私だけに飽き足らず罪なき人すらも巻き込むつもりか!…いいだろう、貴様の望み通り全身全霊を持って相対してやろう」


 グリューナクの瞳が怒りによってわずかに揺れた。


 グリューナクは自身の着ていた鎧と兜をすべて脱ぎ去った。するとほんの一瞬の静寂の後、先程までとは比べ物にならないほどの聖なる魔力がグリューナクから放出された。その力は大気を震わせ、余波だけでディコトムスが連れていた魔物たちは消滅した。


「隊員各自防御を固めろ!隊長が本気だ!馬車の中にいるラークを優先して身を守れ!」


 目の前の魔物がいなくなったことを確認した副隊長は部隊全員に防御の指示を出す。隊員たちは即座に馬車を取り囲み、防御魔法を張ってグリューナクの出す本気に対して身構えた。身構える騎士団とは対照的にディコトムスの口元は極上の獲物を見つけたときのように吊り上がり、滴り落ちる唾(つばき)はぽたぽたと地面に落ちていた。


「カッカッカ!流石は【聖なる殺戮者】!魔に属する者たちをこうもたやすく屠り去るとはな。面白い。貴様の光と我の闇、どちらが上か…いざ、尋常に!」

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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