第9話 その出会い想定の範囲外につき
「しゃ…喋ったああああ!えええええええ!!!なになになに!どーいうこと!?グリューナクさん、こいつらって喋るの!?ってか何で勝手に俺の指にはまってるの!?
床に落ちてた光るものは…何このコイン?ああ、最初にグリューナクさんからもらったクッキーの中に入っていたやつか。
じゃなくて!落ち着いてる場合か俺!?何がどーなってんだよ!!!」
「おい、少しは落ち着けご主人。喚いていては男らしくないぞ」
「そーだぞーごしゅじーん。男の子なんだから、もっとどっしり構えてないとにゃ」
「落ち着いてられっかよ!てか、そもそもお前たちが喋ってることに驚いてんだけど俺!」
すさまじい勢いでぎゃあぎゃあと喚き散らしているラークを見てグリューナクはラークの体を一度がしっと掴んで強制的におとなしくさせた。
「ラーク!しっかりしろ!さっきから何を一人でわめいているんだ?ここには君と私、そして第一部隊の隊員しかいないぞ?『お前らが』とか『喋った』とか言っているが、ここにいる人たちは全員君と喋ることのできる人ばかりだぞ?まさか…なにか錯乱魔法でもかけられているのか!?治療班!一度ラークを診てやってくれ!全隊員たちに告ぐ!一度馬車を止めろ!周囲警戒!急げ!」
グリューナクの一言で帝都に向かっていた第一部隊の全体は一度足を止め、警戒態勢に入った。周辺の森の散策と魔法の使われた痕跡の探知、そしてラークの診察が始まった…のだが、周囲に敵影は見られず、不自然な攻撃魔法の痕跡は無し、ラーク自身の健康状態に異常はなく、魔法による精神汚染の可能性は0%であると診断がされた。
「お、お騒がせしました……」
地面に正座で座り、土下座で謝罪をするラーク。隊員たちは異常がないことに安堵したものの、なぜここまでラークが取り乱したのかが気になったようだ。
「ふう…ラーク?顔をあげて。私たちは怒ってないからさ。君の身に何事もなかったようで安心したよ。ただ、町で祭りを楽しんでいた時も、ジョゼのあの惨状を見たときもそこまで取り乱していなかったというのに一体どうしたんだい?もしよければ聞かせてはもらえないだろうか」
ゆっくりと頭を挙げたラークは自身に起きた出来事について説明し始めた。
「えっと…まず、指輪が二つとも俺の指にはまりました。はい、これに関しては俺もそこまで驚いていません。問題は……たぶん信じてもらえないかと思うんですが、この指輪喋ったんです…」
ラークのこの言葉を聞いた隊員たちの間にどっと笑いが起きた。「指輪が喋るはずがねえ」「俺たちも同じ馬車に乗っていたが、誰一人としてそんな声聞いていなかったぞ」と。しかし、グリューナクは笑った隊員たちをキッと睨みつけた。
「お前たち!ラークの言っていることをお前たちの思い込みだけで疑うと言うのか!我ら帝国騎士団の守るべきものは帝国の国民たち一人一人だ。国民に寄り添わずして何が騎士団だ。恥を知れ!笑うにしてもまずは詳しい状況をラークから聞いてからじゃないのか!違うか!」
普段の温厚なグリューナクからは想像もつかないほど激しく、怒りに満ちた怒号が飛ぶ。怒られてしまった隊員たちはしゅんとしながらもそれぞれラークに対して謝罪の言葉を述べた。
「すまなかったラーク。隊員たちの教育ができていなかったのは私の落ち度だ。許してほしい。ただ、指輪が喋るという現象は私自身も耳にしていない。正直に言って私も信じられないんだ。何か証拠のようなものはあったりするだろうか。もちろん、何もないのであれば私は君の言葉を信じよう」
その言葉を聞いていた金の指輪がボソッとつぶやいた。もちろんこの声とその姿はラーク以外には聞こえていないのだが。
「ほう?どうやら我らが選んだ主人には類い稀なる人格者の友がいるようだ。こいつにだけは我らの声を届けてやってもいいかもしれんな」
「え!?マジ!?クーちんともあろう者が珍しいにゃ。明日槍でも降るんじゃないかにゃ?」
「五月蠅いぞアル。そもそもお前が…」
再び指輪がしゃべりだしたのでラークはいったんグリューナクに「指輪としっかり喋らせて」と言って指輪の方を向いた。
「ああ、ちょっと待って、待って。勝手に話を進めないで。俺、君たちが喋るの知らなかったし、そもそも名前があることを知らないんだけど?ちなみに俺の名前はラークって言うんだけどさ。名前教えてもらえるか?えっと…黒猫さんと白猫さん?」
金の指輪も銀の指輪もその反応に非常に驚いたようだ。
「これは…!我らの声を聞いたうえで、存在を否定するどころか自己紹介だと…!ふ、フン!なかなかに面白い主人だにゃあ。気に入った!我の名前は『クリューソス』魔手の双輪の片翼を担う金の指輪だ。おそらく『黒猫』のイメージは我であろうな」
「あ、クーちんのデレた証の『にゃあ』が飛び出した!ずいぶん気にいったんだにゃあ。ふふん♪まあ私もだけどにゃ。さて、私の名前は『アルギュロス』魔手の双輪のもう片っぽを担当している銀の指輪だにゃ。『白猫』担当だにゃ!よろしくにゃん♪」
二人?の自己紹介をきいたラークは「どうしたら君たちが喋るのかを証明できるのか」と質問してみると意外な答えが返ってきた。
「我らの声を聞くのは簡単だ。指輪の所有者であるラークが触れている相手には我らの声が届く。最も、我ら自身が『こいつには声を聞かせたくない』と思えばその者に声は届かんがな。まあ、そこのグリューナク?とかいう騎士には声を聞かせてやってもいいだろう…にゃ」
ということでラークはグリューナクに今あったことを説明した後、驚きを隠せない彼と手を繋ぎ、実際に指輪の声を聞かせることにした。
「やっほー!グリューナクさん!略してグ―ちゃんだね!いや~君のような人格者がいてと~っても…」
「アル、お前は余計なことを言いそうだから引っ込んでろ。先ほどは主人を驚かせてしまって済まない。魔手の双輪の意思そのものであるクリューソスと…」
「アルギュロスでーっす!」
「だから引っ込んでろと言っているだろ!すまない、取り乱した。まあ、そういうわけだ。主人にはどこにも異常はない。わが主人のことをよろしく頼むぞ聖騎士の友よ」
そういうとクリューソスとアルギュロスの声は聞こえなくなった。その声を聞いていたグリューナクは信じられないと言った表情をしていたものの、信じざるを得ない状況に驚き、固まっていた。
「まあ、というわけでして…」
ラークがボソッとつぶやくとグリューナクは普段の笑顔に戻った。
「なるほど。確かにこれは驚くのも無理はないな。むしろ、あの程度の驚きで済んでいた君に敬意を表したいくらいだよ。なにせ…」
グリューナクの声を遮るように索敵部隊員の警告の声が響き渡る。
「敵襲!9時の方向に魔物及び、魔人と思しき反応あり!繰り返す!9時の方向から敵襲!接敵まで推定60秒!」
第一部隊の全員の表情が変わり戦闘態勢へと移行する。グリューナクは兜をかぶり、剣と盾を構えてラークを馬車の中に誘導する。
「まだ話したいことはあるが、ラークは馬車の中へ。質問時間はこの襲撃を退けてからだ!」
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