第9話 決着の時、閉ざされる未来
「鏖殺の大剣!」
禍々しき闇の魔力を纏った大剣による力任せな縦一文字斬り。その切っ先は空間を引き裂き、触れるものすべてを闇へと葬る破壊そのものである。
「聖なる刃!」
闇の力に相対するはこの世のすべてを包み込まんとする神聖なる光を纏った剣による横一閃。この一撃を食らい生き延びた魔に属する者はいまだかつて一体たりとも存在していない。
「ガキャァァァン!」
極大の闇の力と光の力。その力がぶつかり合い、すさまじい衝撃音と共にあたり一帯は光と闇、双方から放たれる力に飲み込まれた。第一部隊の隊員たちは防御に徹することに精いっぱいとなりグリューナクとディコトムスの決着の行方を見届けることができなかった。
誰からも見られることのない光と闇の衝突地点。荒れ狂う魔力によって中心地点は外部から見えない状態になっていた。
立っていたのはグリューナクであった。闇の大剣は真ん中から真っ二つに斬られ、その勢いのままディコトムスの首を両断した。
「クカカ…!いい!実に良い殺し合いであった!よもやこの我の一撃を真っ向から受け、押し切るにとどまらず、首すらも両断して見せるとは。敵ながら天晴である。魔王軍第三席からの賛辞、しかと受け取るが…」
首だけになろうともいまだ意識のあるディコトムス。その首を見下ろすグリューナクはディコトムスの言葉を遮った。
「黙れ。殺し合いだの、命を懸けるだの言っておきながら貴様はなにも懸けていないではないか。所詮能力で生み出した人形に過ぎない存在が」
ディコトムスは体が崩壊しつつもその不敵な笑みを崩すことはなかった。
「ほう?まさかそこまで見抜かれていたとは。伊達に帝国最強と言われるだけのことはある。だが、この肉体は人形であろうとも意識は我そのもの。ゆえに貴様の強さは身に染みて感じた。実に愉しい時間だった。いずれ相まみえるときは『互いに』本物をぶつけ合うとしよう」
それだけ言うとディコトムスの体は完全に崩壊し塵と化した。それと時を同じくして荒れ狂う力の暴走は収まり、グリューナクの姿を隊員達も視認できるようになった。
「隊長!ディコトムスは?やつの肉体はどこにも見当たりませんが…」
駆け寄ってきた副隊長は決着のついたはずのその場所に敵の死体がないことに首を傾げていた。
「奴は単なる魔力でできた人形に過ぎなかった。ゆえにあれは消滅した。本体はおそらくノースヘルにいる。だが、ひとまず脅威は去ったと見ていいだろう。周囲警戒の後帝都へと出発する」
副隊長が隊員たちに防御魔法解除の指示と周囲警戒の指示を出す。これを馬車の中から見ていたラークはほっと一息つき安堵した。
「…っはあ。なんつー戦いだったんだ。俺が今まで妄想してきた『俺TUEE!』の5倍はヤバかったぜ。世界って広いんだなあ…親父やお袋ってあんなバケモノと戦って生きて帰って来てたのか…
はぁぁぁ…親父を一発ぶん殴るって啖呵切ったはいいが、アレを見た後だと覚悟が揺らぐ…」
少し落ち込んだ様子を見せたラークをクリューソスとアルギュロスが慰める。
「主よ。落ち込む気持ちもわかる。何せ主殿が目指していた領域というのはあの領域であったにもかかわらず、今まで具体的には知らなかったのだからな。だが、今知ることができたのだ。具体的な目標ができたと思って上を向いたらどうだろうか?」
「おお!クーちんたまにはいいこと言うにゃあ!ご主人は今まであの町で過ごしていたんだから知らないことがいっぱいなのは当然にゃ。これからいーっぱい知って行けばいいにゃ?」
二人からの励ましを受けてラークは少し気が楽になったようで、その場で軽く伸びをした。
「ふぅー…っん!そうだな。二人の言うとおりだ。俺はまだまだなーんにも知らない成人したての15歳。これから知っていきゃ良いよな!
さて、戦いは終わったみたいだし、騎士団の人たちも防御魔法を使ってないから外はもう安全だよな。グリューナクさんはなんか喋ってたみたいだけど、あのバケモノはいなくなったことだしちょっと外の空気でも吸いに出るかな」
そう言うとラークは馬車から降りて深呼吸をした。馬車に入ったのはほんの少し前だというのにあの戦いに見入ってしまったためか地面が凄く懐かしいもののように感じていた。するとラークの後ろの茂みが怪しく動いた。
ガササッ!
「グルル…!グワォン!」
茂みに潜伏していた魔物がラークに向かって飛びかかる。明らかにラークを狙って飛びかかる魔物。運悪くラークの周りには隊員がおらず、ラーク自身も魔物に気が付いていなかった。
「っ!ラーク!後ろだ!」
グリューナクはそれに気が付き大声を上げ、剣を構え直して魔物に向かう。
「えッ!?」
ラークはその声でやっと事態に気が付き後ろを振り向く。もう目の前には魔物が大口を開けて自分に襲い掛かってきているのがはっきりと見えた。グリューナクがラークのもとにたどり着くよりも、魔物がラークの喉笛を噛み裂くまでの時間の方が短いのは明らか。
ラークの視界が限りなくスローになり、本能が自身の終わりを告げるかのような感覚に陥る。
「ああ…俺って、やっぱツイてないんだな…」
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