第7話 出発の日、動き出す歯車
芽吹きの祭りも無事に終わり、ついにラークが帝都魔法学園へ入学するためにグリューナク達とともに帝都へ引っ越しをする日がやってきた。どうやらラークはあまり大ごとにはしたくないようで、空がまだほの暗いうちにひっそりと町の門から出ていこうとする。見送りに来ていたのはラマンドルたち家族だけであった。
「本当に見送りは僕たちだけでいいのかい?アーガスやミュウ、シレモロやベス達にお別れの挨拶はしたほうがいいんじゃないかな」
ラークは「照れくさいからいいよ」と言ってラマンドルたちに別れの挨拶を済ませ、馬車に乗ろうとした。そんな時町の方から声が聞こえてきた。
「おーい!ラーク!俺たちに見送りさせねえなんてひでえじゃねえか!あ、もしかしてまだバカにしたこと怒ってる?だとしたらゴメーン!」
この空気を読めない発言、バカでかい声、間違いないアーガスである。よく見ればアーガスだけではなく町中の人たちが見送りにやってきた。
「アーガス?ラークはそのことを気にしているんですよ?だったら触れないであげるのが優しさです。この思慮深い僕のようにね」
「いや、思慮深いってならアーガスの発言に対するツッコミを大声でしないほうがいいんじゃない?ほんっと男ってバカねえ。あんたホントに【叡智】なんていうスキル貰ったの?」
「『思慮深い』とは物事を軽はずみに決めず、注意深く十分に考えを巡らせてから慎重に判断・行動する様子を表す言葉です。アーガスはともかくシレモロ君もあんまり思慮深くないかと…」
「うぇえ!なんでみんな来てるんだよ。そんなに盛大な見送りをされるような立派な人じゃないぜ?俺…って、なんか大人の人たちは涙ぐんでない!?」
ラマンドルはにこにこした笑顔で事の経緯を説明し始めた。
「いやあ、ラークが出発する日が芽吹きの祭りの翌日だって決まった時から町の人たちみんなで送り出してあげようって相談をしていたんだ。町の若者の巣立ちを祝福しない大人たちはいないさ。それに、単なる巣立ちじゃない。成人当選なんていう帝国内で1年に1人しか選ばれないすごいことが起きたんだ。そりゃあ全員で背中を押すしかないだろ?」
ラマンドルに続いて町長は涙ぐみながらラークの方をしっかりとつかみ、激励の言葉をかけた。
「うぅっ…やはり、若者の巣立ちというのはいつ見ても嬉しさと寂しさが混在していて涙が出てしまうなあグスッ。ラーク、君が目的のために努力できる人間であることは町の人たち全員が知っている。だから、君が魔法学園でも頑張れることを私たち全員で保証しよう。大丈夫、一番になってこいだなんて言わないさ。君は君のやりたいことをやってくるんだ。そして、また帰って来たときには成長した君の姿を見せておくれ。
あ、そうだ。これ、学園生活が守られるようにということで急遽作ったお守りだ。いやあ時間がなかったもので大したものは用意できなかったが受け取っておくれ」
そう言うと町長は指輪二つに金属のチェーンを通した簡易的なネックレスを手渡した。その指輪は片方はくすんだ銀色、もう片方はくすんだ金色をしており決して豪華な装飾が施されているものではないものの、緻密な文様が彫られていた。一目見ただけでも手の込んだ指輪であることが分かる代物である。
「え、町長…気持ちは嬉しいんだけど、こんなに手の込んだもの受け取れないよ。ほら、俺の学費は全額無償だからお金に困っているわけじゃないし…見た感じ、結構イイものっぽいし。ほら、町長の家に代々伝わる家宝的な何かなんじゃ…」
受け取りを拒否しようとしたラークに教会の神父が割って入ってきた。
「ラーク君、その指輪はね教会から君に渡そうと思っていたものなんだ」
ラークは神父の言葉を聞いて首を傾げていると神父は続けて説明した。
「実はね、その指輪は代々ラムアの教会に伝わってきたものなんだよ。とはいっても今までその指輪をはめることができた者はいなかったんだがね。どういうわけだか指輪をはめようとした瞬間いろいろな理由で指輪をはめられなかったんだ。ああ、そんな怪しそうな顔で指輪を見ないで、呪いのアイテムとかじゃないから。女神さまの御前に出しても何もバチが当たったりしたことないから安心して。
まあそれでも施された文様は素晴らしいものだったから大事に保管していたんだ。でもね、3か月ほど前に突然どこかに行ってしまって、教会の中をどれだけひっくり返しても見つからないからもう無くなったんだと諦めていたんだ。ただ、昨日の種飛ばし大会の後、そう、ラーク君が強盗を退治した直後に、成人の儀でラーク君が座っていた椅子の真下から出てきたんだよ!これは女神さまからのお告げに違いないと思ってラーク君にお守りとして渡したかったのさ。まあ教会の中に適当なチェーンがなかったから町長に頼んでネックレスにしてもらっていたんだけどね」
神父や町長はにこにこした笑顔でネックレスを手渡そうとしてくる。流石に状況が状況なだけにラークも観念し、ネックレスを受け取って自分の首にかけた。
そして今度こそ町のみんなに別れの挨拶を済ませて馬車に乗る。
「みんな!見送ってくれてありがとう!帝都魔法学園を卒業して、俺のバカ親父を一発どついてくるよ!元気でな!」
温かい町の人たちの言葉を背に受けてラークは生まれ故郷のラムアの町を去り、第一部隊の人たちと共に帝都へと向かった。馬車に乗る直前まではあんなに勇ましい顔をしていたラークであったが、馬車に乗り、少し揺られたところで目頭が熱くなってきてしまう。膝を抱え、顔をそこに埋めるように小さくなって小刻みに震えてしまった。そんな様子を見たグリューナクはラークの頭をやや乱雑にわしゃわしゃと撫でるのであった。
「いい人たちだな。君の町の人たちは。ほんの数日滞在しただけで私も名残惜しくなってしまったよ。あの人たちの期待に応えるためにも頑張らないとな」
グリューナクの温かい言葉が馬車の中に響く。兄が弟を慰めるようにラークを慰めるグリューナクであったが、その視界に先ほどのネックレスが映った瞬間彼の目はそれに釘付けになってしまった。それが何であるかを示すかのように。
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