エルマーの案件 エピソード3(全4回)
形容詞って…最後に『い』がつく言葉。
ものごとの性質や状態を表す言葉。
たとえば、『大きい』とか『高い』。
感情や感覚も形容詞。
『うれしい』とか『楽しい』とか。
『こわい』も。
お父さんを表す時に使う形容詞は、
『強い』『やさしい』『かっこいい』
になるんだろうな。
敵対する相手にとっては『こわい』かも。
お母さんは、
『やさしい』『あたたかい』
敵対する相手にとっては『きびしい』
…なのかな?
僕がよく言われる形容詞は
『小さい』『かわいい』
正直言って、不本意だ。
あ…『ふほんい』って形容詞かな?
名詞だよね?確か?
ああああ!違う!こういうところだって!
大きな湖のほとりで、
コマオは頭を抱えてもだえた。
こういう言葉遊びをしたり、
夢想にふけったりするから
集中力がなくなる!
だから魔法の出力が弱いんだ!
コマオが忙しなく頭の中で
自分を責めている間も、そらいろ高原の湖は
ゆったりと水をたたえている。
ゆったりとした水面は空の色を青く映し、
桃色の夕方に染まる準備をしていた。
「コマオくん……」
「わっ!」
背後からエルマーに声をかけられ、
コマオは驚いた。
「…すみません…エルマーさん」
「え!?いや、こちらこそ驚かせてごめんね」
「いえ、あの…魔法のことです。
ガッカリしましたよね?」
__湖のほとり▶ログハウス魔王邸__
今から20分前。
ログハウスで魔法を披露することに
なったコマオ。
それを見守るのは、
ベッドに横たわった魔王、
魔王の妻 ラセツ、
エルマー、そしてボリス。
コマオはかわいい両手を伸ばす。
「風魔法!」
フワッ!
エルマーの前髪が持ち上がった。
ボリスは鼻がくすぐったかった。
「水魔法!」
「はーい」
魔王の妻 ラセツは、コマオが伸ばした
両手の真ん中にコップを差し出した。
チョロチョロチョロ……。
コップに半分ぐらいの水が入った。
「氷魔法!」
「はーい」
ラセツが再度、同じコップを用意する。
カラン!カラン!チャプ……。
コップの水を冷やすのに、
ちょうどいい氷が2つ出た。
「炎まほっ……ああっ!」
ヴォッ!
コマオのマントの左端が燃えた。
「はい、大丈夫、大丈夫」
パッパッパッとラセツが
マントをはたくと、すぐに火が消えた。
マントの右端には、すでに焦げた跡がある。
「大丈夫よね〜?」
ラセツはコマオに怪我がないかを
確かめている。
「えっと……」
エルマーはボリスを見た。
ボリスもエルマーを見た。
そして、エルマーは魔王を見る。
「おおふ……」
エルマーは少しびっくりした。
魔王はすでにジッとこちらを見ている。
八の字になった眉毛で、不安そうに。
エルマーとボリスのリアクションが
気になっていたのだ。
エルマーと目が合った魔王はハッとした
顔になり、ベッドから上半身を起こした。
「コ、コマオ! すごいぞ!」
魔王は声を張った。
「風水氷炎!
4つの元素を出せるとは!
しかも氷が2つ出た!」
「そうね!」
ラセツも続く。
「水が澄んでた!それに……」
「あ、あの!結界も!」
コマオが褒め言葉にかぶせるように言った。
「結界も!お父さんの書いたレポートを読んだから!…できるかも!」
「おお!」
一同がざわめいた。魔王の顔が明るくなる。
コマオはログハウスの中央に立った。
両手を胸の前に出し、目を閉じる。
「フゥ〜……」
コマオが集中している。
エルマー。ボリス。
ラセツ。
そしてベッドから上半身を起こし、
前のめりになっている魔王。
みんな静かに見守る。
コマオの両手の間に光が集まっていく。
光は少しずつ大きくなって……
パシュッ!
縦30センチ。横20センチ。
A4用紙ぐらいの透明な板が宙に浮かんだ。
厚さは0.5ミリほど。薄い。
「あ、あれ!?違う!
練習ではもっと大きいものができたのに!」
コマオが焦る。
ボリスが近づいて、
透明な板を横からのぞき込んで言った。
「これって…オーブンで焼くと…
小さくなってキーホルダーになる?」
「プラ板じゃないよ!」
エルマーが思わずツッコんだ。
魔王が慌ててフォローする。
「いや!すごいことだぞ!コマオ!」
言葉を探す。
「こんなにきれいな長方形を!」
ラセツも続く。
「そ、そうよ!あの……角なんてほら!」
ラセツが指をさした。
「ほぼ90度!」
「……………」
コマオは結界を見た。
角を褒められた。結界なのに。
その瞬間。
〈〈 ぱきん!〉〉
結界が割れた。
透明な光の粒になり、
中空にふわっと溶けていった。
「…………あ……」
コマオは下を向いた。
「…頭を冷やしてきます!」
「あ、コマオ!」
ラセツが声をかけるより早く、
コマオは駆け出した。
しかし、
ビターン!
マントのすそを足に絡ませて、
顔から床に突っ込んだ。
「大丈夫か!コマオ!」
魔王が叫ぶ。
「母さん!ヒーリング!」
「はーい」
「うっ……ううっ!」
コマオはすぐに立ち上がり、ラセツの
回復魔法を振り切って駆け出した。
悔し涙なのか。鼻を打った痛さなのか。
目に涙を浮かべたまま、ログハウスを
飛び出していった。
「ぼく、ちょっとコマオくんと
お話してきます」
エルマーが立ち上がった。
「えっと……こういう時、
コマオくんがどこに行くかわかりますか?」
「「 湖のほとりです 」」
両親がほぼ同時に答えた。
愛されてるなぁと、エルマーは思った。
「エルマーさん…
どうか、よろしくお願いします…」
魔王が言う。
「はい。お任せください。大丈夫ですよ」
エルマーは、こんな表情で頼みごとをされたら断れない。不安がありありと顔に出ている。
魔王の八の字眉毛は眉間の皺まで濃くなり、『魚』の下の4つの点みたいになっていた。
_____▶︎湖のほとり______
「ガッカリしましたよね?」
コマオはエルマーに背を向けて言った。
「え?なんで?」
エルマーが答える。
「いや、だって、こんな魔法じゃ、
そらいろ高原を守れないし!
侵入者に勝てないじゃないですか!」
コマオはエルマーのほうを振り返って叫んだ。
「あー…なるほどねぇ」
エルマーはコマオの横に腰を下ろす。
「よいしょっと…
えっとね。どうぶつ島って知ってる?」
「あ!はい!知ってます!大好きです!」
「大好きなの?そうなんだ…
あれ?ボリス」
バサッ、バサッ、バサッ。
エルマーとコマオが話しているところへ、
ボリスが飛んできた。
「コマオ、ごめんね。プラ板とか言っちゃって」
「うん、いいよ」
「エルマーがプラ板とか言っちゃって」
「いや、ぼくへの流れ弾!」
「気にしてないよ。
こちらこそ心配かけてごめんね!」
いい子だ。600歳らしいけど。
「今、ボリスに連れて行ってもらった、
どうぶつ島のことを話してたんだ」
「ああ、そうなんだー」
「え!?ボリス!?
どうぶつ島に行ったの!?」
「いやいや。連れて行ったって言っても、
上空の安全なところから、コマオと見ただけ。
さすがに、もう捕まりたくない」
そう言ってボリスが笑った。
「ああ!そうだった!」
コマオの顔が明るくなる。
「ボリスから聞きました!
エルマーさんの活躍!
どうぶつ島に、たった1人で乗り込んで、
途中の動物たちを次々にかわして、
最後には、つながれていたボリスを
助け出したんですよね!
まだ、リボンをつけたライオンもいましたよ!かわいかったー!」
「はは、そうだねー。懐かしい。
え?リボンつけたライオンって、
まだ生きてるの?」
エルマーは思い出した。9歳のころの出来事だが、今でも鮮明に覚えている。
イライラしたライオンをかわすために、
くしとブラシとリボンでタテガミを
三つ編みにして機嫌をなおした。
…よく生きていたもんだ。
あれから30年も経った。
「たぶん、エルマーさんが三つ編みを教えた
ライオンの子どもですよ!
タテガミを三つ編みにしたライオンが
3頭いました!」
「ハハハハ!むかしの女学校みたいだね!」
「タテガミだから、
みんなオスなんですけどね!」
3人は大笑いした。
しばらく笑ったあと、
コマオがぽつりと言った。
「すごいなぁ……」
湖を見つめる。
「虎もライオンもワニも、遠くから見るのは
好きだけど…近くで会ったら…
やることがあっても、僕は……」
コマオはエルマーを見た。
「途中で逃げちゃいます」
「うん、それでいいよ」
「え?」
「むしろ、逃げよう」
エルマーは言った。
「逃げながら考えればいいんだよ。
ぼくは、ずっとそうしてた」
「ボクだって思いっきり逃げたし!」
ボリスが首と胸を張って言った。
エルマーとボリスは、また大笑いした。
「そんな考え方が……あるんですね」
コマオは少し羨ましそうに2人を見た。
「マオ族は、思念体で
体が変わるんです」
「「 思念体? 」」
エルマーもボリスも初めて聞く言葉だった。
「思念体っていうのは、意識とか思いの
塊みたいなものです」
コマオは自分の小さな手を見る。
「強くなりたい。大きくなりたい。
そういう気持ちが、少しずつ体に出るんです。
お父さんは300歳で今の大きさでした」
「300歳で!?」
ボリスが驚く。
「いや、人間だと人生3周以上だけどね」
とエルマー。
「実は『りゅう』の寿命でも300歳って
結構な大人だから。なんとなく驚いてみただけ」
エルマーは『適当すぎるよ』
という言葉を口に出さず、
ボリスの首をトン!と優しく叩いた。
「お父さんの小さいころは戦が
あって、強くならざるを得なかったそうです。お母さんも戦で傷ついた人をどんどん治して、今の姿に」
コマオは続けた。
「僕の両親は…そんなことを僕に
経験させたくないからと…ずっと優しくしてくれました。逃げても責めない。
失敗しても怒らない」
ボリスが何か言おうとした。
エルマーがトン、と背中を叩いて止める。
ボリスがエルマーを見る。
エルマーの目は、
『まずは全部聞いてみよう』
と訴えていた。
「僕には攻撃性もないし、
怖いものも苦手だし、痛いのも嫌です」
コマオは空を見た。
「たぶん心のどこかで、ずっと子どもの
ままでいたい。大きくなりたくないって
思ってるんです」
少し間を置いて…
「だから、こんなに小さい」
湖からのそよ風。
小さい花がそよそよと踊る。
「エルマー!コマオはね!
コマオは、自分が小さい、かわいいって
言われるの、嫌なんだけど、
小さくてかわいいものが大好きなんだよー」
こらえきれず、ボリスがしゃべりだした。
うーん。
できればコマオくんの思いを全部吐き出させて、スッキリさせたかったなあ。
とエルマーは思ったが、これもボリスの優しさだろうと自分を納得させた。
「そうだ!あれ!あれ、すごいよね!
コマオ!」
ボリスが興奮し始めた。
「エルマーにあれ見せてよ!
ウサギとカエル!」
「ウサギとカエル?」
エルマーは首をかしげた。
コマオは少しハニカミながら言う。
「…あれは魔法っていうか、
…観察の賜物っていうか……」
「いいからいいから!」
ボリスに急かされ、コマオはため息をついた。
「ふぅ〜、じゃあ……」
湖のほとりに立ち、エルマーたちの方へ
両の手のひらを向けた。
さっきの結界とは違って、
動作に迷いがない。
コマオの手のひらからポン!と煙が出た。
ポン。ポポン。
ポポポポポポポポポポポン!
煙とともに次々と動くものがある。
「んん!?お?おおー!」
エルマーは言葉にならない。
草むらに、ウサギ。ウサギ。ウサギ。
カエル。ウサギ。カエル。カエル。
ものすごい数のウサギとカエルが現れた。
ポンポンポンポンポンポンポン!
「100以上はいる!?」
1羽のウサギがエルマーに飛びついた。
わずかに重さがある。
その横をカエルがぴょんと跳ぶ。
「全部、本物?!」
「限りなく本物に近い思念体です」
「重さもあるよ?」
「そうですね。重さは
本物の半分もありませんが、
触れて愛でることはできます。
6年ぐらい観察しました」
ボリスもしゃべる。
「すぐに消せるけど、最長20時間は
もつよねー」
「え!?20時間も!?…コマオくん、
たくさん出してたけど、疲れない?」
「全然、疲れません。2万ぐらい出すと、
さすがに……少しは疲れるかもしれませんが……」
「2万で少し!?」
「動物が大好きだからかも」
コマオの照れくさそうな笑顔。
「じゃあ、虎も観察したら出せるかも」
とボリスが茶々を入れる。
「もちろん、ボリスが一緒に観察してくれるんだよね?近くで」
「いや、ごめん。こわい。今のなしで」
コマオとボリスは大笑い。
エルマーはしばし沈黙した。
風魔法は前髪。
水魔法はコップ半分。
氷は2個。
炎は自分のマント。
結界はプラ板。
だけど…目の前には、
湖の一角を埋め尽くすほどのウサギとカエル。
エルマーは1羽のウサギを抱き上げた。
あたたかい。毛の1本1本まである。
鼻がぴくぴく動いている。
「……コマオくん」
「はい」
「このウサギの耳、触った感じまで
想像して作ってる?」
「はい!ウサギは耳の付け根のところが
特にかわいいので」
「そうなんだ」
「カエルは水かきのところです!」
コマオが1匹のカエルを持ち上げる。
「ここがいいんですよ!」
急に饒舌になった。
「種類によって耳の形も違うし、
目もかわいいんですよ!
それからカエルと違って、
ウサギの後ろ足も…」
「コマオくん!」
「はい?」
「魔法、得意だね」
「ええ!?あ、その…」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
『____▶︎湖のほとり___』
といった▶︎が混じる場面転換表現を思いついてから、
冗長な文章が少し減ったと思います。
…ほんの少しだけ…ですが。
残り1話です。ラスト1話!
是非、最終話までお付き合いのほど、
よろしくお願いいたします。




