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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第1章 名はアグニ
29/268

29 疑問 

もしかしたら一つ前の話で、途中文章が重複して載るというミラクルを起こしたかもしれません。

その部分はちゃんと消しました(そのはずです)。


見られたあなた、ラッキーです!笑


『そういえば、アグニ。エッセン村の芸獣は強かったか?』


大公様とのお話が終わり、退出しようと背を向けた時だった。


その一言で、俺はピタリと動きを止めてしまった。


「…え、なんのことで…」


『あはははは!!お前は素直だな。やはりアグニ、お前だったか。ならお礼を言わねばなるまいな』


俺の行動が分かりやすすぎたのだろう。大公様は大笑いした後、席を立って頭を下げた。


『ありがとう。あの村を再び生き返らせてくれて。』



大公様の礼に合わせて、トッポピオも、周りの侍従らも全員が俺に頭を下げた。



こんな大勢に、お礼を言われたことなんてない。

こんな大勢に、俺のやったことを肯定されたこともない。


胸が熱くなった。



俺も大公様に対して頭を下げて言った。


「俺…よかったです。そう言ってもらえて、嬉しです。ありがとうございますっ…」



その様子を見て大公様は楽しそうな笑顔で


『本当はな、トッポピオに行かせるつもりだったんだ。だからこやつは遠征から帰ってきて首都にいたんだ。お前のお陰でトッポピオは急遽暇になってな。ゆえに今回この武術大会に参加できたわけだが』


「まさか武術大会で私を負かした少年が、村を救ってくれた人だったとは。驚きました」


大公様とトッポピオの言葉に納得する。凄い偶然の連続だったんだな。


『アグニ、もし旅に飽きて行く場所がなくなったらいつでもおいでなさい。君の居場所はすぐ用意できるから』


最高の送り言葉だ。


「はい。本当にありがとうございます!!」



・・・・・・・・



「エメル、シリウスただいま~!」


「おかえりなさいませ、アグニ様」


『おお~お帰り~どうだった?』


「楽しかったし、大公様すげぇいい人だった」


シリウスの家に帰るとエメルがコートを預かってくれた。シリウスは応接間でソファいっぱいに寝転がりながら桃色のカップケーキを食べていた。



   自堕落がすぎるな、おい。



『シリアドネの大公は代々質がいいんだよね。比較的帝都にも近いし産業も盛んだからピリピリする必要ないのかな~』


「質って…いくらなんでも失礼すぎるだろ」


俺がそう返すと、楽しそうな顔をしながらきちんとソファに座り直して、足を組んで座った。


『ほぉ。そんなにいい感じだったの?印象は?』


そう言われて大公様のことを思い返す。


「印象は…すごいいいよ。凛として、厳かだけど優しい雰囲気もあって。こんなこと言っちゃ失礼かもしれないけど親しみやすい感じもあった。」



『ふーん。彼は典型的な「天使の血筋」の雰囲気を持っているから、その感じ方をするのは君も()()()()だからなんだろうね』



   俺が同じ「天使の血筋」だからってことか。



よくよく考えてみれば、街を歩いていて一度もあの髪の色や雰囲気の人はいなかった。


けど・・・シリウスはそれとも異なる。


目の前で足を組み、紅茶を口に含む存在を見ながら考える。


シリウスの髪の色は、大公様のとは別物だ。金ではない、白金色なんだ。目の色も金色。以前、天使の血筋は「白っぽい」と言っていたが、その特徴にシリウス以上に当てはまる人はいないと思う。


それに持つ雰囲気も全然違う。


こいつのは、より絶対的。 有無を言わせない。

優しぶってるけど、こいつが右といったら全てが右になるような…


「うぅ~ん、難しいな…。なぁシリウス、『天使の血筋』って天空人の末裔なんだろ?その血の濃さで違いって出るの?例えば髪の色とか、雰囲気とかに」


そう聞くと、首をかしげながら答えた。


『うーん、まぁないかな。「天使の血筋」の子供はいつまでたっても変わらず「天使の血筋」だし。髪色も個性の範囲内だな。あぁ……君以外は、ね。』


天使の血筋で唯一黒髪。

天使の血筋で唯一芸石を扱える。


何が違うんだ?どこで違いが出たんだ?


シリウスも「違う」。

この違いはなんなんだ?


頭を悩ませていると、エメルが来て、シリウスに小声で伝えた。


「シリウス様、街に『芸者』がきたようでございます」


それを聞いてシリウスは食べかけのカップケーキを落とした。


『え、、、ほんと?』


「はい。そのまま大公様の屋敷に行かれたようですが」


それを聞いたシリウスは今まで見たこともないくらい焦っていた。金色の瞳は、今シリウスがうろたえているということを正確に伝えていた。こんなわかりやすいのは初めてだ。


そして急に思い立ったかのように言った。


『明日この街を出ようと思うんだけど、いいでしょ?』


「ええ!もう?!早くない?」


『何言ってるの?どこよりもここにいる時間長いよ?』


「ええ、そうなのか…わかった。じゃあ支度しとかなきゃな」





・・・・・・・・





街から出る時、出口のところの出国の管理をしていた兵が俺に気づき握手を求めてきた。それに気づいて他の人も握手を求めて……軽く盛り上がりをみせた。


悪い気は全くしないな!


次なる目的地、またもや森。だけど前のとは違う。竜ちゃんのいた森はスリーター公国領にある森だった。今から行くところはシリアドネ公国を南、スリーター公国を東においた位置に存在する、シメリア公国領にある森だ。


さきほどのプチ騒ぎを思い出して上機嫌で歩いているとシリウスが質問してきた。


『何?どうしたの?ずいぶん楽しそうだね?』


「ん?ああ、さっきのこと思い出してた。武術大会優勝するのってそんなに騒がれるようなことなんだな。あんな大勢に凄いって言われて、憧れの目で見られたのなんか初めてだから嬉しくてさ」



   武術大会で一位ってことは………

   俺ってあの街で一番強いんじゃないか?!!

   おお、俺ちゃんと強くなってんだな!



そんなことを思っているとシリウスが水を差すように言った。


『なになに?また調子こいてるの?君ってほんとすぐ浮かれるよね。大体すぐ死ぬ人って君みたいな性格してるんだよね~ははっ』


「は?なんでそんなこと言うの?強くなって嬉しいから喜んでるんじゃん。そんな変なことか?」


『いいや?ただ、君の中の「強い」のレベルが低すぎるから面白がってるだけだよ。』

   


   なんでそんなひどいこと言うんだ?

   武術大会一位だぞ?

   困ってる村も助けた。

   それなのにまだ俺は弱いってのか?



「なぁ。俺が強くなったのは事実だろ?なんでそれを認めてくれないんだよ」


俺が少々イラつきながらも怒りを爆発させないようにシリウスに問うと、シリウスは絹のような白金の髪を耳にかけながら妖艶な笑みを浮かべていった。


『…ふふっ幼いな。まだ世界を知らない芋虫のようだ』


『ちょうどいい。それじゃあ、一度僕ときちんとやりあってみるかい?』



   挑発だ。こいつは負ける戦はしない人間だ。

   けれどもこいつはきっと全ての戦にも参加する。

   なぜならどの戦にも負けないからだ。

   

   今は、こいつの絶対的な自信が癇に障る



「……いいよ、やろうぜ。 やってやるよ 」





・・・・・・・・





山の中腹、川の傍、緑豊かな森に見つめられ川のせせらぎが音を奏でる。


のどかできれいな場所だ。


その場所に似つかわしくなく、俺はシリウスに闘志を燃やしている。睨む顔はもう隠していない。


一方のシリウスはいつも通りの笑顔を浮かべ、白金の髪を縛るでもなく風になびかせている。金色の目はじっと俺を見続けている。


『さぁ。好きな時に好きな芸でおいで。どの武器を使ってもいい。』


「……お前はなんも準備しないのかよ」


『うーん、しないね。髪を結ぶ必要もない。』


「はっ!随分余裕だな。なんだ?お前は動かないとでもいうのか?」


『おお!よくわかったね!うん。僕は一歩も動かない』



   腹が立つ…いかんせん人のことをなめすぎだろ。

   

「は?本気でやり合うんじゃねぇのかよ?」


そういうと、シリウスは目をそらさずに言う。


『は?!本気?!僕が本気を出したら君、秒で死ぬよ!あはは!!』


「ふざけんなよ!!!きちんと俺を相手にしろ!!」


『あぁ~おかしい…わかったわかった。じゃあ、本気の芸を一つ見せてあげるからさ』



シリウスは腕を前に組んでただ立っている。

俺は自分の直剣を構える。


俺の考えた戦術はこうだ。

川が近くにあるから、最初の一瞬ですぐ川から霧を作って目隠しをする。そしてすぐ水鏡をシリウスの目の前に張って、向こうからの芸の攻撃を抑える。そしてその間に風の芸で一気に距離を詰めといて、あとは炎の芸で斬る。


たくさんの芸を出すから長期戦は無理だ。最初の一瞬で、かすり傷でもいい。一撃入れる。



心を落ち着かせ


足に深く溜めを作り 


次の一瞬の準備をし


『ギフト』の言葉を出した瞬間だった。



シリウスは動いてない。 けど何か喋った。


いつも通り、笑ってた。


あいつから目は放してない。そのはず。


周りは何も変わってない。


俺だけが 変わった。



   え?


   倒れてる?



視界が黒くなり、身体が地面に向かって落ちてゆく。









片手を振って微笑むシリウスが意識の最後に見えた。













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