28 優勝報酬
『「…はっ!!し、勝者……アグニ〜!!!」』
だいぶ遅れて、会場内でアナウンスされた。
俺はというと、決勝ではアナウンスしないのか(準決勝ではしたんだけどな?)と思って、既に自分の控室の方に歩き始め、建物に入る手前まで来ていた。
会場内のアナウンスと同時に大きな歓声が起こった。
びっくりして辺りを見渡したくらい。
けど歓声と同時にざわざわした声も聞こえる。
誰お前?って感じだよな……
なので俺は四方八方に軽く手を振った後、すぐ控室の建物内に入っていった。
・・・・・・
控室ではシリウスが両手両膝を付き、まるで絶望した人のような格好を取っていた。
「ただいま! きちんと勝ったぞ!…どした?」
『……どうして……』
「え?何?」
シリウスの声が小さくて聞こえなかった。
するとシリウスは、キッと顔を上げて睨みながら
『どうしてよりにもよって、唯一やる解名が「治癒」なんだ!!』
「えぇ??」
シリウスが床を手でバンバン叩きながら抗議する。
こんな抗議の仕方見たことない。
「そんなに?!もしかして『天使の血筋』しか治癒ってできない?!」
『いやできる!できるけど!結構珍しいの!芸石を使って治癒が出来たら国に保護されるレベルなの!将来は安泰だし、大体は教会で働くかどこかの貴族のお抱えになるから普通その辺にいないのんだよ!あぁ〜〜どぉーしてピンポイントでわざわざその芸出すかなぁ〜〜……』
変わらず床に四つん這いになって絶望を示している。
けど、それよりも
「…ごめん、教会って…?」
『教会は、天空人、そしてその子孫とされる皇帝や「天使の血筋」に対し敬意を表し、崇拝の意を示す場所!!天空人の能力をお借りして芸を行使し人を癒す場所、ってされてるの!大怪我したら大体みんなそこ行くの!』
へぇー教会かぁ。
俺が無職になったらそこ行こ。
「ごめんて。もう終わったことだし、もう変えられねぇしどうしようもないじゃん。」
思った事をそのまま言うと、じとーっと見られて
『君の欠点はあまりにも淡白すぎるとこだよね』
「えぇ?そうかな?」
『そうだよ。エッセン町でも山賊の時も思ったけど君は人と接さない期間が長すぎたあまり、人に関する事で感情が動きにくい。』
ぶっちゃけ同じことを俺もお前に対して思ってたぞ…
けどこういうのは言わないが吉。
口をつぐんでいると、シリウスはため息をつきながら立ち上がって言った。
『まぁもういいや。とりあえず外出よう。優勝してシリアドネ大公と会う予定が組み込まれたから、その事を侍従さんらと話さなきゃ……』
「お、おお。悪いな…」
・・・・・・・・
<2日後>
今日いよいよ、
シリアドネ公国、大公様とお会いする。
大公閣下は首都シリアドネの街の北のお城にいるらしい。
大通りをそのまま北へ行き続けるとつく。
街で高い位置で、街を一望できるそうだ。
今日家の前にお迎えの馬車がきてビビった。
エメルが用意しといてくれた高そうな服を着て、馬車に乗り…
俺は今、大公様の目の前にいる・・・
まだ顔は見てない。頭を下げた状態でキープ中。
『面を上げてよい』
「はい」
程よい重低音で気品の感じる声が降りかかる。
その声を聞いて俺は顔を上げ、大公様を見た。
『確かアグニといったな。はるばるご苦労。私がシリアドネ公国を治めている、シリアドネだ。そのまま名前で呼んで欲しい。』
「はい!アグニと申します。本日お会いできたこと、心から嬉しく思います。」
シリアドネ大公は凛々しい顔立ちの男性で、年のころは40といったとこか。
濃い金色の髪に森を思わせる緑色の目をしていた。
『堅苦しい挨拶はよい。まず忘れないうちに優勝賞金の話だ。賞金の1ウェンは帰りに渡されるだろうから必ず受け取ってくれ。そしてこれが賞状だ。』
賞状を大公様が直々に音読し、大公様から賞状を受け取った侍従から渡された。
「ありがとうございます」
俺がお礼を言うと、大公様は面白がる顔つきをした。
『ふむ。そなた、今まで「天使の血筋」に会ったことはあるのか?』
でましたこの質問。
これに関してはシリウスに答えを貰っている。
「いいえ、ございません!シリアドネ様が初めてです!」
シリウスに口酸っぱく言うなと言われたのだ。
すると大公様は顎をさすりながら
『ふむそうか。大体の者は私に会った際、顔を上げるのを躊躇う。そしてやっと上げたかと思えば、一目見てすぐまた頭を下げてしまうのだ。それに最初から名前で呼ばれるのも珍しいな。』
え、名前で呼べって仰ったやないですか…
あれ冗談だったの?
というか顔って素直に上げちゃいかんのか?
やらかしまくった気配を感じて戸惑っていると、大公様は笑いながら言った。
『ああ、責めているのではない。嬉しいのだ。私は「天使の血筋」である前に、自分の名を持つ一人の人間だ。「天使の血筋様」と呼ばれるのは、どうも私を見ていない気がしてな…あまり好きではないのだよ』
あぁ、なんかそれは可哀そうだな
『それに私はこの領地の管轄を任されただけの存在だ。この国に「天使の血筋」は私と我が子しかいなくとも、帝都にはたくさんいる。ゆえに崇拝されるのも少し妙だと思うくらいだ』
大公様は薄く笑いながらそう告げた。それを聞いて、
「へぇ…そうなんですね…大変ですね…」
思ったことをそのまま口に出すと、大公様は目をぱちくりさせて大きく笑った。
『あはははっ!そうだ、大変なんだよ。神の代理人で居続けるのはな。…アグニ、一人会わせたいものがいるのだが、ここに入れてよいか?』
わざわざ聞いてくれるんすね、
全然大丈夫っすよそんなん。
「はい、もちろんです」
『ふむ…トッポピオ!入れ。』
大公様の声で中に入ってきたのは、決勝戦で戦った色黒のお兄さんだった。
『忘れてはおらぬとは思うが…彼の名はトッポピオ。シリアドネ公国軍の副総隊長をしておる。』
「な?!!」
うっそだろ!
副総隊長とか、めちゃくちゃ地位高そうじゃん!
というか副総隊長ってなんだよ!
俺が紹介されたお兄さん・トッポピオを見て驚いていると、向こうから話しかけてきた。
「シリアドネ公国軍副総隊長のトッポピオと申します。決勝での試合、ありがとうございました。」
「……はっ!いえいえ!こちらこそありがとうございました」
なんでこの人来たんだろう…
俺のメンツ潰しやがって的なやつかな…
トッポピオの次なる行動にドギマギしていると、大公様が言った。
『彼はな、お礼がしたいとのことでここへ呼んだんだ。』
「…へ?お礼??」
トッポピオは軍人の敬礼なのか、左手を体の横に付け、右手を掌が見える形で額に当てるポーズをとった。
「アグニ殿、私に負けをくれてありがとうございました」
「……負け、ですか?」
どういうことだろう
するとトッポピオは続けていった。
「私は腕っぷしだけで副総隊長になって、基本ずっと遠征に出ております。数えきれないほど芸獣とも戦いました。最近ではもう命の危険を感じることもなく、試合でも負けるようなこともなく、目指す先の限界が見えたような気がして…悲しかったのです。けど、私よりもずっと若いあなたが、私をいとも簡単に倒してくれました。まだまだ能力は伸びる、伸ばせる!それを教えてくれたのです。」
「まだ上がいる」
それが絶望になることも、希望になることもあるんだ
トッポピオはまっすぐな瞳で俺にそれを伝えた。
それが俺にも嬉しくて、トッポピオから伝わった熱が気持ちの良い暖かさだった。
・・・・・・
『そういえばアグニ、何か将来やりたいことはあるのか?』
トッポピオとの会話が終わったころ、大公様が聞いてきた。
「あ、俺…いや、私は今スリーター国で鍛冶師をしています。その材料を集めに旅をしているんです。」
『ほう、そうなのか。すぐ隣だな。なんという所にいるのだ?』
これを聞かれて思った。
俺は自分の村の名前を知らない。
え、だって。俺にとって村は「村」だし、
名前とか気にしてなかった…
「えっとぉ…インカ村というのが東側にありまして、そのもっともっと東にある村なんですけど…」
そう答えると、大公様は不思議そうな顔をした。
『ん?インカ村は知ってるぞ。けどその村が最東端の村でなかったか?トッポピオ。』
「はい、私の記憶が正しければインカ村が最も東に位置する村のはずですが…」
え?
俺の村は存在しない?
いやいや、そんなことはない。
だって俺絶対そっちから来たし、、、
・・・どういうことだ?
『村の名はなんだ?』
「すいません、実は…村の名前を知らないです…」
もう正直に話した。
村がないって言われちゃったらもうわからん!
けどその言葉に大公様は驚く様子は見えなかった。
『ふむ、そうか…スリーター国は少々特殊でな。もちろん教会もあり、天空人や皇帝、天使の血筋を崇拝しているが…それと同時に全ての根源でもある「芸素」を崇めているのだ。特に「炎」を崇めていて、芸素から作られる炎を神聖視し、天空人と同じく神として祀ることもある』
そしてトッポピオも続ける。
「もしかしたら、それらの関係で村に名前がついていないのかもしれませんね。あまり外部に情報を出さない国なので未だにわからないことが多いですから」
へぇ~そうなのか。じゃあそうなのかもしれない。
村の人と「あなた何信じてるの?」とか話したことないしな。わかんないや。
『アグニ、お前は学院に通ってはおらぬのだな?』
「あ、学院っていうと帝都のですよね?無いです。」
『そうか。その年齢でそれだけ強ければ通う必要はないかもしれんが、通いたかったら言いなさい。武術大会優勝は十分推薦に有利になるが、私も推薦状を書いてやろう。』
「え!そんな!恐れ多い…」
そんな俺の将来のことを考えてくれるなんて…いい人だ…
『個人的には第1学院に行ってもらいたいがな。貴族の子女が多くいるが、軍人志望も多い。将来の良いパイプ作りになるぞ。私の出身校でもある。』
「へぇ、そうなんすね…」
『もちろん、それ以上に是非わが軍に招きたいが…』
「…軍にですか?」
『ああ。どうだ?入る気はないか?給料もいいし、そなたは『治癒』も使えるし、何といっても副総隊長を負かしたほどの強さだ。最年少で隊長格になれるやもしれんぞ?』
「…ありがとうございます。けど俺、もっとこの世界を知りたいんです。もっといろいろなところに行って学んで、人に会いたいです。なので、、、お受けできません。」
精一杯誠意をもって答えると、大公様は柔らかい笑顔をみせた。
『そうか、そうか。アグニ、この世には星の数ほど人もいる。人の生き方、考え方もまた星の数ほどある。それら全てを理解すること、賛同することは難しいかもしれんが、その判断もまた、人を知ってからしかできない。私はこの血筋、王家としてこの場から動くことはできん。けどお前はできる。どうか、私の代わりにたくさんの出会いをしてほしい。』
「はい…!!ありがとうございます…!」
大公様の言葉はすっと心に入ってきて、これからの歩みに勇気をくれた。
驕らず、蔑まず、それでいて冷静で強く、優しく
こんな大人になれたら、なんて思える方だった。
でもたぶん…俺より年下なんだろうな…
大公様みたいな大人になるのって
いつになるんだろう…
・報酬の1ウェンは100万円のイメージ。
・トッポピオの敬礼の仕方は、警察のやる敬礼とよく似ていますが、手のひらを見せた形で行います。
これは「額に付けている芸石を隠し(昔一番主流だったのが芸石を額に付ける形だった)、敵意がないことを示す」のと「掌に芸石を隠してないですよ」の意。




