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「っしゃぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
4日後。リンがダンジョンに出発して、すぐのこと。
支部に手紙が届き、ガッツポーズを決める。
「んにゃー、まさかリンちゃん顎で使うとはにゃー」
「助かったよ猫屋敷」
「にゃーにゃー、構わんよ。こっちもがっぽり稼がせてもらったんで」
「……だろうな」
ADF荻窪支部の談話室に居るのは、俺と一期下の後輩――猫屋敷みや。なお芸名であり本名は知らん。
彼女は動画配信者であり、ダンジョン攻略者でもありながら、ADFの契約探索者である。3足の草鞋――といえば聞こえはいいが、実際はどれも中途半端だ。
それでも、成人女性でありながら身長140cmしかない低身長かつ童顔、常に装備している猫耳フードパーカー(ダンジョン産だ。製作者の趣味を疑う)で、配信者としてはちょっとだけ有名である。
「結局、全部集まったのかにゃー」
「あぁ、16枚全部な。……まさかこんな簡単に集まるとは」
「そりゃあにゃー、リンちゃんが配信出て『ハーロット・セブンというカードを集めている友人がいます。余らせている方がいれば、ADF荻窪支部に送付してください。後日謝礼を送ります』なんて言っちゃったら、そりゃー皆送るわにゃー」
「数枚来ればいいかなーと思ってたけど……廣重麟の知名度って本当にヤバかったんだな……」
「にゃー。そんなリンちゃんをあんな雑に扱うオッサン、今のお気持ちは?」
「オッサン言うな同年代だろ」
「にゃっ!? 乙女のプライベートは秘密にゃー!!」
猫屋敷のひっかき攻撃! 海里に3のダメージ!
「いや、つーか……同年代じゃないとあそこまで昔の話通じねーって……」
「それはまー……、つい地が出ちゃったと言いますかぁー……」
「語尾抜けてんぞ」
「にゃっ!」
「三十路でそのキャラ、つらくないか」
「辛くねえよアホンダラ」
「急にそれは怖いよ!?」
すげー低い声で言われて悲鳴出るとこだったんだけど!?
猫屋敷とはADFの忘年会で初めて会ったんだけど、俺が中高生くらいの時に流行ってたアニメとか漫画とか動画サイトの話めっちゃ出来たんだよね。あーこれ同年代だなーって初対面から察したよね。
「ん? そういえばなんで残りが16って分かったのにゃー? ナンバリング?」
「あ、そうそうそんな感じ」
「ふーん…………」
机の上に並べているハーロット・セブンのカードを見て、猫屋敷は頷く。
「全然ナンバリングズレまくってるけど」
「えっマジで!?」
「ほらここ見るにゃー」
猫屋敷がびしっ、と指差したのは、カードイラストが描かれている左下――
「いやなんも書いてないだろ」
「ほらやっぱナンバリングなんてないにゃ」
「…………」
カマかけられたのか。弱いな俺。ドヤ顔決める猫屋敷。ぶん殴りてえ。
「まー、フレーバーカード集めなんて何がしたいのか全然分かんないけどにゃー。嘘で良いから話してにゃ?」
「これ集めれば宇宙戦艦に入れるんだ」
「ぶふっ!」
普通に吹き出した。嘘で良いから話せっつったのお前じゃん。
「ま、まぁ、海里くんが言うんならマジかもしれないし……」
「マジだよ」
「うーわ真顔だ怖っ……、どっかのカルト入った?」
「入ってねえよ。……カルトだったらどんだけ良かったことか」
「…………」
カードをじっと見つめる猫屋敷。お、それは医療モジュール。良いとこ目に付けるね。それが俺を生き返らせたモジュールだぜ。
新しく見つかったモジュールだが、触れても例の文字が浮かび上がったりしない。恐らくハーロット・セブンの艦内でないと機能しないのだろう。
通用口モジュールからしか外からの出入りは出来ないようで、それ以外のカードで転送できるのは艦内に居る時だけ、ということは今の段階でも分かっている。
ぴとり、と触れ、小さく呟いた。
「『iubeo』……なんつって」
――暗転。
すちゃっ、と着地。流石に数回やると慣れるな。
「…………え、マジ?」
そこは、ハーロット・セブンの艦内だ。白一色の壁材は、うっすら発光している。
だが、見覚えがない。ここは――
「ってあぁ、通用口って、これか」
すぐ背後にあるものを見て、察した。体長3mくらいの巨人でも出入り出来そうなほど巨大な扉が、虚空に向かって開かれていた。
虚空――としか表現出来ないのは、あちら側が何も見えないから。闇だ。完全な闇。
闇に向かって手を伸ばしてみると、扉の内側に入った部分が見えなくなる。艦内で使用すると扉を通ってダンジョン外に出ることになるが、ダンジョンの外から使うとここにやってくる仕様なのだろう。
「うんうん、……まずいな」
何がまずいって、そんな――
「…………『iubeo』」
そう呟くと、再び暗転。
ソファの上に華麗に着地、海里マン!
「…………」
「…………」
猫屋敷が、突如無から現れた俺を見て口をぽかんと開く。
そして俺も猫屋敷を見、――次いで談話室の4隅に設置された監視カメラを見た。
「なんか今、海里くんが30秒くらい消えたような気がしたんだけど…………」
「すまん猫屋敷、もう一つ頼んでいいか」
「何?」
「監視カメラの記録を消してくれ」
「それは無理だよっ!?」
無理か。残念だ。そ
だが、まぁ――
「見てる奴いなきゃ気付かないか……?」
「え、うん。事件でも起きないと監視カメラの映像とか見なくない? かにゃー」
「思い出したかのように取ってつけたような語尾を……」
「…………話してくれるかにゃー。話してくれないと、人が急に消えたって偉い人に報告上げちゃうおっかにゃー」
「脅迫だ!」
それは純度100%の脅迫なんよ。
「さっき海里くん言ってたよね、iubeoって。……あ、ラテン語か」
「お前の頭Googleとかに繋がってる?」
「一般常識だろうがにゃー。命令とかそういう意味だよね、んーと、海里くんの言ってることがガチで、このカードを持ってると宇宙戦艦に乗れる……と仮定して」
「うん」
「既に16枚、海里くんの持ってるものと合わせて33枚この世にあって、そんな情報が出回ったことがない理由。……あ、そっか。海里くんが過半数持ってたんだ。過半数のカード持ってるとアンロックされる仕組みかな。それじゃあ残りのカードを集めたかったのは……、他の人に過半数を集められるのを阻止するため、あと考えられるのは――」
あっという間に推理が進んでいく。やべえ、こいつ普段バカっぽいことしか言わないのに普通に賢いぞ。
「同じカードが何枚もあるね。でも1枚しかないカードもある。ってことは枚数が違うことに意味がある。まず入場には過半数の所持という第一段階があり、第二段階として中の移動または扉のアンロックに特定のカードを複数枚揃えることが必要と推定できるね、……にゃ!」
「また取ってつけた語尾を……、大体正解。すげーな猫屋敷」
「お、流石わたし。青大出身は伊達じゃないね」
「そこは嘘でも東大って言ってくれよ! 微妙にすごいって言いづらい……っ!!」
「海里くんの最終学歴は?」
「偏差値40の工業高校」
「ぷっ」
「どこ大出てようが今同じ会社にいんだから同じ穴のムジナだろ……」
「まーそうとも言うけどにゃー」
くすくす笑いながら、猫屋敷はカードをくるくる回す。「見た目は他のフレーバーと一緒かにゃー」なんて言いながらカードを見、――呟いた。
「『iubeo』」
「おいお前!?」
「あ、行けないんだ。ってことはやっぱ海里くんじゃないとダメなんだ?」
「それで行けたらどうするつもりだったんだよ……」
「それはまぁ、その時はその時で。他の人も連れてけたりする?」
「知らん」
「……え、リンちゃんに言ってない?」
「あぁ、帰ってきたら話す約束だったんだが」
「…………」
じっと、猫屋敷が俺を睨む。猫が睨んでるみたいなそんな顔だ。なんか瞳孔も猫っぽいんだよなこいつ。
「あーりえねーにゃー……」
「何で!?」
「協力させておいて話してないとか……普通にカスだにゃー……」
「ぐっ……」
それ言われるとぐうの音も出ねえよ。でもタイミングがさぁ、なかったんだよね。聞かれもしなかったから興味ないのかなって思っちゃって……。
聞かれる前に言えってことね、うっす。女心分からない歴33年舐めんなよ。
「ま、まぁさ、帰ってきたら話すつもりだったしさ!」
「調べてないんならいっちょがみさせろよーって言いたかったけど、リンちゃんも入ってないとこにわたしが行ったら流石に殺されそうだからにゃー……」
「いや殺されはしねえだろ!? どんだけ狂暴なんだよお前の中のリンは」
「にゃ、海里くんは分かってねーにゃー。初めてを奪った女とか、一生恨まれるやつ」
「…………なんか表現がエロいな」
「オッサンキモいにゃ」
「うるせえなあ!? 俺オッサンならお前もオバサンなんだよ!」
「はぁあ!? 誰がオバサンだってこのピチピチ美少女を前にしてよぉ!」
「その表現がなんとなくオバサンくさい!!」
顔も声も10代の女の子みたいな感じなのになんでこんな同年代っぽいんだよこいつは。これでマジで10代ならビビるんだわ。
「んにゃ、わたしはリンちゃんの後でいーにゃ。面白いこと分かったら教えてにゃー」
「あ、あぁ。……配信はすんなよ」
「……チッ」
「おい」
「色々試したいだろうし、今日は解散でおけ?」
「あぁ、マジで助かった。ありがとう」
「どーいたしましてー」
そう言うと、猫屋敷はててて、と小走りで出ていった。
うーん、動作はなんならリンよりだいぶ幼く見えるんだよなぁ。やっぱサイズと顔だろうか。実年齢はリンの倍くらい行ってる可能性まであるんだが。
「……さて」
一人になった談話室で、カードを並べる。
新たに入手出来た16枚の内訳は、予想通り居住モジュールと格納モジュールで12枚。あとは通用口モジュールが1枚、射撃管制モジュールが1枚、工廠モジュールが1枚、そして――
「あったのか、2枚目の商業モジュール……っ!!」
射撃管制と工廠の方も気になるが、必要枚数が足りなければこちらへは移動出来ない。だが商業モジュールカードは既に1枚持っており、移動に必要なのは2枚だ。
つまり、確実に行ける場所が増えた。16枚もカードが増えていける場所が1か所しか増えないのは解せないところではあるが、まぁ考えてみると17枚持ってて医療モジュールと通用口モジュール以外に入れなかったので、確率としては似たようなものか。
「んじゃ、行ってみるか」
ともかく、揃ったなら行くしかないので、カードをホルダーに収めて談話室を出た。監視カメラを見ていた人が居ないことを祈って。




