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誰も居ない部屋は、随分と広く感じる。
というか実際広い。何と比べればいいか分からないが、少なくとも教室とかよりは広いと思う。もう15年くらい学校なんて行ってないが。
見回していると、ふと、視界に止まる。見慣れたものが置かれているように見えたからだ。
棚に近づくと――
「おぉ、お前も無事だったか……」
ベルトに取り付けるタイプのカードホルダーに、ウエストポーチ。ポーチの中にはポーションやスマホが入ったままだ。ハーロットが俺のついでに回収しておいてくれたのだろう。
カードホルダーを開き、『ハーロット・セブン』のカードを一枚ずつ並べる。
これまでフレーバーカードとしか認識していなかったから、どこのモジュールなのかまではあまり気にしていなかった。というか手抜きなのか実際そうなのかは分からないが、イラスト自体がほぼ同じなのだ。
医療モジュールだけ明らかに他のと違うので目についたが、居住モジュールも通用口モジュールもビジュアルがほとんど一緒だ。なんでだよ。そこは変えろよ。
居住モジュールが『居住区の中』じゃなくて『廊下から見た扉』なのが原因だと思う。そりゃどこも扉か通路になるだろ。デザインセンスがヤベェんだわ。
整理を終えると、数えるまでもなく明らかになることがある。
「……ほとんどが居住モジュールか」
17枚中、9枚が居住モジュールであった。つまり居住区であり、ここ医療モジュールのような特殊な機能はなさそうである。
残る8枚の内訳は、今回手に入れた医療モジュールの他、格納モジュールが5枚、通用口モジュールが1枚、商業モジュールが1枚だ。
入手出来ていない残りの16枚は分からないが、この割合からすると居住モジュールが半数近くを占め、格納モジュールが3割か4割程度あると推測される。
「このモジュールカードがあるところには移動出来るってことで良いんだよな。……『iubeo』」
居住モジュールを手に、先程教えられた言葉を呟くが、何も起きない。代わりにカードの表面にこれまでなかった文字が浮かんでいる。
「なになに、『モジュールの解放条件を満たしていません。9/35』……なるほどなるほど」
9、それは居住モジュールカードの所持数だ。ということは、35枚集めないと居住モジュールには移動出来ないということになる。
ならば、と医療モジュールに触れてみる。『モジュール解放中 1/1』――こちらは1枚で移動出来るカード、ということだ。
そして、格納モジュールの方は『5/20』、通用口モジュールは『1/1』――
最後に、商業モジュール――『1/2』
「惜しいっ!!」
あと1枚あれば商業モジュール入れるのに、これは流石に悔しすぎる。
もう1枚をどうにかして入手したいところだが、最近出品されてるのを見た記憶はない。
「宇宙戦艦……、もうちょい探索してみたかったけど、まぁ無理かぁ……」
とりあえず医療モジュール内を一通り歩き回ったが、特に何もなかった。うん、まぁ見たら分かったんだけどね。一応ね。
他のモジュールで入れるところはない。諦めて通用口モジュールを手に、「『iubeo』」と唱えた。
――足元が消えた。視界は闇に染まり、ゆっくりと身体が落ちていく感覚。
ダンジョンに入る時と似ているので、探索者は皆慣れてるアレだろう。そう、ワープってやつだ。
「あだっ!」
縦軸がちょっとズレたのか、どしんと尻から床に落ちた。普通に痛い。
「って、外か……?」
ダンジョンの中ではない。外だ。見慣れた商店街の風景だが、どこもシャッターは降りている。
暗いは暗いが、僅かに陽が出てきている。夕方はなく朝だ。
スマホを手に取ると、ちょうど電波を拾ったのか、無数に通知と着信履歴が飛んでくる。
メッセージ通知300。着信履歴は200くらい。着信履歴はほぼすべてがリンで、嫌な予感がしながらもメッセージアプリを起動すると、『おい』『返事しろ』『頼むから』『ごめん』――まぁそんな感じのおびただしいまでの連投がつい先程まで続いている。
して、メッセージに既読通知がついた、次の瞬間。
――ぷるるるる、と着信が。
『海里!?』
「おー、リン。生きてたぞ」
『今どこに居る!?』
「荻窪ダンジョン出てすぐ」
『――今行くッ!!』
ぷつっ、と通話が切れる。
「いや今行くって――」
ADFは国内にいくつも支部がある。とはいえ工場機能があるのはごく一部で、ほとんどは契約探索者が納品であったり情報交換であったり休憩であったりに使われる、簡素な事務所のようなものだ。
確か、荻窪ダンジョンの最寄りは――
支部のある方角へ、目を向ける。ちょうど朝日を背に、飛び上がる人影が――
「え」
ポニーテールをたなびかせ、こちらに向かって跳んでくる女の影。
いやあ、まさかジャンプしてくるとはね。そもそも人間はビルの上をジャンプ出来るように作られていないはずなんだが。
いくらリンでもそんな、着地のこと何も考えてないことするはずが――
「うおぁあああああ!?!?!?!?」
弾着観測で鍛えた超絶瞬発力で着地点を先読み、そちらに回り込んだ。




