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青白く光る壁が、通路の突き当たりにある。これはまぁ、実質行き止まりだ。
猫屋敷が壁に近づき、じっと見るので少し下がる。――すると、クレイが「距離は関係ないかも?」と漏らした。
「ん? どういうことだ?」
「あーしがあの壁叩いたらさぁ、この、通路全体にばりばりーって雷みてーに電気走ったん。ごしゅの速度じゃ逃げれんかなぁ」
「……すまん、それは人が死ぬレベルか?」
「んね」
頷かれたので、まぁ少なくとも俺は即死するレベルの電気なのだろう。
しかし、その話が聞こえていたはずの猫屋敷は一切動揺していない。流石に本職の斥候か。
「歩いた距離からして、この壁の向こう――3メートルくらい先にはもう階段があるにゃ」
「……つまり?」
「隙間があるから、たぶん小部屋。んー……、その雷の仕組みがなぁ……」
猫屋敷はぼそぼそと呟きながらいくつか道具を取り出すので、邪魔しないように話しかけるのをやめてしばらく見物すること――
――1時間。
思ったより時間かかるな。まぁ即死級の罠だから仕方ないのかもしれないが、長時間戦闘終わってちょっと休憩してすぐ集中出来るのすげえわ。
こいつのこと、ちょっと甘く見てたかもしれない。俺の目には同年代にしてはだいぶキツめの言動の配信者としての姿か、それより前――オタサーの姫プレイをしてる姿しか映っていなかったのだ。
何度か共闘したことがあったリンはともかく、猫屋敷と共闘するのはそういえば初めてである。同期の契約探索者同士といっても、元々はパーティで、ソロになってからは人が少ない深夜にしか魔石狩りをしてないようだったので、救援とかに駆けつけても猫屋敷がその場にいることはなかったのだ。
――まぁ、仮に同じ時間に居ても救援無視しそうだな、とも思うが。
額から垂れる汗を拭いもせず壁を調べていた猫屋敷だったが、急に立ち上がると「みゃああああああ!!!!」と叫んだ。
「ど、どうした? 狂ったか?」
「ついに狂ったとか言わないでっ!? 調べ終わったのにゃ!!」
「……あ、そっちか」
「そっちかって何よぉおー!! んで結論先に言うけどこれ、壊して良い壁にゃ」
「「壊して良い壁?」」
俺とクレイの声が重なった。でもあれ、雷が出るって言ってたよな? もう罠解除終わったってことかな。
「んーと、攻撃されたら自動反撃される感じの罠があるんだけど、」
「解除したんだな?」
「それが、罠自体は壁の反対側にあるわけ」
「……反対側? じゃあ来たとこ戻って壁ぶち抜くのか?」
「セオリーからしたらそれはないかなぁ」
だが、猫屋敷はそれが分かってまだ満足出来ないか、「うにゃぁ……」と漏らす。
「ただ、クレイちゃんが殴って無理ってのがなぁ」
「壁が固い……とかか」
「そゆこと。こういうパターンは罠ごとぶっ壊さないといけないんだけど、クレイちゃんが無理ならリンちゃんでもたぶん火力が足りない。――ってなわけで、海里くん」
「お、おう」
「マジのマジのマジの全力で、おもっきし攻撃してみて」
「…………おう」
となると、――どっちだ?
「クレイ、761と218ってどっちが威力あるんだ?」
「そりゃもちで761の方。けど――」
「けど?」
「あれ、おーばーらっぷ? あれ重ねたのこんなとこで爆発させたら、ごしゅはぜってー爆風で死ぬわ」
「…………そうだな」
そういえば狭い通路で爆発させて爆風で吹っ飛ぶの、ちょっと上の階でやったわ。
「階段まで戻って『射法・偽』でここまで飛ばす……自信はないなぁ……」
『射法・偽』はリアルタイムの視線誘導または事前にルートを指定して飛ばすことになるが、どちらにせよ見えていないところを狙うのは中々難しい。
通路の先からここを狙う場合はルート指定ということになるが、あくまで射出前に視線で線を敷くイメージだ。見えないところにルートを敷くことが出来ないわけでもないが、数メートルならともかく、10分くらいは歩いた距離を目視無しにルートを敷ける自信はない。
となると――
「……足りなかったら反射ダメージで死ぬよなぁ」
「ま、別に良いんでね?」
「クレイさん?」
「死んだらあーしが生き返らすし、ね?」
「…………言われてみるとそうだな」
それするとクレイがまたちっさくなっちゃうんだけど……、まぁ言われてみるとそうだ。
一度死んだだけで終わりなら、もう2回も死んでる俺はとっくの昔に終わってるはずだった。アサシネイトに殺された、あの時に。
――俺には、制限付きの蘇生が出来る。ならば、ここで臆している場合じゃない。
「……まぁ、ハーロット・セブンの弾で壊せないような壁、どうやって壊すんだって話だしな」
「それはそうにゃ。んだからたぶん、そこまで固くない……かも? んでもわたしは逃げてるね」
「おい」
「いやだって雷なんて避けられるわけないしわたしは死んでも生き返らせてくれないんでしょ!?」
猫屋敷がクレイに叫ぶと、クレイは「え、うん」と即答する。
「非情にゃぁああああああ!!!!!!! 終わったら呼んで」
叫ぶだけ叫ぶと、猫屋敷は荷物を片付け通路を戻っていった。
――んで、10分ほど待機する。途中で倒れてなければ流石に階段に着いた頃だろう。
「うっし、壊すぞ」
「うぃー」
少しでも威力を上げられるよう、射法に重複を重ね――
ぶち込んだ。通路とほとんど同じ大きさまで拡張された鈍色の弾丸は、正面の壁を砕くと一瞬光に包まれて消える。――安全地帯に外から攻撃をしたときの反応だ。
壁が砕けるその瞬間。一瞬、ばりっ、と電気が走るのが見えたが、特にこちらまで電気が飛んでくることはなかった。――クレイが俺を庇うように抱き締めてくれたが。あったかいぜ。
「あれ、なんともない系?」
「っぽいな。クレイ」
「んー?」
「……放してくんね?」
「え、やだ」
「やだかぁ……」
それなら別に良いか。前までのサイズならともかく、今のサイズのクレイだと……なんか犯罪臭がエグいけど、本人が良いなら犯罪じゃないだろ。あと未成年どころか俺より遥かに高齢だし。
マジで全く放してくれなかったクレイだが、通路の先から猫屋敷の足音が聞こえてきた途端、ぱっ、と離れた。恥ずかしいんだろうか。そんなキャラだっけ?
「あれ、まだ見てないのかにゃ?」
「あぁ、セーフエリアっぽいけど一応な」
「んじゃ、失礼してー」
猫屋敷は瓦礫をぴょんと飛び越えると、小部屋に入り――
すぐに何かを見つけたのか、カードを手に取り――、がくり、と首を落とした。
「ゴミにゃ」
「ここまで来てゴミ!?」
「や、レアではあるんだけどぉ……」
宝箱とかでなく床に直置きされてたようで、何枚かカードを拾った猫屋敷がとぼとぼと肩を落としながらこちらに戻ってくる。
して、その手に持っていたカードには、確かに見覚えがあって――
「ハーロット・セブンにゃ……………………」
「……ははっ」
流石に笑うだろ。ここに来てそれかよ。
いや、確かにレアは7だからさ。最深部に相応しいドロップではあるんだよ。でも荻窪上層でも出るようなカードがこんな――
「え?」
しかし、クレイが声を漏らす。
ゆっくりと猫屋敷の方に近づき――、カードを持つ手ごと、握った。
「クレイちゃん?」
「……ごしゅ」
「どうした? 良いモジュールでも――」
「違う」
「……ん?」
「ハーロット・セブンじゃ、ない。だって――」
「…………あ、」
流石に俺でも気付いた。
ハーロット・セブンなわけがない。だってあのカードは、荻窪でしかドロップしないはずだから。
次元断層だかナントカ値だかの影響で、ハーロット・セブンと繋がっている唯一のダンジョン――それが荻窪ダンジョンだ。
つまり、ここ――那須ダンジョンでハーロット・セブンのカードがドロップするはずがない。ならば、それは?
猫屋敷が持っているカードを、じっと見る。確かにハーロット・セブンのモジュールカードに酷似している。猫屋敷が見間違えたのも無理はない。
だが、そのカードの名は――
「『Harlot・ONE』…………」
クレイが、小さな声を漏らす。
いつも元気なクレイにしては珍しく、ひどく落ち込んだ声色だ。
立ち尽くすクレイになんと声を掛ければ良いか、今の俺には分からなかった。




