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暴れていた掘削機が塵へと変わるのを、俺たちは呆然と眺めていた。
もう、思考に費やす体力すらほとんど残っていない。リンは天井から降ってきた猫屋敷をキャッチし乱暴に下ろすと、ふらふらと壁にもたれて目を閉じた。
唯一まだ元気なクレイが、塵がなくなったところにてこてこと歩いていき――
「ごしゅ、これいいやつ?」
カードを拾うと、座り込んだ俺のところに持ってきてくれる。
「あー……、割と。ただ誰かが使うわけでもなさそうだな……」
レア7の装備カードやスキルカードがいくつか。流石にダンジョンボスだ。そのくらいのドロップはあって然るべきだが、見たことのないユニークドロップではなさそうだ。
(……ん?)
なんだか違和感がある。
今俺たちは、確かにボスを倒した。だが――
「ラスボスじゃねーのかよ…………」
気付いてしまったので声を漏らすと、猫屋敷が「嫌にゃぁああああ……」とか細い悲鳴を上げる。リンはもう寝てるのか、返事はない。
そう、仮にこいつがラスボスだったなら、迷宮が初期化されるはずだ。最深部から外に出るためのワープゾーンがボス部屋に現れ、簡単に帰還出来る――はず。
そのはずなのに、どこをどう見てもワープゾーンなんて見当たらない。俺が攻略したことあるのは15年前の1回だけだが、少なくともワープゾーンは探さないといけないほど隠れたところにはなかった。
それがここにないということは、こいつはただのフロアボスであってラスボスではなかった、ということになる。
「嘘だろ…………」
俺の落胆の意味が分からないか、クレイは首を傾げて床を指差した。
「ん? でもこの下、たぶんめっちゃ狭いよ?」
「狭いっつっても……、どんくらい?」
「ごしゅの部屋くらい? 知らんけど」
「それは狭すぎるだろ!!」
え、ワンルーム? いくらなんでも狭すぎる。
流石にボスは居なそうだが、ワープゾーンだけ別の階層に作られるなんて聞いたことがない。とはいえ――
「……敵は?」
「んー…………」
クレイは、床をじっと見つめ――
「流石にそこまでは分かんないかなぁ、いちよ、あーし一人で見て来よっか?」
「……すまん、頼む」
ここは全員の体力――というか気力が回復してから行くべきだとは思うのだが、流石に5時間続くボス戦で消耗された気力を回復するのに、生半可な休憩では厳しい。このフロアに降りてくる前も寝てたんだけど、今はもうがっつり寝たいレベルだ。
クレイを一人で向かわせるのはリスキーというのは分かるんだが、思考力がそれ以上回らない。仮にワープゾーンがあるとしたら、家で休みたいし、リンを休ませてやりたい。
クレイがてこてこと部屋の奥に歩いていく。5時間戦闘の後に片時も休むことなく普通に動けるの、宇宙メイドの異常さをここまで感じることそうそうないね。
そして、30分くらい待ったろうか――
「ごしゅーーーー」
どたばたと、部屋の奥からクレイが現れた。
「ど、どうした!? ボス居たか!?」
「ボスは居なかったんだけど……、壁? なんか壁あって」
「「…………壁?」」
ようやく動けるようになった俺と猫屋敷は二人がかりでリンを動かしシュラフの上に載せると(寝てる人間を中に入れるのは無理だった)、クレイの方を見る。
「なーんかー、どっかで見たことある壁だなーって色々調べてて、なーんかめんどくなっちゃってモップで叩いたらー」
「……お、おう」
「ばりばりー、ってなってぇ、んーで、逃げてきた。ビリってして服ちょっと焦げたしもーっ!」
「…………そ、そうか」
ぷんぷんしてるとこも可愛いぜ。確かにメイド服の端っこちょっと焦げてるな。さっきのボス戦でも傷一つ付かなかった宇宙メイド服。いや冷静に考えるとそれはそれでおかしいな。
でもやっぱクレイ一人で行かせたの失敗だったかも。やっちゃいけないことコンプリートしてるわこいつ。一人の時に罠全開なものを触ったり調べるのはやめようね。
「……よし、猫屋敷」
「うにゃっ!?」
「行ってこい」
「犬じゃないんだけど!?」
素のツッコミが返ってきた。……仕方ない。
「クレイ連れてっても良いから」
「いや自分は動かんのかーい!」
後頭部にすぱーん、と張り手が入る。
――その、瞬間。
一瞬だけ、背筋がゾクリ、とした。
なんだろう、殺気――だろうか。
「……ん?」
そちらに立っていたのは、クレイだ。
普段通り、何考えてるか全く分からん様子で、身体を揺らしてるクレイしか居ない。あれ、じゃあ気のせいか?
(……まぁいいか)
猫屋敷も一瞬だけクレイに視線をやったので、何か感じたのかもしれないが、結局殺気(?)の正体は分からなかったようで首を傾げる。
「……しゃーねえ。俺も行くか」
「最初からそうしてにゃー……。わたしが一人で罠解除してお宝持ち逃げする心配とか、しない?」
「……いや持ち逃げも何も、どうせお前のもんだろ」
「…………」
一瞬フリーズの後、「あ、そうだった」みたいな顔をする猫屋敷。こいつ当初の約束――報酬全部持っていっていいって部分忘れてただろ。1000万の威力すげえわ。
パーティに居るだけでドロップ運がハチャメチャに上がる謎仕様持ちのクレイが居るお陰か、今回のダンジョン攻略によるドロップ品売却額は1000万どころじゃ済まないと思うが――、まぁ現金とカードだと現金のが高そうに見えちゃうよな。それは仕方ない。
重い身体を押して、3人で部屋の奥に進む。すると、小さな階段が現れた。
フロアボスを倒さないと階段が現れない構造もあれば、フロアボスを倒さなくても最初から階段が存在するダンジョンがある。ここはどうだったのだろう。
正直、そんなの調べてる余裕はなかった。仮に最初から階段があったら安全地帯なことは間違いないので、戦闘中に猫屋敷が逃げてたような気もする。
3人横並びになれないほど狭い、民家の階段くらいの幅の階段を下りていると――
「……結構降りたな」
「体感、地下10階分かにゃー」
「そんなに降りたのか……」
ようやく下の階層に降り立った。
そして、そこにあったのは、通路だ。
「モンスターは?」
「反応はないけど、奥に何か……変な反応あるにゃ」
「変って……あぁ、壁か」
そういえばクレイが言ってたな。壁があったって。
行き止まりだったならそんな表現はしないはずだから、つまり行き止まりという意味ではなく目的地に壁があったということになるが、普通は奥に壁があったら「壁があった」じゃなくて「行き止まりだった」って言うよな。
(……どういうことだ?)
通路は案外長い。ほんのりカーブしているようで、歩いて5分くらいしたところで猫屋敷が「ドーナツ状になってるにゃー」と漏らした。なるほど、そういうことかと頷いた。
そして、行き止まりに辿り着き――
そこに会ったのは、青白く光る壁であった。
マジで壁があるんだ。




