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(来なきゃよかった来なきゃよかった来なきゃよかった)


 ずっと、ぐるぐると思考が回る。

 そもそも私の構成(ビルド)は、()()()()斥候(スカウト)と呼ばれるものだ。

 だって、パーティに居る間は戦わなくてよかった。皆が私を守ってくれたし、戦闘に参加しないでも誰も嫌な顔一つしなかった。


 オタサーの姫と、ADFに入ってからずっと陰口を叩かれていたのを知っている。

 でも、別に良いじゃないか。あちらが求める姫像を演じているだけで、誰も損をしていない。あちらは騎士プレイが出来て楽しい、こちらは姫プレイが出来て楽しい、WIN・WINだ。

 だから、陰で何を言われようが気にしなかった。


 ――もっとも、それはパーティが解散するまでのことだったが。


 非戦闘系構成(ビルド)の契約探索者など、パーティ単位で契約している者以外はまずいない。

 だから、パーティが解散した時、どこかのパーティに所属しようと思っても――


 どこも、私を受け入れようとはしなかった。だから、ADFに居続ける限り、ソロで活動せざるを得なかった。

 パーティに居た頃、偶然入手したレア8の短剣『輪廻の短剣(リインカル)』は、装備に必要な最低限しか(STR)を振ってない私には過ぎた代物で、荻窪上層くらいなら余裕で狩ることは出来た。

 皆と一緒にADFを抜けて、新しいパーティを組むという選択肢もなかったわけではないけれど――


(都合が良いパーティが、そんなあるわけないし……)


 次のパーティは、ガンガン高難易度ダンジョンを狙いに行くかもしれない。

 次のパーティは、斥候(スカウト)にも戦闘への参加を求められるかもしれない。

 次のパーティは、前のパーティのように私をチヤホヤしてくれないかもしれない。


(結局私は、気楽に安全に、適度にお金を稼げればそれでいいのに……)


 探索者として活動を始めたのも、就職してから、色々なパーティの取材だったりゴシップだったりを嗅ぎまわっているうちに、女子は比較的安全な後衛だったり、非戦闘要員としてパーティに加入することが多いと知ったからだ。

 それなら、出来る。上司にせっつかれ、何週間も張って必死に集めたネタは「ボツ」の一言で却下され、まともなPVを稼げる記事が書けなければ極潰しと陰口を叩かれるあのゴシップ系週刊誌の編集部から、抜け出せると、そう思った。


 実際、私には適正があった。

 探索者のではない。()()()


 あっという間に、私を姫とするパーティを作れた。まぁ、若かったからだろう。

 ほんのり危険で、結構安全で、炎上するほどの言動もない、他のパーティとトラブルになることもない、安心安全なパーティだった。


 ――まぁ、()()()()()解散しちゃったんだけど。


(どーしてこんなことしてんのかなー……)


 機銃でガンガン撃たれながら、天井を走る。

 『逆さ走り(スパイダー・ウォーク)』というこのスキルは、重力と関係なく両足を付けてる場所すべてを足場と出来るスキルだ。罠の探知や解除など、斥候(スカウト)にとっては必須級のスキルである。

 もちろん、重力の感覚が逆になるわけではない。ずっと逆さになってると頭に血は上るし、両足が離れるとすぐにスキルが解除されてしまう欠点はあるが、ここのように天井が高すぎるマップでは、安全地帯の確保という意味でも天井に居るのが好ましい。


 リンちゃんの攻撃によって機銃乱射が止まり、敵に狙われてない時に自動発動するパッシブスキル――『陰身(ハイド)』が発動した隙に、短剣を天井に突き刺し、チェーンでぶら下がって休憩する。

 その状態でいくつかの感知スキルを組み合わせ、敵の弱点を探す。


 どうやらこの巨体を構成しているのは一つのモンスターではなく、多くのモンスターが手を繋ぎ合っているような状態らしい。その中に、信号のように走る何かがある。恐らく、そこが司令塔だ。

 信号は、時折止まる。

 そのタイミングで、唯一目に見えない何かを狙える海里くんに指示をし、すると『陰身(ハイド)』が解除されるので逃げ回り――


 ひたすら、その繰り返し。

 ひたすら、ひたすらその繰り返し。


(い、いつまで続くのよ……!!)


 集中力は、とっくに限界を迎えている。

 そもそもボス戦なんて、それどころか雑魚戦すらしたくない。

 よっぽどヘマをしなければ死なない荻窪上層くらいの雑魚モンスターを狩るならともかく、セカンドランクの自分を遥かに超えるレベルのモンスターしか出てこない。

 戦いたくない。安全なところでのんびり待っていたい。


 どうしてこんなことをしているのか。

 意味が分からない。今すぐ逃げ出して、3人に任せたい。


 けれど――


(お金、貰っちゃったし……)


 1000万。そんなの、ポンと人に渡せる額ではない。

 迷宮災禍ダンジョン・カラミティの予兆の報告で1000万なんて、()()()()()()()()()()程度で、普通は30万とか、50万とか、確証に近い情報を揃えた上で100万とか、そんな程度だ。

 一人や1パーティからの報告では確度が低いため、()()()()()()()()()、合計で1000万円というのがダンジョン協会の指標にされているだけ。

 つまるところ、私は何も知らないリンちゃんを騙したのだ。騙してしまった。いくら大金を持っていようと、それを他人が奪っていい道理はない。


 ならば、仕事はする。

 最低限、求められていることだけでも――


 結局、バトル開始から、5時間後。


 ボスがゆっくりと崩れ、安心して集中力を切らした私も、両足を天井から放してしまい落下した。


 ぽすん、と。

 リンちゃんがお姫様抱っこで受け止めてくれた。

 年が一回り以上離れたカッコイイ系の女子にお姫様抱っこされるの、普通に照れるわ。

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